名もなき砂漠-3
目の前の砂の山からサンドワームが飛び出してきたのだ。
だが同時にグラムが飛び出し、ロングソードをサンドワームの牙にあてた。
キンっという甲高い音をたててサンドワームの大きい口が俺たちの横を通り過ぎる。
グラム軌道をそらしたのだ。
台車から降りてサンドワームを切りつけに行ったグラムが魔導三輪に急いで戻ってくる。
「早く移動しよう。まだ数体はいるはずだ。」
グラムはいたって冷静に、しかし短く端的に伝えてくる。
グラムによって吹き飛ばされたサンドワームが起き上がってくる。
だめだ。相手が近すぎる。こいつはここで仕留めておいた方が良さそうだ。俺はクロスボウを使って特殊矢を打ち込む。
サンドワームは砂の中から飛び出すという奇襲性を持っているが、それ以外は普通の生物のようだ。
電撃は普通に効力を発する。
おかげで、サンドワームの体に紫電が走った後、動かなくなった
「今のは何ですか!?」
グランが目を見開いて、聞いてくるが今は説明している暇がない。
また砂の吹上が起こる。
今の戦闘の音を聞いてもう一体出てきた。
「急げ!早く移動しないとまた襲われるぞ。」
俺は叫び移動を促す。
エリンは操縦悍を握りしめて魔導三輪を運転し始めた。
グランとコイルは、台車の上から弓矢を手に取り、追ってくるサンドワームを打つ。
サンドワームはどんどんと数を増やし、いつの間にか5体になっていた。
サンドワームは砂の中にもぐったり飛び出したりを繰り返して追ってくるため、狙いをつけづらく、撃退しにくい。
それにここで迎撃してもまだまだ増えそうだ。
それなら早く移動してしまった方がいい。俺は風の魔術を発動した。
「グラン、コイルそのまま矢を打ち続けて!」
二人とも全力で打ち続けたおかげで雨のように矢が放たれた。俺は風の魔術で思いっきり放たれた矢を押した。
高速で飛来する矢は、砂に潜るよりも早く飛び、勢いよくサンドワームに突き刺さる。そのおかげで2体のサンドワームを倒した。
しかしまだ3体追ってくる。
近くの砂山が爆発し中からもう一体出てくる。本当にキリが無いな・・・俺はさらに風の魔術を強めた。魔導三輪を加速するためだ。
何日も観察していたおかげでサンドワームの生態が少しわかってきた。
サンドワームには行動範囲がある。奴らはどういう理屈かわからないが一定の距離以上は移動しない。と言ってもその距離はそれなりに広いので、逃げ切るのはかなりの労力だ。
それでも戦い続けるよりは現実的だ。
この魔導三輪ならスピードを出せる。逃げ切れるはずだ。これに加えて風の魔術で加速だ。狙い通り魔導三輪はぐんぐんとスピードを上げサンドワームを離していく。加えて、矢の雨を加速して打ち込む・・・逃げ切りは順調だ。
予想通り完全にサンドワームの群れを突き放した。魔導三輪は全員を乗せて砂を巻き上げながら高速で移動している。
普段は魔素の消費と探索を優先してゆっくりと移動していたが、本来は今回のようにスピードが出せるのだ。
「ふう・・・何とかなったな。」
「ええ、一時はどうなるかと思いましたが、うまくいってよかったです。砂漠の上でこんなスピードが出るなんて思いもしませんでした。それにしても、とてつもない魔術ですね。風の魔術と言うのは・・・」
「本当に内緒でお願い。これのせいで、厄介ごとに巻き込まれるなんて、ごめんだからな。」
俺とグランが話していると、コイルが割り込んできた。
「それはどうかな?情報屋としての感だが、タロウ、あんたの魔術はハデなうえに強力だ。否が応でも見つかるじゃないんか?」
「嫌なことをいうなよ。・・・できる限り隠してるんだから。」
「だったらもっともっと身の振り方考えるんだな・・・職業上あんたみたいな人間はたくさん見てきたが、その誰もが実力以上の事を求められて最終的に死んでいる。」
その言葉を聞いて、背筋が伸びた。
サンドワームから逃げてすぐの事だ。気が抜けてしまったことは否定できない。安心したのもつかの間、またサンドワームの襲撃があった。次は探査魔術を使う前だったのでかなり近づかれてしまった。
「くそ、またかよ!?今日は一体どおしたってんだ。」
コイルが叫ぶ。全く同じ気持ちだ。
次は近すぎる。
とっさに風の魔術を大出力で発生させて、サンドワームの頭をのけぞらせる。そのすきにグランがサンドワームをロングソードで深く傷つける。
うまく入った!サンドワームの首?あたりから青白い液体が周囲に撒き散る。
その一撃で倒すことができた。
すぐに魔導三輪を走らせる。
すぐに後ろから2~3体現れる。
しかし、今回は追ってくることが無かった。現れたサンドワームは倒されたサンドワームを食べ始めたのだ。
同族を食べるのか!?
