ルーナ村-1
「村長のタカガネ・ツムラだ。驚いておるな。難しいことではない。最初から決めていたのだ。このように向かい入れようと・・・どんな結果になろうとな。」
村長は本来いるはずだった、俺の代わりの一人の村人を見ているようだった。目の前の老人は白髪でガタイが良い。
視線が俺に移る。見定められるような感覚になる。
「魔石の収集には命の危険が伴う。だからお前たちを送り出した時から覚悟をしておったのだ。それでもお前たちは定期的に魔石を送ってくる。だからだろうな、我々もお前たちなら大丈夫だと慢心しておったのだ。もう少し村から増援や物資を送ってやるべきだったな・・・三人ともよく帰った。」
「今回の件はひとえに私、グラムの責任に・・・」
グラムが言おうとしたことを村長は手で遮った。
「グラム、元より責めてなどいない。むしろ今まで感謝しておったのだ。エリンが持っている彼の装備も、持って帰ってきてくれた。そうだな、我々に何があったのか聞かせてはもらえないだろうか?」
グラムは丁寧に一言ずつ事の経緯を話し出した。彼がパーティーを組んでいた事、今まではそのパーティーと行動を共にし、魔石の収集を行っていた事、そのパーティーでダンジョンに挑み失敗した事、ここまで俺と一緒に帰ってきたこと。
「そうか、タロウ殿と言ったかな?二人を助けてくれた上、ここまで連れてきてくれてありがとう。村の長として感謝する。」
「いえ、冒険者として当然の事をしたまでです。それにこの地には元より来る予定でしたので、グラムたちがいてくれて助かりました。おそらく俺一人ではたどり着けなかったでしょう。」
「謙虚な方ですな、どちらにしろ、今日は止まっていかれるとよろしい寝床を用意しましょう。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」
その後、グラムと村の重役っぽい人たちの会話は続き、グラムたちは亡くなった友人宅へと向かっていった。
上手く話しがまとまることを願う。
俺はと言うと一人、村長宅に残ってここに来た経緯を話すことになった。
「ほう、勇者伝説を追って遺跡に行きたいと・・・グラム達を助けてもらった礼もしたい。どうだろう?うちの村から案内をつけようと思うが。」
「ほんとですか!? ぜひ、お願いします!」
「はは、元気なお方だ。どれ、しばらくの寝床を案内しよう。リルカ」
そう呼ばれて出てきたのはエリンよりは若いだろうか、俺よりも年下な気がする。高校生ぐらいの女子だ。
綺麗な青い目で黒髪を肩で切りそろえた元気な娘だ。名前はタカガネ・リルカ。どうやらここら辺はタカガネという苗字が多いみたいだ。
リルカと呼ばれる娘は村長の娘で人懐こい性格だ。止まらせてもらう部屋に案内されるまで色々なことを質問された。
たびたび俺の周りをぐるぐると回り、値踏みをするような視線を向けられる。村長と似たような事をしてくのだな。それと、ここら辺の人は砂や強い日差しから体を守るため体を覆うような服を着ているが、彼女は珍しく露出が多い。それに発育もよい。
だから、動き回られると色々見えそうになって目のやり場に困る。
「タロウさんって強いの?」
「どうかな、一応実績としてはダンジョンの踏破があるけどパーティーを組んでいたから俺一人だとどこまでできるんだろうか?」
自問自答するように答える。
「何それ自慢?でも装備を見た感じ本当に強そうだね。」
「装備を見ただけでわかるのですか?」
何を気にしているのだろう?いまいち考えが分からない。
単純に外から来た人が珍しいだけなんだろうか?それなら俺の強さより外の世界の方が気になると思うが・・・
「変わってるんですね、リルカさんは」
「そうかな?あとリルカでいいよ。堅苦しいのも面倒だからやめて。はい!ここがタロウさんが使ってもいい部屋。ここは外から来たお客さん用の部屋だから、好きに使っていいよ。」
「すまないな、何から何まで至れり尽くせりで。」
「いいの、村の外からくる人は珍しいから、こういう時しか、この部屋使わないの。それにおいしい料理とかも出るし、お話も聞けるから私たちにとっても良い事だらけ。」
「そうか、それならよかった。」
「はい、夜まで楽しみにしててね。」
「ああ、わかったよ。」
リルカは軽く手を振りながら、どこかへ行ってしまった。
かなり親しみやすい娘だな・・・
荷物を置いた後は、夕ご飯まで村の中を見回ったり、遺跡調査の準備をしていた。
村の中を歩いていると、とある家の前でグラムとエリンが話をしていた。
少し歳をとった女性が泣き崩れていた。
それを見て、今来た道を引き返した。
夕ご飯は、豪華でおいしかった。
ここ最近、干し肉ばかりを食べていたから、異国の料理に舌鼓を打った。
酒も振る舞われたが、疲れていたのか、それとも配られたお酒が強かったのか、わからないけれど、すぐにできあがってしまい早々に切り上げて貸してもらった部屋に帰った。
こっちの世界に来てからは珍しく、かなり酔っている。効き目があるか不明だけど、回復の魔石を使っておこうか。俺はよく二日酔いをしていたからな・・・
回復の魔石を使って、体からアルコールの成分だけが、抜けていくイメージを流す。淡い光があふれ、体中を包む。
しかし何か変わった気はしない。ダメそうか?こういう時は水をしっかりと飲んで寝るに限るな。
ベッドに入るとすぐに眠りに落ちた。
違和感を覚えて、薄っすらと目を開ける。
部屋はまだ暗い。しかし月明かりが入っていて部屋の輪郭はしっかりと見える。今までの感覚から午前1時くらいだろうか?
そのまま目線を落とし、違和感の方へ眼を向けた。体にかけていたタオルが明らかに盛り上がっていた。
驚いてめくりあげると、俺は服を着ていなかった。
いや、それ以上に驚くべきことがある。
「リルカ!何をやっているんだ!?」
異様に薄着のリルカが俺の上に覆いかぶさっていたのだ。
「何って、そりゃ夜這い。ていうか起きちゃった。」
「なんでそんなことしてるんだ。」
逃げようと体を起こしたが、腕にうまく力が入らない。体を支えようとしたら姿勢を崩してしまった。まだ酔いがさめてないのか?姿勢が崩れたせいでより密着度が上がる。
リルカの体温と柔らかさが肌身に伝わる。
「なんでって逆に都会の人はやらないんですか。村では何人かはやってるみたいですよ。私はこれが初めてだけど。」
「そんなことやるか!色々危ないだろ!」
「え~そうかな?私はタロウさんなら別にいいよ。それこそどこまで行っても・・・子供とか。」
リルカはそのまま俺の体にもたれかかり、耳元でささやく。女性らしい柔らかさと温かみはよりはっきりと、じんわりと伝わる。
遅れてとても甘い、においが思考を鈍らせた。




