火?のダンジョン-6
「間違いない。急いではしごを取り付けて降りよう。」
こいうことを想定してハシゴも準備していた。
皆、急いで設置し階段のほかにもロープを垂らしたりと帰ってこられる手段を用意して穴の中へと降りていった。中は静かだった。戦闘の跡があった。倒れている体が4人分ある。しかしまだ敵多くいた。
すべて亜獣だ。
降りてきた俺たちに亜獣が、視線を向ける。
しっかりと準備してきたので時間はかかったものの大技を使うことなく、撃退することに成功した。
すぐに倒れている4人のもとへ駆け寄った。
残念ながら2人は亡くなっていた。しかし2人はギリギリだが息をしている。俺は回復の魔石を二人に使う。だがこのままではラチがあかない。
一番近いテント群まで戻って複数人で回復しないと助からないだろう・・・
事情を皆に伝え、急いで穴を登り4人を三輪車に乗せた。最後にケニーが穴から登ってきた。その手には誰かの骨と装備があった。
行方不明は5人と聞いていたので探していた人たちで間違いないだろう。その後、一個目のモンスターハウスにすぐにたどり着いた。敵が全くわかず、止まることなくたどり着いたのだ。
俺はその間二人に回復の魔石をかけ続けた。
運転はクララに代わってもらい、残る二人は警戒しながら走ってついてきてもらった。
元々速度は元の世界でいうところの自転車程度で大したことないうえ荷物加えて6人の人を乗せている。その車速は人が走る程度だ。移動している間は誰もしゃべらなかった。
いくら遅くなっているとはいえ、普通に運ぶよりは早い。全力で帰ればすぐに帰れる。テント群に付いてからはギルドの人や別のグループの回復担当に変わってもらった。
俺達は休憩になった。焚火を囲って食事をとっていた。
「さっき助けた人達、何とか一命をとりとめたって・・・」
クララは食事をとりながらぽつりと言った。
「そうか、それは助けたかいがあったな。」
「ダンジョンではよくあることです。気に病むことではありません。むしろあなたは助けられる命を救い切りました。今のところ最高の働きですよ。」
アレクは俺を見ながら言った。
「そう言ってもらえると助かるよ。」
そうは言ってもやはり慣れない。いつか慣れるのだろうか?
冒険者は傭兵として戦争に参加することもある。長年冒険者を続けてきた年配の方は人を殺すのも慣れたと言っていた。俺もいずれはそうなってしまうのだろうか。それはちょっと嫌だな・・・
いや、今は考えるのはやめよう。目の前のダンジョン攻略に集中するんだ。その日はとっとと身支度を整えて就寝した。
次の日、洞窟の中なので朝になったかどうかわからないけれど感覚的には早朝に準備を始めた。
以前潜った時、おおよそだが探査魔術を応用して距離を測っている。それによれば昨日進んだところからもう少し言ったところに行き止まりがあるはずだ。
俺達はいつもと同じフォーメンションでダンジョン内部を進んでいく。昨日2個目のモンスターハウスを攻略したおかげで、出現する敵が劇的に減った。
なんと一回も戦うことなく昨日の攻略ポイントまでたどり着いた。
「なんか拍子抜けだな~ 一回も戦わないなんて・・・」
「クララ、油断は禁物っす」
「わかってるよ。ここからは未探査の領域だもんね。」
「タロウ、お願いします。」
俺はアレクに促されて、探査魔術を使った。しかし敵の反応は全くなかった。
怪しい・・・ここまでずっと敵の反応があったのに、近くの土の中からも反応が無い。どういうことだ?
本当にすべて倒してしまったのか?でも判断基準が無い。いまはこのまま進むしかない。俺達は警戒しながらも順調に進む。
本当に敵が出てこない。道もだんだん狭まってきた。そろそろ次のモンスターハウスがありそうな感じだが、事前調査では行き止まりだ。
なんだか熱くなってきた。地下深くにたどり来たからか?汗が出てくる。装備を厳重にしたせいでよけいに熱い。
周りを見ると、みんなも汗をかいている。クララなんかは完全に警戒を解いて両腕をだらりと垂らして、とぼとぼと歩いている。胸元をパタつかせながら本当に暑そうだ。
ケニーは意外と汗をかいていない。こういうところもタフだな・・・
地面には白い霧が漂っているどこかに蒸気がわいているところでもあるのだろうか?あたりには見当たらない。
蒸気ならすぐに拡散して散ってしまいそうな気がするけどこんな閉じられた空間なら拡散せず閉じ込められるのかな?
