【幕間】帝国の研究員
私はフジワラ・エマ。
帝国で研究をしています。
最近タロウさんが北方の国から帰ってきて来ました。
彼にはいつも魔石を優遇してもらったり、冒険の過程で知りえた情報を取引しています。その代わり私は帝国の研究状況や私の研究成果を貸し出したりします。
今回の旅ではとても多くの新情報を持ってきたみたいです。それだけ大変だったということですね。
それは私の想像以上の結果でした。
活性化した魔石と劣化した魔石を接着させて使用し劣化した魔石を活性化する方法、そしてその技術を応用して人の魔石化した魔石のみを破壊できる。
どれもこれも、それだけで一生食べていける代物です。思わず論文にしようと言ってしまったぐらいだ。
どれもこれも大発見。それをいとも簡単に見つけてくる。
彼はいったい何者なのか?どこか大きな国のエース研究員とかではないだろうか?
所用で実家に戻った時、母の執事をしている人から聞いた話では迷い人だということで具体的な出身地は分からないそうだ。
こんなにも、わけのわからない人は危なくて近づきたくないけど、幸い危険度は低く、友好的だから母たちはうまく使う気みたいだ。
問題なのは、彼は私にも友好的なことだ。
魔石・魔術の研究は貴族たちが牛耳っている話は有名だ。
私のように貴族じゃない人間が魔石・魔術の研究をしていると貴族たちからちょっかいをかけられる。
私はそれを実家と付き合いのある貴族たちに弟子入りして、貴族代行という形でなんとか研究をしているのだ。そうやって市民出身で研究をしている人たちは結構いる。
だが彼は誰の代行でもない。個人で活動して、あれだけの成果を上げている。しかもその結果を私のところに持ってくるのだ。
当然、封建的な貴族からすると面白くない。もうすでに私のところにも審議や見学といった形でいちゃもんをつけてきている。
だけど科学のために彼の才能を止めるべきではないだろう。
そんな凝り固まった考え方をしていては、科学は発展しない。誰でも研究を行って、だれでも成果を発表できるようにした方がいいんだ。
私は何としても彼の成果を守らなければならない。
これまで以上にうまく立ち回らないと・・・全く・・・本当は研究だけやっていたかったのに、最近は知り合いの研究者から後輩を預かることになってしまったし・・・都合よくは、いかないものね。
最近は私自身の研究もうまくいかなくて、ちょっと落ち込みがちだ。
私は両頬を叩き気合を入れ直す。しっかりしないと、幸運にも彼が持ってきた話の中で、劣化した魔石と活性化した魔石を同時に使うという話を聞いた時、思いついたアイデアがある。
まだまだ確かめることは多いが、全部やってみよう。今、作っている魔導三輪。これができれば物流の苦労が大きく変わる。私だってできるんだ。
それからというもの、悪戦苦闘しながらも魔導三輪を研究する。
連日徹夜で作業したおかげで、動力部分は正常に作動する目途が立った。これならどんな状況でも使えるようになる。後は、鍛冶屋に手伝ってもらって部品を作るだけだ。
タロウさんは、自分が見つけた発見をあまり外に発表しようとしない。
彼の発見を全て発表すればそれだけで素晴らしい功績と認められて、たくさん研究費もつくのに・・・やっぱり不思議な方です。
そんな感じだから、劣化した魔石の活性化現象しか発表しないようです。それでも十分なものですけどね。
発表した内容は私の予想通り、帝国・貴族間を駆け巡り色々な人が訪ねてきました。他国まで広がり続けているそうです。
なんて言ったって今まで見捨てていた劣化した魔石を利用して活性化している魔石を無効化できると同時に劣化した魔石を活性化できるというもの。
劣化した魔石は使い続けると、ボロボロに崩れて朽ちてしまうと言われていたのに、それを復活できるのだ。
こんな画期的なことは無い。特に加工が難しい魔道具なんかは道具としての寿命が革命的に変わる。
さてどのような変化が起きるのか、少しのいたずら心とともにワクワクしている。
数日が経ち、連日のように来る手紙や訪問にちょっと辟易している。
理由はタロウさんだ。彼に会おうとしている人たちだ。あわよくば取り込みたいと考えているようです。
タロウさんはいつの間にかダンジョンに挑んでいたそうです。彼に会いたければ危険なダンジョンに行けと言うとおとなしくなりました。
色々と言う割に意外と臆病ですね、ここで先に会えれば周りに差をつけられるのに・・・
タロウさんもタロウさんです。やるだけやって、いなくなってしまいました。ここからの議論も大事なのに・・・
すると突然、ダンジョン攻略で試作品として作っていた魔導三輪を使いたいと尋ねてきました。
私としては実験データをとれるので全く問題ないのですが、ちょっと心配です。タロウさんの身の安全も心配ですが、彼はそれなりに強いと聞いています。何とかなるでしょう。
私としては魔導三輪が戦闘の道具と認識されないか心配です。彼は荷物運び用に借りたいと言っていたので問題ありませんが、心配は尽きません。
ついでに手紙を全て押し付けました。彼の丸くなった目を見て、気が晴れました。
数日たち、タロウさんたちがダンジョンから帰ってきました。持ってきた魔獣の頭には驚いて腰を抜かしてしまいましたが、魔導三輪は役にたったようです。
タロウさんは魔導三輪をすぐに返しに来てくれました。どうやら車軸は折れてしまいましたが、おかげで構造的に弱い部分が分かりました。
それからダンジョン内での使い方を聞いたところ、問題ないように感じました。はっきり言って戦闘にどうつながるかなんて素人だから、わかりません。
こればっかりは戦争の道具にならないように願うしかないですね。
そんな矢先、女帝様から、市民パーティーのお誘い場が届きました。驚きの連続でめまいがしました。
今、私はパーティー会場の正門にいます。
一緒にタロウさんとタッグを組んでいるアレクさんもいます。ここ最近で目覚ましい功績を上げた市民が招待されています。それに選ばれたことは嬉しいですが、さすがに緊張してしまいます。
あまり実家の力を使いたくなかったけど、流石に今回は実家の力を利用して衣装やそれから懇意にさせてもらっている貴族の方をサポートに呼んでもらいました。
会場の中では多くの貴族の方に話しかけられて、息もつく暇がありません。しかもその多くがお嫁に来ないか?とか息子の嫁に来ないか?と縁談ばかりです。正直かなりうんざりしてしまいました。
たまに魔導三輪について質問が来るのですが、私が荷物運搬用の道具として説明すると分かったような、わからないような表情をしています。
有用性を説明するのも大変です。
説明に四苦八苦していると、なんと女帝様がお話を聞きに来てくださいました。熱心に説明をしているとうんうんと、うなずきながら聞いてくれます。
特に質問はありませんでしたけど、それはこれから私が努力して説明していけばいいだけのお話です。
女帝様良い方です。この方なら平和的に魔導三輪を使ってくれそうです。
女帝様との会談はすぐに終わってしまいました。
それからというのもまだまだ続く縁談の話に嫌気がさして、結構飲んでしまった気がします。あまり覚えていません。変なこと言ってないですよね・・・
気づいたら、実家の部屋で寝ていました。その後、執事からかなり恥ずかしい話を聞きました。お酒には気を付けましょう。