俺は驚いていたが、どうやらそれが普通らしい。グランもエリンも驚いた様子はない。それよりもどんどん現れてくるが食べられているサンドワームに群がってこっちに来る様子はない。
これなら問題なさそうだ。
このままこっそりと移動しよう。そう思い、低速で傾斜を上っているとき足元の感覚が無くなった気がした。
いや、地面が崩れたんだ。地面を見ると大量の砂が流れていた。
サンドワームが大量に地面を這いずり回っていたから、ところどころ地面が柔らかったり、空洞が開いていたりしていたんだ。
魔導三輪と台車に乗っている全員が投げ出されるように、砂の山を転がり落ちている。
偶然勢いがなくなり、ようやく止まった。
焦って勢いよく起き上がる。
周りを見渡すと、幸いにも散らばっていた物は少なく、投げ飛ばされた皆もすぐに起き上がったが、魔導三輪がひっくり返っていた。
急いで戻さないと!
サンドワームは仲間の死骸に群がっているが、いつこちらに来るかわからない。
「皆、頼む!魔導三輪を起こしてくれ!」
流石に大人4人で道具をふんだんに使えば何とか起こせた。魔導三輪がバギー程度の大きさであった事が幸いした。
これがもっと大きかったらこのまま砂漠で足を失うところだった。
だが問題はそれだけではない。蒸気機関が起動しないのだ。転がり落ちた衝撃で内部の部品がこわれたか!?
見た目は汚れているだけで壊れているようには見えない。何が問題なんだ?
「おい!?まだ動かないのか!急がないともう来ちまうぞ。」
「コイル落ち着け!焦ったところで何も解決しないぞ!」
後ろでグラムとコイルが言い合う。少し静かにしてもらえないだろうか・・・強い焦りを感じながら見える範囲で確認する。しかし魔石や筐体にヒビなどは見られない。
すぐ後ろで砂の噴出があった。ゆっくりと振り返ると一体のサンドワームがこちらを見ていた。
驚きのあまり蒸気機関に取り付けられていた火の魔石をつかんだ。サンドワームが近くにいる恐怖と焦りで握っている手に力が入り、ついつい魔素を流してしまう。
理由は分からないが蒸気機関が爆音を上げて再稼働した!どうやらこの火の魔石に魔素を流し続けると動くみたいだ。
「皆、乗れ!再起動したぞ。」
俺の声とともに全員が乗り込み、片手で操縦悍を操作しながら勢いよく走り出す。蒸気機関が爆音を上げたことで、目の前のサンドワームだけではなく、周囲のサンドワームも呼び寄せたことだろう。ここでは止まれない!
火の魔石に魔素を流している腕が熱くなってくる。魔石事態は熱くなることが無いが周りの金属でできた外壁は段々と熱を持ち始める。
「うっくっ」
じっくりと腕が焼かれる感触がある。痛みから操縦がうまくできない。そう思っていると後ろから腕を伸ばしてエリンが操縦悍を握った。期せずして二人羽織のようになった。
火の魔石に伸ばしている腕が赤くなっている。回復の魔石を取り出して、熱を持つ腕に押し当てる。どんどん回復していくが、熱でまた焼かれる。
気持ち悪い。こんな感触は初めてだ。腕を引っ込めたいが、魔素を流すことをやめてしまえば魔導三輪が止まってしまう。
心配そうにグラムが見つめる。コイルが何かを話しかけてくるが、答えている暇はない。エリンだけが冷静に運転を続ける。今度はよく道を見て確実に進んでいるようだ。
流石にかなりの距離を移動したときだった。肉眼でも真っすぐ先に大きい街が見えた。
ちょうど体力的にも魔素の注入が止まってしまう。魔導三輪は速度を失い停止した。




