雨の隙間
ヤバい!・・・死ぬ!
咄嗟に空中でノエルをつかみ、何とかなれ!と思いながら光の魔石を使い雷の魔術を放つ。
今までの経験から明確なイメージをすることができれば魔術は、それに答えるように形を変える。
地面が近づく。
俺は強く願った。死にたくない
発動した雷の魔術は、見たこともないような輝きを放ち、急速に光の塊を作る。
塊は一度、球体に収束し、そして、すさまじい勢いのロケット噴射が起こった。
ロケット噴射が勢いを増すほど体から力が抜ける。頭も痛い。ハンマーで殴られ続けているみたいだ。
それでもやめるわけにいかない。少しずつ減速しているからだ。
無理にでも魔術を使い続けていたおかげで、何とか無傷で二人とも着地する。
しかし・・・
「くっ」
「タロウ! 大丈夫か?」
左手に持っていた高純度の光魔石が砕けバラバラになった。
同時に左手にしびれるような痛みが来る。頭痛もひどい。
今のは一体何だったんだ?自分がやったことなのに、まったく再現できる気がしない。
しばらくすると、手のしびれは、ひいた。頭痛もだんだんとよくなっている。
「大丈夫だ。ノエル。それより上の団長と連絡を取ろう。」
「あぁ そうだな。」
俺たちは低純度の光の魔石を使って団長たちと連絡を取ろうとする。
「あ、あれ?」
「どうした、タロウ」
いつものように魔石を光らせるだけのはずなのに、まったく反応しない。
いいえぬ、恐怖がこみあげてくるが、ゆっくりと光りだした魔石を見てホッとする。
それから団長たちと連絡が取れた。
「タロウ このまま南東の方向に向かえばすぐに落ち合えるみたい。すぐに向かうぞ。」
「了解」
どんどん雨脚は強くなる。結局一時雨宿りをすることになった。
崖の一部にできた大きいひび割れに入り、雨が弱まるのを待つ。
濡れた体が体温を奪い、かなり冷える。
「おいタロウなんか温めれるもの持ってないか?」
「持ってないよ。そっちもなんかない? 持ち物出し合おう。」
俺たちは持ってるものを出した。
俺が出したのは低級の光の魔石に閃光の魔石が数個、後は馬車の中に置いてきてしまった。
ノエルも似たような状態で、戦える装備以外は鉛筆とボロボロの紙だった。
「見事になにもないなぁ」
ノエルが落胆し、力の抜けた声が聞こえる。
確かに、このままでは難しいか・・・
「種火は作れるけど、燃やせるものがないな。木々も濡れてるし」
「ちょっと待て、種火は作れるってどうやって作るってんだよ。」
「ああ それなら雷の魔術と、その鉛筆を使えばできるよ。」
ノエルは理解できないみたいな顔をしている。
「じゃあこれ燃やしてみろよ。」
と崖の割れ目に溜まっていた。少ない枯葉や細い木々を指さした。
「いいけど。だけど燃やし続けないとずっと寒いままだぞ。」
「それなら大丈夫だ。とりあえず温まれればいいからな。あの木を燃やす。」
そう言って雨が降り続く中、数ある木の中から数本、枝を折ってきた。
「この木は固いからな、表面が濡れているだけで中身は濡れてない。本当は乾いているほうが、よく燃えるけど無いよりはマシだろ。」
こういうサバイバルに関する知識には、いつも感心する。
「よし!じゃあ着火するぞ。」
低純度の光の魔石に集中し、雷の魔術を発動する。
出力が弱くなるように調整し、電力を鉛筆の黒鉛の部分にあてた。
魔術を使えるようになってよかった。純度に関係なく発動できるのはこういう時に使える。
黒鉛は電気を通し、熱を発する。しかも電力を高く流せれば、結構いい熱量を出す。
俺は、落ち葉に熱を持った黒鉛の部分をあてると、鉛筆や落ち葉から煙が立ち上り始めた。
ここを狙って、追加の落ち葉を置いてやると、だんだん炎が立ち、大きくなっていった。
この炎が消えないように息を吹きかけて大きくする。
額に汗を流すころにはかなり大きな炎に育っていた。
「よし、タロウそこまででいいぞ。このぐらいなら大丈夫だ」
持っていた剣を使って濡れた木の皮を落とし、細切れにした枝を炎の中に入れ始めた。
炎は安定し、周囲をほんのりと照らす。
ようやく暖をとれたことで、少し休むことができた。
「タロウ濡れた服を脱いどけ、乾かすぞ。」
そう言いノエルは勢いよく服を脱ぐ。曲がりなりにも男がいるのだからもう少し気にしてほしい。
少し見えてしまったが、すぐに視線をそらした。
背中合わせにして、暖を取る。
沈黙の時間が続く。結構気まずい。
「タロウは魔術を手にしてどういう気分になった?」
どうしたのだろうか?ノエルにしては珍しく真剣に聞いてくる。
「どういうといってもな、最初は驚いたよ。
だけど最近はようやく、みんなの力になれると思ってるかな。」
興味のままに、魔石を調べていただけだから、なんと答えればいいかわからず、思いついたことを何も考えず話す。
「戦えなければ力になってないと思っているのか。調子に乗るなよ。人は人のできることを、誠実にやっていればいい。」
・・・どうしてここまで、怒っているのだろうか?疑問が先立つ。
「なぁ 少し聞いてもいいか。なんで最近そんなにあたりが強いんだ?」
明らかに魔術を使えるようになってからあたりが強くなった。
ノエルは洞窟の外を見ながら・・・ゆっくりと口を開く。
「・・・・・・大したことはない。
自分に経験があるからだ。
帝国にいた頃、力がついたことがうれしかった。天才だと言われた
調子にのってヘマしちまって先生を傷つけた。だからだ。」
「そっか・・・ありがとう。」
力ある者の責任というものか・・・
昔、ちょっと勉強ができたからって調子に乗った苦い思い出が想い起こされた。
俺はなぜか、すんなりと納得した。
雨は上がり、雲は晴れた。
この後は、俺には壁に見える坂があり非常にスリリングなロッククライミングを行った。
二度と崖下には落ちないことを心に決めた。
ちなみにノエルにかなり、おちょくられながら登った。
帝国まであと少し。