帝都Ⅴ-1
大きい事が三つある。まず一つ目は元々の計画であった。
拠点の確保だ。
帝都のはずれ、今回攻略したダンジョンの近くに亜獣が多くなったということで廃棄された大きい建物があった。
貴族が、自然が多い土地に住みたいとかそう言った理由で建てたらしい。
しかし、そのダンジョンは攻略されて、亜獣の影響はなくなっていた。そこを買い取った。
一度ついた噂はなかなか消えにくい、亜獣が出るという噂と雑木林が近くにある自然がおおい場所だ。
おかげで人通りが少なく、うるさい実験をやってもバレなさそうだし、長期的に家を空けても問題が少なさそうだ。
しっかりとした作りの地下もあり、おかげで荷物の貯蔵ができるようになった。
今まで作ったものや収集した物を運び終えると、結構地下が埋まった。
これで運よく拠点の目標は達成した。
次に大きい事はエマさんだ。
魔導三輪の後ろ軸を折ってしまったことを報告しに行ったらそれ自体はデータが取れるということで喜ばれた。
しかし問題はそれではなかった。研究所に報告しに行ったときなんと母であるマリーさんがいたのだ。
二人がそろっているとその血のつながりを強く意識する。やっぱりこの二人は結構似ている。
何故、マリーさんがいたのか。それは魔導三輪の性能を高く評価しているからだ。
魔導三輪を商会の力で大量生産すると言っているのだ。しかしエマさんが渋っている。
それが少しずつこじれて、ややこやしいことになっているというわけだ。
当たり前だがお手伝いで来ているダニエルに止められるはずが無く、またマリーさんの執事も来ていたがニコニコしながら眺めていて、止める気はない。
それぞれの言い分を聞いてみると・・・エマさんは
「今まで、私が動いて頑張ってきたんです。それをなんだか横取りされている気分なんです。・・・いや、理屈ではわかっているんですよ。ただ・・・私が自分の力でやりたかったというか・・・」
次にマリーさんは
「せっかく私が母親のよしみで、無料で生産を引き受けると言っているのにまだまだ子供だね・・・せっかく家で働けるのに、そうすれば、わざわざ出ていかないで家に住めるじゃない?タロウもそう思うでしょ・・・それに最近、あの娘、家に全然帰ってこないのよ。髪もボサボサだし、ちゃんと食べているのかしら?」そう言いながら髪をいじったりしている。
執事に聞くと、どうやら娘が帰ってこない事が寂しいらしい。・・・何というか、めんどくせぇ
結局、気持ちの問題なので契約だけは、俺が音頭をとって結ばせた。
後の話は時間が解決してくれるのを待つしかないと考え、定期的に報告がてら両者が会う約束にして強引に話を終わらせた。
エマさんの研究所を立ち去る際、マリーさんが話しかけてきた。
「そうだ! タロウ、今度、女帝主催のパーティーに呼ばれたそうだね。」
そう、3つ目の大きい事がこれだ。
「はい、確かに、ダンジョン攻略を祝してということ、そして市民の実力がある者と懇親会をするということでした。俺ら以外にも有力な冒険者たちが呼ばれているみたいです。」
「貴族に気をつけなさい。特に戦争推進派や武器事業に精通している者達。タロウは魔術がもう一つ使えるようになったと聞いた、これは可能な限り情報を出さない方がいいでしょうね。」
流石、耳が良いな。
「何故、魔術を2つ使えることを言わない方がいいのですか?」
「面倒ごとに巻き込まれたいなら構わないのだけどね。魔術は1つ使えるだけで国の上部に行けたり、軍隊でも特別扱いよ。貴族の世界でも一目置かれ権力抗争で一歩リードね。それが2つ使えるとなると歴史上でも数えるぐらいしか発見例が無い。」
それは初耳だった。魔術が使えるというのは俺が思っている以上に政治にとって重いらしい。
「タロウの力を利用したい人、面白く思わない人、魔術そのものの研究材料に使いたい人、貴族の世界は厄介よ。だから気をつけることね。長く生きたいなら・・・」
「肝に銘じます。ところでなぜそこまで教えていただけるのでしょうか?」
「そうね・・・娘の大事な顧客だから、かな?」
この人も腹黒い一面があるが、この世界ではとても信頼できる。それを確信した。
「心配なら、娘ともう一人うちの商会からお手伝いを派遣しましょうか?」
「・・・ぜひ、お願いしたいです。俺はどうやら脇が甘いみたいなので。」
こうして、ここ最近の中で最も気がかかりだった、女帝主催のパーティに臨むのだった。
―俺はこの世界に来て初めて自分の服装に片ぐるしさを覚えていた。
「なんでこんなにも衣装が似合わないのだろう・・・俺は」
「そうですか?冒険者らしいですよ。」
そう言うのはばっちりと決まったパーティー用のアレクだった。さらにその隣にはこれまたばっちりと決まったエマさんがいた。貴族の令嬢と言われても遜色がないぐらいキレイだ。
彼女は魔導三輪の開発を高く評価されて招待されたのだ。彼女はあまり慣れていないのかメチャクチャに緊張している。
そして二人、ケニーとクララは逃げた。あの二人は何故か逃げることができていた。
くそぅ、それができるなら俺も逃げたかった。
そしてもう一人
「初めまして、マシュー・テイラーです。マリーさんのお願いできました。何か困ったことがあったら聞いてください。」
すごくの気持ちのいい好青年だった。
年齢は20台前半といったところで、この国に古くからいる地方貴族らしい。マシュー君の親とマリーさんが商売相手で懇意にしていたらしい。
それで今回の懇親会に貴族側として呼ばれていたから、お願いされたとのことだ。正直ありがたい。
寒空の下、長話をするのもつらいのでさっそく中に入る。室内は豪華絢爛で光の魔石をうまく使った装飾だ。魔石利用を研究している者として中々興味の惹かれるものがある。
2階にある奥の部屋に招かれパーティー会場に入った。すでに多くの人がいて、各々が話し合っている。主に貴族っぽい人が偉そうに話、市民っぽい人たちが静かに聞いている。
はてさてどうなるか。俺もこんなパーティーは初めてだ。できれば、穏便に終わってくれるとありがたいが・・・