そう思って不注意だが壁に触れてみた。しかし壁の土は乾いていた。いや、待て、暖かいのに水蒸気が空気中を漂うなんてそうそうないぞ。
「どうしたのですか?タロウ早くいきますよ。」
アレクに促されて、気にはなるものの急いで戻った。目の前はどんどん白んでいく。数メートル先が見づらくなるほどだ。
しばらく何事もなく進む。しかしアレクから止まるように言われる。
目の前には何か茶色い塊が横たわっている。慎重に近づくと鹿?だろうか、亜獣の死体があった。目立った外傷がない。
亜獣の生態は分かっていない。何を求めてここまで来たのだろうか?辺りをよく見るともう数体分死体があった。腐敗が進んでいてよくわからないがこちらも外傷が無いように思える。
亜獣化すると一般の生物より強力になるめったなことではやられないはずだ。何もないと分かれば来た道を引き返すと思うが・・・
「ふへーみず、水ぅー」
そう言いながらクララは魔導三輪に備え付けた水タンクから勢いよく給水していた。
「クララそんなに飲んだら、帰りの分がなくなるっす。」
「しょうがないじゃない。すっごいあっついだから!ケニーは熱がりじゃん。水いらないの?」
「確かに熱いっすけど、そこまでじゃないっす。皆は何でそこまで汗をかいているっすか?」
「あんたねぇ、こんな時に煽ってんじゃないわよ。」
「二人ともこんな時に争ってはいけません!」
アレクが二人を静止しようと踏み込んだ時、アレクが膝をついた。
アレクだって十分に水分と塩分を摂取していた。
いや、そんなこと気にしている場合じゃない脱水だ。早く介抱しないと。そう思ってアレクに触れるとアレクの体は熱くない。どころかちょっと低めか?
アレクを担ごうとしたが力が抜けていく。くそっ俺も脱水か!?
「大丈夫っすか?タロウさん変わってください。俺がアレクを背負うっす。」
ケニーが変わってくれた。アレクはケニーに連れられ、がぶがぶと水を飲んでいる。
それにしてもケニーは汗一つかいていない。そこまで違う物なのか?あまりにも異常だ。
不思議に思って辺りを見渡す。ケニーとアレクの顔はよく見える。クララの顔は少し曇っている。下の方が濃い?
「タロウも早く水分をとるっす。」
「ケニー聞きたいことがある。煙が濃くなってから水分補給をしたか?」
「まだしてないっす。でもそろそろ熱いので俺も水を飲もうと思ってたっす。」
この差!もしかして。
「皆、急いでここを離れるぞ。毒だ。魔導三輪に乗れ!」
「ちょっとした脱水です。問題ありません。」
「死にたのか!文句はいくらでも聞くから今はここから離れるぞ!」
俺の必死さが伝わったのか皆は三輪に飛び乗り急いで引き返す。運転はクララに変わってもらった。俺は後ろから皆に回復の魔石を使いながら、ある道具をとりだした。
全然、魔術を使っていないのに頭が痛くなってきた。
視線もクラクラする。
クララも呼吸が激しくなっている。アレクは完全に顔が青い。唯一体力があるケニーには万が一に備えていつでも戦闘がこなせるようにしてもらっている。
まさか用意していた2つの秘策をどっちも使うことになろうとは・・・俺は大きく無骨な魔石の塊を取り出した。
これは中心に水魔石を置き、その周りを劣化した水魔石で完全に囲ったものだ。ずっと研究していたことがこの一週間でようやく形になったものだ。
俺は早速、魔石を発動させる。劣化したはずの水魔石は反応を見せ始める
魔石の塊は僅かに光、効果が発動していることを表す。周囲に風が発生し、周りの空気の流れを変える。俺は立ち上がってなるべく上から下に吹くような風を発生させた。周りの霧は晴れていく。
「タロウそれは、以前言っていた・・・」
アレクが辛そうにこっちを見ながらたずねる。
「そうだ、空気を操る魔石だ。まだうまく発動しないことも多くて、試作途中だがこれは今まで作ったものの中で一番よく動くものだ。それより今はあまりしゃべるな。」
次第に俺たちの周りは周りよりも色が薄い空気になっていく。
魔導三輪を全速力で運転したから、数分で霧が濃くなっていた領域を抜けた。そのまま2個目の開けた空間まで戻ってきた。違うパーティ―が来て調査と開拓をしていた。幸いにも回復役がいる。
ギリギリ助かったようだ。




