【幕間】明るい丘-2
2日後には生け捕りにされたシカの亜獣が連れてこられました。
儀式が始まります。
と言っても私は祝詞を述べながら、伝統的に伝わる宝剣を当てるだけです。実際に倒すわけではありません。
この宝剣は魔石を混ぜて作られていて、魔術を使うことができるそうです。
私はできませんけど。
西にある山を越えたところに職人が住んでいて、その職人によって作られたそうです。
儀式は順調に進み、とうとう私が宝剣を亜獣に当てる時が来ました。私は宝剣を持ち、シカの亜獣の前に立ちます。
シカの亜獣は視線の定まらない様子で色々な方向を見ては柵に突進を繰り返しています。なんと苦しそうな様子でしょう。ごめんなさい。なるべく痛くないようにしますね。
私が宝剣を振り下ろそうとした時でした。
「亜獣だーーーーー!」
近くの森から突然イノシシ型の亜獣が飛び出してきたのです。
私は驚いて宝剣を落として、座り込んでしまいました。
私の近くにいた近衛が私の周りを取り囲み、警備に当たります。
なんとなく予想通り、亜獣は儀式の会場にたどり着くことはありませんでした。
私を取り囲む近衛よりも前面に展開する冒険者たちによって阻まれたのです。
冒険者の一人。大きな斧の武器を持った方がすごいスピードでイノシシ型の亜獣を真っ二つにしてしまったのです。
私には何をやったかわかりませんでしたが、なんとなく美しい太刀筋だったような気がします。
「困りますぞ。危険な亜獣を近づけられては高額な報酬を支払っているのですからしっかりと警備してくだされ!」
一緒についてきていた数人の大臣のうちの一人が怒鳴り散らしていた。私は呆然として一連の光景を見ていました。
「ヴェロニカ様、お怪我はございませんか?」
執事が急いで駆け寄り聞いてくる。私はなんて言っていたか覚えていない。儀式は一旦中止となり私は別荘に帰った。
儀式は後日、行われることになった。
それにしても美しかった。とてもきれいな剣技だった。あれほどの鋭い剣技は軍大臣の演武を見た時に感じたものと一緒だ。
そういえば彼はダンジョンをクリアした方でしたね。あれほどの剣技を持ち合わせるなら、うなずけるものですね。
次の日になって執事に彼の事を聞きました。どうやら彼のほかに変な魔術を使う方いらっしゃるようです。確か懇親会のパーティーでお会いしましたね。きっと魔術使いの方も、お強いのでしょうね。
私も彼らのように何か結果を残せるでしょうか?あまりのすごさに自分の惨めさが目立ちます。自然とため息が出てしまいます。
「そんなにため息をついていては幸せが逃げてしまいますよ。」
珍しく近衛の女騎士が話しかけてきます。
「でしたら、暇つぶしのために私の話し相手になってください。」
「いいですよ。少しでしたら。」
「えっ!」
いつもなら全く取り合ってくれないのに今日は珍しい。非常な現場を見たから、やさしさを見せてくれたのでしょうか?
「昨日、亜獣を目の前で倒された方がいたでしょ。その人のことを考えていて・・・」
「恋をされたのですか?」
「してないわよ!彼らのすごさを聞いて自己嫌悪に陥っていただけです。」
「気にする必要はないかとおもいますが、ヴェロニカ様と冒険者は仕事内容が違いますから。」
「見えやすい結果が、あることは良いことですよ。」
「ヴェロニカ様はあがめられたいのですか?十分な気もしますが・・・」
たまにしゃべりだしたと思ったら結構グイグイ言いますね。
でも確かに私は何にあこがれていたのでしょう?色々考えていたらわからなくなってきました。
ええっとそうでした。私も自分の力で何かを残したりできるかということでしたね。
「私は何か残せるか心配になったのですよ。」
「壮大ですね。しかしヴェロニカ様はすでに残していますよ。この国です。この国があり続ける限りそれはヴェロニカ様の功績です。」
「私ではありませんよ。お父様や先祖の功績です。私が言っているのは私がこれから成したことです。」
「・・・未来のことは分かりません。ところで私はこの仕事を誇りに思います。目立ったことは何もなせていません。しかしそれでいいのです。なぜなら何も起きない事が一番いいからです。」
「ふふっそうですね。確かにお話をしていたら少し気が楽になりました。ありがとう。・・・城に戻ってからもお話してくださいます?」
「時と場所によりますが、喜んでお引き受けいたします。」
話してみるものですね。
最近、考えすぎるのは意外と気が詰まっていただけなのかもしれません。
そうだ明日の儀ではいっそ思いっきり宝剣を振ってみましょうか。
そう思い、明日の儀式に赴くのでした。
後の記録にてヴェロニカ女帝は狩猟の儀にて年齢や普段の行動から考えられないほど豪快に宝剣を振り下ろしたことが記載され、大臣たちが腰を抜かしたことが記されている。




