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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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名もなき砂漠-1

砂漠の走破が始まる。

俺達4人は、人々が寝ている早朝から出発して砂漠の中へと入った。

天候は晴れているが、日が出ていない砂漠は意外と冷える。

これでも地元の人に聞いたところ今は夏らしい。帝国と真逆だ。という事はどこかで赤道を越えていたのかな。


砂漠の砂は黄金色でサラサラとしている。人が踏み込むだけで軽く沈み込んでしまうほど不安定だ。

グラムたちの話だとサンドワームは昼夜関係なくうごめいているらしいが、日中に活動する個体が多いそうだ。それなら夜間に移動したほうがよくないか?と思ったが夜に移動して接敵したとき暗闇の中、逃げ惑う方が危険という事らしい。

という事で朝も早くから砂漠入りした俺は早速、探査魔術を地面に向かって放つ。送信用の光の魔石と受信用の魔導ランプを一体にした杖を、砂の中に突き刺した。

特に何も反応は返ってこない。

「大丈夫だ。サンドワームはいない。サンドワームの情報が少ないから最初のうちは適度に測って情報を得たい。」

「わかりました。最初のうちはゆっくり進みましょう。」

グラムは素直に反応してくれたが・・・


「本当に、そんなことやってわかるのか?」

コイルはまだ怪しんでいる。無理もない、直観では理解しにくい魔術だし、砂漠の前の村で旅に加わったコイルは、実際に効力を発揮している場面に出くわしていないからな。

「そこらへんは問題ない。大船に乗ったつもりでいてくれ。」

コイルは疑いの目を向けながらも素直に魔導三輪が引いている荷台に乗っている。魔導三輪は本体側に俺とグラム、後ろの荷台にエリンとコイルが乗っている。余ったスペースに荷物を満載している。

俺が運転して、グラムが道案内だ。たびたびコイルが口出しして、盗賊を避けながら進む。


魔導三輪はそのままだとタイヤが細く砂の中に埋まってしまい、まともに進むことができない。そこで後輪タイヤに等分配になるように木の板を取り付けたタイヤに変更した。

昔、月面を探索する無人ロボットがこのようなタイヤにすることで、月のサラサラな地面を移動するという記事を見たことがある。それを真似た形だ。

タイヤは水車のような状態になった。これで砂をかきながら進む。

前輪と後ろの荷台はスキー板を取り付けて滑らせることにした。スキー板は滑らせる機能を持った物ならば比較的作るのが簡単なので数枚作って持ってきた。

タイヤの時より、圧倒的に遅いけど、進まないよりはいいし、お手軽に進めるから便利だ。


本当は戦車みたいに無限軌道つまりキャタピラにしたかったけど、意外と難しくうまく作れなかった。

そんな感じでシャリシャリと木の板が砂とぶつかる音を立てながら進む。遅いと言っても疲れ知らずだし、人よりも早いし馬と同じペースで移動する。

なんだかんだ言いながらもかなりの距離を進んでいた。


時折、地面の砂に向かって探査魔術を使う。反応は弱いが魔導ランプは光った。

図体の大きい生物の反応を捉えたのだ。

「皆、生物の反応だ。おそらくサンドワームだろう。戦いに備えてくれ。」 

俺のその言葉とともに魔導三輪を降りて各々が武器を構える。前衛にタカガネ兄妹真ん中に俺がいて後ろにコイルがいる。


しばらくして50メートルほどだろうか・・・視界の正面から外れて右手側に砂が沸き上がる。やはり砂の中にいる生物は、反応はできても正確な位置はつかみにくいな。

しかも有効距離が半分まで落ちている気がする。これはこまめに探査魔術を使っていた方がいい気がする。


沸き上がった砂は時間が経つにつれて晴れていき、一体のサンドワームが現れた。口だけが付いた頭をきょろきょろさせている。エサでも探しているのかもしれない。近くで見ると赤黒く皺の多い体をしている。まるでミミズみたいな体だ。

「どうする?戦うか。」

「いやいや、タロウの旦那、アイツが何体いるか知っているか?いちいち戦っていたらいつになってもつかないぜ。」

コイルは大げさに腕を広げて答える。

「俺も避けられるなら戦闘しないほうがいいと思います。」

コイルとグラ厶が二人そろって答える。

俺も戦闘は得意じゃない。このままやり過ごそう。

自然にできた砂の山に隠れ、サンドワームがいなくなるまで、待機する。しばらくするとサンドワームは砂の中に戻っていった。


夜になる。あれからも何度もサンドワームに接敵したが、一度も戦闘をこなすことなく移動した。

最近の夜の見張りは人数が増えたことで、順番が変わった。トイレのために起き上がると、グラ厶が見張りをしていた。

「タロウ、すまない。トイレに行くついでにあっちで黄昏がれている、妹を連れてきてもらえないか?流石に危険だからな・・・」

グラ厶の指さす方向には砂漠に座って空を見上げ、体育座りしているエリンがいた。星を見ているのか空を見上げて、たびたび膝に顔をうずめている。

「全く、気持ちは痛いほどわかるが、いつもああやっていられては心配になる。どうにかならない物だろうか?」

「何か別の趣味を進めてみるとか?」

「趣味ですか・・・」

グラ厶は考え込んでしまった。


用をすまし、エリンに近づく。

しかし、なんといえばいいのだろう?俺は今まで趣味に生きてきたようなものだから、こういう時なんと話しかければいいかわからない。

余談だが女性と付き合ったこともないので気の利いたことも言えない。

色々考えながら歩くから視線が下がっていつの間にかエリンのすぐ近くに気づくのが遅れて、突然エリンが視界に移って少し驚いた。

「エリン、そろそろテントに戻らないか。夜は体が冷えるぞ。」

「タロウ・・・そうですね。すぐに戻ります。・・・ねぇ、グラムに聞いたんですよね?私の事。」

「いや、まぁ・・・すまん。流石に気になって・・・」

「問題ありません。気になって当然だと思いますし、隠していたわけでもありませんので。」

「その・・・すまん。こういう時、俺はなんといえばいいかわからないんだ。」

「誰だってそうですよ。皆、こんな思いをしないために強くなろうとしているのですから・・・でもいつまでも落ち込んでいたらダメですね。パーティーの士気にも関わりますし・・・」

「そうだ!別の人を好きになってみるとか?」


俺は勢い任せにそんなことを言ってしまう。

「タロウ、私はそんなに薄情な女じゃありませんよ。」

言ってすぐ自分で後悔した。何を言っているんだ。俺は。

そのまま彼女は俺を通り過ぎてテントへ歩いて行った。

俺は何も言えず、そのまま彼女を見送った。遅れてテントに戻る、その視線は落ちていた。


次の日も朝から移動する。エリンは何事もなかったようにいつも通りだ。俺も気にしてもしょうがないので移動に集中した。心の中には拭えないモヤモヤが残ったままだ。


空を見上げると目を開けることがつらいほど強い光。その日は特に朝から暑かった。あまりの暑さに下手に肌を出そうものなら低温やけどしそうなくらいだ。

プシュップシュッと魔導三輪に搭載している蒸気機関がいつもとは違う、不規則な音を出し始めた。そしてスピードがとても遅くなり、ついには止まってしまった。

「故障か?」

コイルがのぞき込んでくる。しかし、大きく損傷しているようには見えない。それよりも触らずとも感じる熱気。おそらくこれはオーバーヒートだ。

まずい砂漠のど真ん中で移動できなくなってしまった。


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