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帝国までの道

ノエルと雑談し別れた後、サルの魔獣を倒したときの感覚を確かめるため、適当な空き地に来ていた。

木の棒を刺し、少し離れて光の魔石を掴む。


魔獣を倒した時のイメージ・・・しっかりと覚えている。


魔石に集中し、体の内側から湧き上がるものがある。

沸き上がるイメージは、自然と魔石へ流れていく。 

魔石を正面に掲げる。魔石は光り輝き、不思議な模様が漂い始める。

物が焼けるよりも高周波な音が周囲に広がり、空間に光の線が乱れ走る。


木の棒に向かって魔獣に放った攻撃と同じもの・・・電撃が、魔獣に放った時の威力で放たれる。

電撃は木の棒を一瞬で破壊し尽くした。


魔石に赤色の幾何学模様が浮かび上がっている。

模様は魔石から飛び出し腕に巻きつくように回転している。


ごっそりと体から力が抜ける。

あまりの衝撃に呆然と立ち尽くした。

光の正体は電気の一種だ。電気は光の一種ともいえるが・・・

だから、あの時の感覚と合わせて、電気が伝わるイメージを持つと再現できると思ったが、まさかこんなにもアッサリとできるなんて。


何より魔石と腕に巻き付いた、この幾何学模様 

「「魔術だ。」」


不意に重なった声に驚いて振り返ると、団長がいた。

「いやすまないね、君がここに来るのが見えてね。少し後をつけさせてもらった。しかし魔術とは、しかもこの威力・・・どうりで魔獣を倒せたわけだ。」

「俺、魔術が使えるなんて知らなかったんです。」

「いや、取って食おうというわけではない。ただ気になってね」


団長と近くで話そうとしたら、立ちくらみが起こり座り込んでしまった。団長は驚いて、駆け寄った。

「まだその力を扱うには体が回復していないようだな。しばらくは使ってはいけないぞ。」

「・・・はい」


さらに数日が経つ。

魔術が使えたことは団のみんなにすぐにバレたので、質問攻めにあったりと、忙しい日々を過ごした。

そしてすぐに、この街を去る日がやってきた。

思えばすごく短い間に多くの事があった。また来るだろう。心晴れやかに街の門をくぐり外へ出た。


帝国へと向かう道すがら平坦な道が多く、ただの荷物持ちは体の回復も兼ねて馬車の中でじっとしていた。

といってもさすがに暇なので、魔術の練習をしてみる。

あれからどんなことができるか調査しているのだ。


今の注目点は、どれくらい威力を小さくできるか、だ。

というのも色々試した結果、この魔術は使いづらいということが分かった。


まず全力で打てるのは一日5回まで、それ以上打とうとすると激しい頭痛に襲われる。

さらに攻撃範囲をざっくりとしか絞れず他の様々なものに飛散することがあるのだ。

ちなみに不用意に近づいてきたノエルに一度だけ当たったことがある。

少しの間、しびれていた。その後思いっきり殴られて、それから怒って口をきいてもらえてない。

こんな感じで意外と使いづらい。だから出力を弱めて使いやすくしようという試みだ。

呑気に魔術を試していたのも束の間


「オオカミだ!」


突然、団を守っている兵士が叫んだ。急いで外に出てみると、遠方から黒い一段が向かってきている事がはっきりとわかった。

監視者が望遠鏡で確認をしている。

「数は20~30! 大規模な群れです。」


「どうなってるんだ。あんな群れ今までいなかっただろ。」

「ダメだ。追いつかれる迎撃するしかない。」

「あんな数を迎撃なんてできないぞ。」 

「だったら、どうするってんだよ。」

魔獣に比べれば一頭ずつは弱いが、人よりも圧倒的に素早く、何より数が多い。

団が混乱に陥るには十分な数だった。


しかし団の中で怒号が飛び交う。


「落ち着け!陣形を組むのだ。荷物を置いてオオカミが来る道を制限しろ。散らせるな!一つの塊として対処するのだ。」

団長がよくとおる大声で、指示を飛ばす。途端に団員たちが行動を開始する。


だが、それでうまくいくのか!?本当に何とかなるのか!?

自分も何かできることはないかと、必死に考える。どうすれば助かるか・・・

ここであることを思いついた。すぐに団長に掛け合う。


「よし、やってみろ。 チャンスは一回だ。」

許可をもらった俺は、急いで作業に取り掛かった。

可能な限り商団から離れて、オオカミ方向に向かって地面に鉄製の棒をばら撒いていく。オオカミは目前まで迫っていた。


「バカやろう!いい加減戻れ!」

ノエルに注意されてようやく、目前までオオカミが差し迫っている事に気が付いた。

焦りつつも練習通り、雷の魔術を使った。

ちなみに雷の魔術というのは俺が勝手に名付けた名前だ。


地面に放った電撃は棒どうしをつたい、さらに地面へ流れる。

オオカミがそれらを踏んだ瞬間、バチっ!という音と共に

電撃が地面からオオカミに落ちる。


倒れてしまったオオカミやしびれて痙攣しているオオカミもいる。

多くのオオカミを行動不能にすることができた。


一番先頭を走ってきたオオカミも電撃によって行動不能になった。しかし、慣性によってオオカミの体は止まることなく、そのまま俺とぶつかった。


ぶつかった衝撃で後ろに投げ飛ばされ、腕をすりむく。


「皆さん。生きている個体もいます。あとはよろしくお願いします。」

喝采を上げ団員が一斉に取り掛かる。


「すごいな、こんなことができるなんて、腕のほうは大丈夫か?」

「ええ、すりむいただけなので、すぐによくなると思います。」

団長が驚いていた。


説明を続ける。

「昔、地面に落ちた雷が地面を伝わって周りの動物に影響を与えたという書物を見たことあります。同じようなことができると思ったんですよ。」


「君の魔術は予想以上に価値が高いかもしれんな。」

団長はそういった後、後処理のためオオカミのほうへ向かった。


その日の夜、商団は目標の位置まで進みそこでストップとなった。

夕食を終えて、食休みしているとノエルがやってきた。


ノエルはむすっとした顔でこちらを見て

「お前は強くない。たまたま運が良かっただけだ。」

と言って去って行ってしまった。

心なしか目線が泳いだ気がする。いや、腕を見ていた?


ぽかんと呆けていると、若い戦闘員がやってきて、

「あいつ新人が来てそいつが使えるようになると、月に一回あんなふうに怒るようになるのさ。まぁ月一だから勘弁してやってよ。」


その言葉をぼけっと聞いていると、

「そこ!聞こえてるぞ。」と怒声が飛んできた。

その日からノエルの当たりがどんどん強まっていった。


今は、大きい石や砂利の多い崖を通っている。

この世界は道路整備が行き届いておらず、こういう道は多い。

崖下から冷たい強い風が吹いた。


団長はぽつりと、もうじき雨が降るとつぶやいた。


皆が急いで崖を通り抜けようとしたが、すぐに強い雨が降り出した。

道がぬかるみで荷物を載せている車輪がはまってしまう。

こうなってしまったらどうしようもない。

雨具をかけた複数人で後ろから必死に荷台を押し、崖を進む。


俺の横で荷台を押していたノエルが、力強く地面を踏み抜くとそのまま地面が勢いよく崩れた。


ノエルが落ちていく。


とっさに手を伸ばしノエルをつかむ。だけど人間というのは意外と重いのだ。

俺は引きずられるように一緒に落ちた。


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