砂漠までの道
砂漠の国、プエトジを目指して帝国を出て2~3日たった。
俺、グラム、エリンの3人は大陸を南の方角に魔導三輪に乗って移動していた。
いつの間にか積もっていた雪は無くなり、どんどん気温が高くなっていった。
魔導三輪は簡易的に作られた荷台を引いている。この荷台に長旅用の道具と人員を乗せている。今乗っている魔道三輪はエマさんが作った改良モデルで、魔石の供給は変わらず人が行わなければならないが、出力・効率が上がっている。またそれに耐えうる強力なボディーが特徴だ。
「それにしてもすごい乗り物ですね。こんなものがあったなんて・・・これなら、あと数日で砂漠地帯に入れますよ。」
「砂漠か・・・初めて行くけど、どんなところなんだ?」
「特に何もないところですよ。雨もそんなに降らず、実りも少ない。移動するにも渦巻く砂に足がとられて移動しづらい。どうしてそんなところに住んでいるのでしょうね?」
そんな事言われても、俺にもわからない。
まあ、俺の地元だってすごく地震が多いけど、ずっと住んでいるし、そんなものなのかもしれない。
答えの出ない事を考える。
それ以外にやることが無いからついつい考えてしまう。亜獣も出ない、のどかな旅路だ。
二人は紹介通り近接戦闘で素晴らしい働きをしてくれている。はっきり言って俺の役目はいらないくらいだ。二人だけでも十分に帰れたんじゃないか?
グラムは辺りを警戒しながらも魔導三輪の乗り心地を楽しんでいる。エリンはどこか遠い目をして心ここにあらずといった感じだ。戦闘が終わったりすると魔導三輪が引っ張ている荷台に乗って両ひざを抱えて座り込んでいる。
帝国を出発してからずっとこの感じで必要なこと以外は答えない。
ひとたび戦闘になればしっかりと闘い華麗な身のこなしを見せてくれる。
その日の夜、野営地で食事をとった後、エリンが先に床についた。野宿をしているときは交代で見張りの番をしていた。エリンにはいつも朝方をお願いしていたので先に寝ることに疑問は無い。
俺は今がチャンスだと思い、グラムにエリンがいつもあんな感じなのか聞いてみた。
「グラム、エリンはいつもあんな感じで静かなのか?」
「あー・・・それはですね、タロウ殿。エリンは先のダンジョンで恋人を失っているんです。」
「そうか、それは・・・すまない。」
「いいんです。いずれはバレることでしたから。そいつは俺と同年代で村には年齢の近い人間が我々以外にはいなかったものですから、我々はいつも3人で遊んでいました。エリンが惹かれるのも自然だったのかもしれません。」
「その3人と村を出て帝国で冒険者をやっていたのか?」
「はい、正確には、我々は新人だったので意気投合した冒険者の先輩だった二人組とチームを組んでいました。そして数年間一緒に冒険者活動をしていました。しかし、久しぶりに挑んだダンジョンで・・・」
「そうか・・・つらいことを聞いてしまって悪いな。」
「いえ、大丈夫ですよ。私としてもあなたに話せてよかった。情けない話ですが仲間内や死んでしまった者の家族にどう説明しようか迷っていましたから、話せて少しすっきりしているんです。」
「そう言ってもらえると助かるよ。」
夜は更けていく。
数日後、砂漠の手前にある名もなき村に来た。
ここは砂漠に入る手前で準備をする場所だ。
人々が停留しているところに行商や鍛冶師が来て商売を始めた結果、いつの間にか村のようになった場所だ。俺達は一旦この村で現在の砂漠の情報や消費した物資を補給した。
ギルドのような物は無いが酒場がある。
ここには情報屋と呼ばれる人たちがいる。この人たちに報酬を渡すと情報を売ってくれるのだ。
と、その前に市場のような場所に行って食料を買った。砂の上を移動するのだ、移動速度はどうやっても落ちると思うから日持ちのいい食べ物が良いな・・・
しばらく漁っていると干し肉が売っていた。あれにしよう。
「おじさん、その干し肉あるだけほしい。」
「あいよ、しかしお前さん、そんなに大量に買ってどうするんだ?」
「これから砂漠を越えてプエトジ公国に行くんだよ。だからそれなりに食べ物を用意しておきたくてね。」
「さ、砂漠!?そりゃあ無理だよ。今、砂漠は越えられない。お客さん、帝都かどっかの出身かい?」
「?、確かに帝都近くで活動していますが、今、砂漠を越えられないのはどうしてなんでしょうか?」
「口で説明してもいいんだが、まぁ見てもらった方がわかってもらえるだろう。あっちに見える少し小高い丘に行って砂漠を観察してみな。」
煮え切らない返事をもらった。
物資を補給した後、時間もあったので言われた通り丘の上に行って砂漠を観察してみる。
結構、値の張った望遠鏡を使って砂漠の奥地を見る。砂漠の砂がもくもくと湧き出る場所を見つけた。
なんだ、あれ?
じっと見つめていると砂の平地が突然爆発した。噴火か!?
砂煙が晴れるとそこにあったのは何といえない土色をしたチューブだった。しかしそれはクネクネとゆれ動いており先端部分は大きく開いた口と牙が見えていた。
生物なのか!?
「なんだあれ!?魔獣なのか」
「魔獣ではありません。あれはサンドワームです。音を聞いて獲物を捕らえていると聞いています。」
後ろにはグラムがいた。
「サンドワーム?初めて聞いた。あれは何なんだ?」
「詳しいことは分かっていません。しかし今は繁殖期で気が立っています。サンドワームは動植物や人間関係なく、なんでも襲い掛かり食べてしまいます。だからこの時期は砂漠を通ろうとする人はいません。」
何ということだろう。初めて、こっちの世界特有の生物にあってしまった。
しかし問題はそこではない。なんでも襲うだって?あっ!そういうことか・・・
「それで俺に依頼を出したということか。俺の探査魔術で切り抜けられると思ったわけだな。」
グラムの顔がゆがむ。
「だますような形になってしまい申し訳ありません。でも我々は、早く帰りたかったのです。友人のためにも・・・わがままを言っているのは分かっています。それでもどうかお願いできないでしょうか?」
グラムは言い切る前に頭を下げ続ける。俺の答えは決まっていた。
「びっくりはしたけど元々俺も進まなければならないからな、これからもよろしく。サンドワームについてわかっていることを教えてくれ。」
「ありがとう。本当にありがとう。」
グラムは頭を下げ続ける。その顔からは水滴が落ちた。
彼なりに悩んでいたのだろう。俺には計り知れない程、重い心のしこり。
彼は失敗し、俺は成功した。言葉にすればそれだけの違いだが。俺に共感は難しい。
俺は何も言えずそのまま落ち着くのを待っていた。
彼の姿を見て強くなろうと思った。少なくとも仲間を失わないように・・・そう心から思った。




