砂漠の前の村
その日は宿泊施設で一泊した。次の日から3人で具体的に、砂漠を突破する対策会議が始まった。
強い朝日が差し込む部屋で話し合いが始まった。
「サンドワームは音以外にこちらを認識する方法はあるのか?」
グラムの方を向いて聞くとすぐに返事が返ってくる。
「いえ、それ以外では判断できないと聞いています。実際、故郷からこちらへ出てくる時、サンドワームと戦闘になりましたが、光や暑さには反応しているようには感じませんでした。戦闘力は突進ぐらいしかしてこないので、一体ぐらいであればどうにかできます。しかし数が多くなったり、不意に攻撃を受けるとかなりきつくなります。」
「戦闘力に関しては理解した。音以外に反応しないなら、探査魔術を使ってもこちらを見つけられる心配は無いな。どれくらいの音に反応してくるんだ?」
「わかりません。しかし昔から物音ひとつ立てず、進むように言われています。」
「という事は小さい音でも反応するということだな。中々厄介だな・・・探査魔術は砂とか壁があると正確な距離が分からなくなるんだ。」
「そうなんですか!?困りましたね。でもわからないよりはマシですね。遠回りでも回避すればいいですからね。後は・・・プエトジ公国までの道順は俺達が分かります。それと魔獣や盗賊などの情報ですね。これは情報屋から買うしかありませんね。」
「情報屋か、確か酒場に行けばいいんだよな?」
「そうです。彼らは基本的にそういうところにいます。苦手なら私たちが言ってきましょうか?」
「いいや、何事も経験だからな、俺もいくよ。」
「では、午後から行ってみましょう。」
その後も詳細な道順について相談を交わした。
時間が立って午後になると俺たちは、何件かの酒場を回った。しかし、今は砂漠を渡れない時期。
酒場に行っても酒場そのものがやっていなかったり、だれもいなかったりした。
「まさかこんな事になってるなんてな。よく考えれば当たり前のことなんだけど・・・」
「そうですね。我々も失念していました。まさか皆がこの村から離れていたなんて。」
「こうなったら情報屋の情報なしで突っ込むか?盗賊にはその時々、対応するってことで。」
「それは・・・最終手段です。タロウさんに手伝ってもらう手前、可能な限り安全に移動したいです。」
確かに旅の安全度を上げるならば、情報は必須だろう。俺だってなるべく戦いたくない。もう少し粘ってみるか・・・
そう思って腰を浮かせた時だった。
「おたくら、情報屋を探しているんだって?」
振り向くと、サル顔の軽薄そうな男が両手を腰に当てながらこっちを見ていた。
なんだ?どうして俺達の事情を知っている?
「あんた達、話題になっていたぜ。なんでも場違いな時期に砂漠を渡ろうとする変な冒険者たちがいるってな。」
グラムが率先して前に出る。
「俺達が情報収集を始めたのは今日のはずだ。いくら話題になっているとは言え、それをこんなスピードで知っているなんて・・・何が目的だ。」
「怪しむのもわかるが、俺の話は聞いといたほうがいいぜ。なんて立って俺は情報屋だからな。」
情報屋・・・しかしそれならば俺たちの事を知っているのもうなづけるのか?うーん?わからない、ここら辺の経験が無くて判断ができない。
「情報屋だというならここら辺一体で一番強かった盗賊が根城にしていた場所を言いなさい。」
突如、それまで黙ってみていたエリンが前に出て高らかにそういった。
「そんなの簡単だ。しかしよそ者のあんた達にそれを言ったところでわからないんじゃないか?」
「問題ないわ。私たちはこっちの地方の出身だもの。」
「なるほど、実力試しってことね。簡単さ、西の方角に行くと砂漠のど真ん中に渓谷が現れる。そこはいくつもの盗賊が根城にした結果、穴ぼこになっている。」
「それで?」
「焦るなって、近くに古代の遺跡がある。そこの入り口と直線で交わる穴。それが盗賊の根城だ。」
さて、俺にはよくわからないが、判定のほどはどうだろう?
「あっている。どうやら本当に情報屋のようです。」
そういってエリンはこちらを向いた。
「信じてくれるっていうことだな?」
「はい、先ほどは失礼しました。ですが、まだまだ聞きたいことがあります。そうですね・・・どこか酒場に入って話し合いといきませんか?」
「おう、いいぜ!俺はコイル・ドルトルってんだ。コイルと呼んでくれ。後、堅苦しいのは慣れてない。気楽に宜しく」
「サトウ・タロウだ。こちらもタロウでいい。」
俺達は近くの酒場に入りさっそく交渉に移った。
「コイル、まずどうして俺達のところに来たんだ?自分たちでいうのも変な話だが、今は砂漠を移動する時期じゃないと聞いている。」
「そりゃ、単純だ。俺も早めに砂漠を越えたいのさ。薄い期待を胸にこの村に来てみたが案の定、冒険者も同業者もいない。仕方ないから、情報を集めて時期になったらすぐに移動できるようにしていたのさ。」
「ということは、報酬は旅の同行ということでいいのか?どうしてそんなに急ぐんだ?」
「報酬はそれで構わない。自慢じゃないが俺はあまり戦闘が得意じゃない。罠とかそっちの方が得意だ。そこらへんは任せてほしい。それから砂漠を越えたい理由だが・・・これも単純だ。プエトジで儲け話があるんだ。」
「儲け話?」
「そうだ。あんた達は金がありそうだし、あまり関係なさそうだからな。教えてやるけど他言は無用だ。」
「わかった。二人も、それでいいな。」
そういって俺は兄妹の二人と視線を躱す。無言のうなずきが帰ってきた。
「プエトジ公国では新天地の開発をしようとしているんだ。なんでも地下に魔石があるとか、しかもすごく柔らかいらしい。」
「柔らかい魔石?」
「そうだ持った瞬間手からゆっくりと零れ落ちるそうだ。」
「プッそんな物のために砂漠を越えようというのですか?」
エリンが小バカにしたように言う。
「笑いたければ、いくらでも好きに笑え。そんなことで俺は諦められない。楽に暮らしたいんだ。」
「タロウはどう思いますか?」
グラムが聞いてくる。
俺はエリンのようにバカにできなかった。俺が攻略したダンジョンだって地下にあった。
ダンジョンが無いからと言って地下に全く魔石が無いなんて信じられなかった。元の世界にも地下資源というものが存在した。ならばこちらの世界に有ってもおかしくはないだろう。
「とりあえず、行ってみないとよくわからないな。俺達は単純にプエトジ方面に故郷があるのと俺は単純に調べたいことがあってプエトジに行きたいんだ。目的は一致している。取引はそれでいいか?」
「ああ、問題ないぜ。じゃあよろしくな、行くときになったら教えてくれ。俺ならいつでも準備ができてるから。」
「了解、と言っても俺達も準備は終わっている。明日には出発でいいか?」
俺は二人に確認をとる意味でも周りを見渡す。
全員うなずく。これにてようやく砂漠の旅が始まる。




