帝都Ⅴ-2
パーティー会場で飲み物を貰い、部屋の隅へ行こうとする。
俺は誰にも話しかけられなければいいのだが・・・そう思っていたが俺はマークされているらしい。ひっきりなしに話しかけられる。
アレクも同じようだ。特にアレクは冒険者ランクも高い。貴族たちの領地護衛をお願いされていたり、引き抜きしようとしているみたいだ。
俺に来る話は、息子の魔術師範をしてくれだ。魔石を使った道具を開発してくれといった、魔術に関するものがほとんどであった。特に戦闘系の依頼に偏っている印象を受けた。
しかも、やたらと好待遇で、なんかどれもこれも胡散臭かった。他にも求婚の申し出なんかもあって気がめいりそうだった。
一部の貴族たちは魔術的才能が遺伝すると考えているみたいだ。
それをマシュー君、いやマシューさんがバッサバッサとさばいてくれた。ありがたい・・・しばらくすると、要件を終えた貴族たちは次の目標へと向かっていく。パーティーと言えど、貴族たちにとっては戦場のようだ。大変だな・・・
ようやく落ち着き、壁に寄りかかって少し休む。
「大人気であるな、タロウ氏」
そう言って話しかけてきたのは壮年のおじさんだった。
背丈は低く、少し腰が折れ曲がっている。しかし身なりがよく胸元につけられた勲章の多さが有名な貴族である事を指し示す。
「申し訳ありません。私は世俗に疎くてあなたを存じ上げないのです。」
「挨拶が遅れましたな、イワン・ルーカスです。まあ表には出ていかないので知らなくても無理はありませんな。私は国立魔術研究所で魔術研究を行っていましてな、時にタロウ氏、奇怪な魔石や魔術を使うとか?しかも’二つも’」
「ハハ、何のことでしょうか?確かにちょっと変な魔術を使えますが、噂に尾ひれがついたのでしょう。たいそうなことはできませんよ。」
「またまた、ご謙遜を、まぁ確かに誰にとっても自分が持っている手札はそう簡単に公開するものではありませんからな。気が向いた時にでも国立魔術研究所に来てみてください。あなたの冒険者ランクと名声なら十分見学できるでしょう。」
そう言われたとき、会場が大きくざわついた。
「おお、来られましたな、流浪の冒険者たる、あなたならばご覧になられたことは無いかもしれませんな。あちらにおられます、我らが新女帝ヴェロニカ・アダムズ様です。」
少し高くなっている中央の壇上から、きらびやかな女性が現れた。
薄い青色をベースとした豪華なドレスに鮮やかな金色の髪をきれいにまとめている。身長は160cmぐらいだろうか?
最近、女帝になったばかりだと聞いているし、まだまだ若いのだろう。その横には武装した兵隊が数人ついている。周りを女性の兵士で取り囲み、かなり強そうな男性の兵士がいる。
歩く様はいかにも高貴な感じを醸し出しているが、その表情は硬い。明らかに気を張っているのが分かる。新女帝は恰幅のいいおじさんたちと話している。
おそらく大臣とかだろう。すぐに取り囲まれてしまった。
あれが噂の女帝か・・・俺は一生関わることは無いだろうな。いつの間にか隣にいたイワンもあいさつの列に加わっていた。
俺はとても疲れたので席を外させていただいた。
「ふぅ~さすがになれないことをすると疲れるな。」
俺はベランダに出た。冬の夜風はかなり冷たいが疲れた体と酒に火照った体には心地いい。死なないように全力で生きていたら、貴族のパーティーに呼ばれるとは人生何があるかわかったものではないな・・・。
外から会場の方を眺めると多くの人々が話し合っている。
エマさんはなんと新女帝と話している。すごいな、あの人。俺は何を話したらいいものか、わからないし、正直言って勘弁だな。
外に向き直り、一口酒を流し込む。風吹き、強く体を冷やす。流石に冬は寒い、すぐに会場へ戻った。
パーティーは進む。俺は壁に張り付いて落ち着いていた。ようやく静音が訪れたのだ。
隣にはアレクもいた。彼もしばらくは貴族たちに囲まれていた。
「タロウこれを機にどこか良心的な貴族に肩入れするというのも悪くないかもしれませんよ。あなたの実力があれば、護衛としても魔石関係の職人としてもやっていけるでしょう。」
「どうしたんだ、急に?」
「あなたは何のために冒険者を続けているのですか?もう稼ぐ手段を確立し、名前も十分に売りました。あなたの実力なら冒険者を続ける意味は無いと思いますが。」
「確かに冒険者をやる意味は無いな・・・そっか」
俺が冒険者を続ける理由か・・・
「アレクには話したことあると思うけど、俺は迷い人と呼ばれる別の世界から来た人間だ。」
「はい、聞いています。にわかには信じられませんが、あなたと一緒に勇者伝説を調べていて、本当に存在するのだと確信するようになりました。」
この世界では身元不明の放浪者をまとめて迷い人と呼ぶことがある。しかし、そのほとんどが様々な事情で別の街から出てきた人たちだ。
別の世界から来たとかは、あまり信じられていない。・・・というのは後からわかったことだ。最初に出会った商団は本当に運がよかった。
「俺はまだ元の世界へ帰りたいと思っている。だけどせっかく来たこの世界をもっと知りたいとも思うんだ。戻ったらもう来れないなんて寂しいだろ?でも実際どうなるかわからない。だからもっと世界の事を知っておきたいと思ったんだ。」
「それで冒険者を続けるのですか?別に冒険者じゃなくてもいいような気がしますけど・・・」
「うーん・・・戻る方法が分からないから早く知りたいってのもあるよ。それと自分勝手なのはわかっているけど、自由でありたいってことかな。せっかく強い力もあるわけだし・・・アレクはこんなに力があったら・・・そうだな・・・誰かのために使うべきとか考えるか?」
「私はそう思います。できれば力の無い民のために使うべきだと、そう思うから私は冒険者であり続けます。しかしあなたが命がけでその力を獲得してきたところを見続けてきました。その力を自分のために使うことを私は止めません。」
「そうか、こんな変な話。せっかくのパーティーに悪いな。でもちょっと自信につながったよ。」
「いえ、私が始めたことですし、問題ありませんよ。」
「そうですよ。せっかくのパーティーなのですから、楽しんでください。」
俺とアレクではない。その透き通る声は後ろから聞こえた。後ろにいたのは新女帝のヴェロニカ様だった。




