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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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火?のダンジョン-9

「皆、はなっ・・・」

俺が叫ぶより早く、魔獣は起き上がり真っすぐ俺に突進してきた。

俺はとっさに正面からぶつかるのを防いだが、結局躱しきれず右足が魔獣の下敷きになる。


バキンと不気味な音が体の中から登ってきた。後から遅れて激痛が走る。

あまりの痛みに声が出ない。だがそれを気にしている暇はない。

ツチノコ型の魔獣はこちらに向き直り大きく口を開けている。このままだと食われる。


魔術を使って逃げようとするが、それよりも先に目の前を一つの影が覆った。

アレクがバトルアックスを使ってツチノコの下あごから上に向けて切りつけた。固い鱗のせいで切れることは無く頭の軌道がそれる程度だった。

そのすきにケニーに引っ張られ俺はツチノコから離される。足は赤黒くなっていた。痛みに耐えながら急いで回復の魔石を使った。少しずつ痛みが引いてくる。


回復の魔石は大きな特長がある。大けがであるほどその回復は、かりそめの物となる。例えば骨折を回復の魔石で直した後、すぐに無理な運動をすれば、骨折部分でまた大きく壊れてしまうのだ。

俺はこの戦闘で、これ以上大胆な運動はできない。

「タロウ、私、銃を使うわ。体を強く固定しなければならないの。魔導三輪を使うのはどうかしら?」

クララが提案してくる。

確かに俺はこれ以上動き回るのはよくない。しかし攻撃はかわし続けなければならない。


俺はクララに合図し、魔導三輪に飛び乗った。荷台にクララが乗り、銃を構える。体と銃をしっかりと固定し、衝撃に備える。


魔導三輪は走り出す。

アレクとケニーがばらばらに動き回りながら魔獣を引き付ける。俺たちは魔獣の背後へ移動する。

クララは照準を合わせ、銃に備え付けられた魔石に魔素を込めると砲身がどんどん赤熱してくる。

轟音とともに、弾丸が発射された。

目にも止まらない速さで弾丸は飛翔した弾丸だったが、相手も移動しているし、振動が激しいため頭を狙ったその軌道は魔獣の首下に着弾した。


しかし、今まではどんなに高い威力の攻撃でもわずかに鱗を割る程度だったのに、今の弾丸は確実に鱗を貫通し、ダメージを与える。

ツチノコの怒りに満ちた表情がこちらを見ている。空間を揺らすような音で泣き叫んだ。

「クララ次の弾を!」

「砲身がまだ冷えてない。こんな状態じゃ火薬と弾を詰められないよ!」

真っ赤に光る砲身から顔をそらし、叫ぶ。


そんな事情、お構いなしに魔獣は突進してくる。

俺は片手で魔導三輪を運転しながら、空いたほうの手で風の魔石を取り出し、砲身に当てる。風を発生させ砲身を冷やすためだ。


魔獣は俺達を追ってくる。

しかしここにいるのは俺達だけではない。アレクが全力で斬りかかる。

アレクは攻撃が通っている部分を積極的に狙い、ダメージを蓄積させていく。

魔獣は得意の高速突進で再び魔導三輪を狙ってきた。しかしその動きは強大な岩石が顔に当たり、止められる。

ケニーが投げたのだ。もちろんその程度では魔獣に傷はつかない。


時間ができたことで十分に砲身が冷えた。次の弾丸が放たれる。

的が小さい頭は狙わず、確実にダメージを与えるため胴体を狙う。

見事に命中した。

お腹に見えていた中心にある大きめの魔石に当たり、魔石は砕けて貫通する。

攻撃が効いているのか魔獣は、のたうち回る。そして起き上がり、こちらを睨む。

魔獣だってやられっぱなしではない。そう言わんばかりに次の行動をとった。

驚くべきことに魔獣は跳ね上がったのだ。一番低いところでも3~4メートルは浮き上がっているだろうか?確実に魔道三輪を狙って落ちてくる。


全力で魔導三輪を走らせ、ギリギリ当たることは無かったが、無理な走らせ方をしたこと、これまでの蓄積ダメージにより後輪の車軸が折れてしまった。

俺とクララは魔導三輪の外にはじき出される。

ケニーがカバーに入り、追撃の突進を防ぎ、アレクが反撃を加える。


クララと俺は諦めずに砲身を冷やし続ける。もういちど冷却が間に合い、次弾が発射された。弾丸は片眼にヒットし、視界を奪う。

大丈夫、確実にダメージを積み上げているぞ。


双方が動きを止め、にらみ合いが続く。

何か一つでも判断を誤ると、一瞬で命を失うことになるだろう。

先に動いたのはツチノコの魔獣だった。口を大きく開き下を向いたのだ。


何をする気だ?

下を向いた口から大量の白い霧が吐き出された。あの毒霧は魔獣がつくりだしたものだったのか!?

白い霧はやはり重い気体のようで動きが遅いし足元に溜まっていく。クララは急いで口元を覆い、ケニーは息を止めているが、元々息が上がっていたのですぐに荒く呼吸をしている。

毒の霧は、ほとんどがツチノコの周りを漂っているだけだが、まだまだ大量に吐き出されている。次第に部屋中を埋め尽くすだろう。


あんな大量の毒を受けてしまえば一瞬で命を落とす・・・どうする。考えろ!

毒霧はどんどん迫ってくる。3人もどうすればいいのか決められず、固まってしまっている。悩んでいてもしょうがない。

やらなければ死ぬ!

俺は風の魔石を二つとも取り出し、発動する。次第に風が生み出され一様に広がり壁のようになっている白い霧に穴が開く。

生み出した風で毒霧の一部を押し返しているのだ。しかしそれだけでは空間中に広がっていく毒霧を全て押し返すことはできない。


もっとだ!もっと強くて、周りの空気を吸い込むような大きい渦、台風のような巨大な渦。竜巻のような長い風の柱。

このイメージに集中して、どんどん風を送り込んでいく。

もっと!もっと!もっと!

周りの音が聞こえなくなる。

目の前にある大量の霧と自分が起こしている風だけに強く集中し、イメージをより強める。より強力な風!

次第に見えている物にも意識がいかなくなる。見えているのに意識が向かない。ただ風を起こすことだけを考える。


タロウは気づかない。

自らが作り出した魔石から幾何学模様があふれ出していることを、青白く光り、以前見せた風よりも比べ物にならないほどに強い風が生み出されていることを・・・


アレクたちは交互に見る。

タロウが使っている魔石の幾何学模様と相手の白い霧を飲み込み白色が付いた巨大な渦を・・・

「こ、これは・・・」「すごい・・・これが魔術・・・」「・・・うっす・・・」

いつの間にか空間に広がっていた霧はすべて飲み込まれ、巨大な渦がツチノコの魔獣に打ち付けられていた。この渦に引っ張られ部屋中にも不可思議な空気の流れができていた。

しばらく見とれていたクララだが、はたと気づき銃を構えた。相手の魔獣はとてつもない風速で動けなくなっている。

動けなくなっているところを、しっかりとねらって打つ。

弾丸は魔獣の中に吸い込まれていく。

弾丸は強く熱されており、その熱が毒ガスに伝わった。

どうやら可燃性だったらしい。一気に燃え広がり白い塊は何倍も大きくなった。

部屋に流れていた不可思議な空気の流れは止まり、強い熱と爆風が発散した。


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