火?のダンジョン-4
不意に見つけた穴の調査はまず置いといて・・・
この抜け殻には噛まれた跡がある。歯形は色々だ。
おそらく野生動物たちはこの抜け殻を食べたのではないか?アカウ村の時もそうだったが、魔獣の体液や肉を食べると通常の野生動物が亜獣化するのではないだろうか。
根拠もないが妙な自信があった。
「とりあえずこの鱗は燃やして処理しよう。これ以上亜獣が増えられても困る。」
「え~燃やしちゃうの。結構固い材質だよ。せっかくなら持てるだけ持とうよ。ケニーの盾もボロボロになってきてるし、これで盾とか装備とか作ろうよ。」
「タロウ、私も彼女の意見に賛成です。使える物は使うべきです。せっかく命がけでダンジョンに入っているのです。こういう素材だって貴重な報酬ですよ。」
二人にまくしたてられてしまった。確かに一理ある。
今回は全員で持てるだけ持っていくことにした。それでも持ちきれないほど余ってしまい残りは結局燃やすことになった。
鱗の後ろにあった穴だが、ほんのりと風の流れを感じる。外とつながっているかもしれない。
「行ってみますか?あっちの落ちてきた穴よりはしっかりと固い地面ですよ。おそらくですが動物たちが踏み固めたおかげ・・・でしょうか?」
アレクも同じ考えのようだ。おそらく野生動物たちはこの小さな穴を通ってこの空間にたどり着いたのだろう。
乾いた固い地面をしている。
俺は探査魔術で中を調査してみたが、反応はなかった。おそらく問題はないだろう。しかしこの穴も結構な急こう配だ。何かひっかける地面に引っ掛ける物が欲しいけど・・・
「これ使えないっすか?」
そう言ってケニーが出してきたのは、さっき倒した亜獣の骨だった。これもまた結構いい強度をしている。これならピッケル代わりになりそうだ。
アレクから俺、クララ、ケニーの順で穴に入っていく。ケニーには穴が狭そうだ。穴は順調に上へ伸びている。探査魔術の結果通り、特に敵は出てこない。
最後の方はかなり急だったが無事に外に出られた。
穴の部分は藪に隠れていて外からは発見しにくい状態だった。もしかしたら他にもこんな穴があるかもしれない。亜獣増加を止めるためにも調査したほうがいいと思う。でも同じような穴を探していくのは骨の折れる作業だ。
それなら、ダンジョン主を叩いたほうが速そうだ。
しかしあの固くて大きい鱗、あんなものを持っている敵を倒すとなるとしっかり準備するべきだろう。
「どうしますか?このままもう一度ダンジョンに挑みますか?私としては体制を整えた方がいいと思いますが・・・」
アレクも同じ考えのようだ。これには残り二人もうなずいた。
結局俺たちは何とかダンジョンの入り口まで戻り、そのまま帝都まで戻ることになった。ダンジョンの入り口に戻った時、同じくダンジョン前で待機していた冒険者たちは俺たちがダンジョンの入り口とは別のところから現れたことで大変驚いていた。
どうやら、俺達が中々帰ってこなかったから、中で何かあったのではないか?思って探索隊を組織していたらしい。
俺たちは獲得した情報を公開して挑むなら相当な準備をするように促した。同じ冒険をする仲間として命を失ってほしくはないが、先を越されるのもちょっと癪なので少し大げさになったかもしれない。
帝都まで戻る時、会話は少なかったが目は真剣だった。皆やることを考えている。命を失わないように、確実に攻略するために。
帝都に戻ってからは1週間後に万全の準備をしてから挑むことになった。
時間はない。
できることは何でもやろう。
俺はエマさんのところを訪れた。次の攻略に向けてちょっと試したいことがあったのだ。
「エマさんちょっと頼みたいことがあるんだ。って大丈夫か?」
エマさんは机につっぷしながら寝ていた。
「ああ、タロウさんおはようございます。ちょっと熱中していて、でもおかげでいいものができましたよ。」
「相変わらずだな。でもこっちも頼みたいことがあってね・・・」
俺はやりたいことを話した。
「えぇ~!?ダンジョンであの三輪車を使うんですか!?」
「ああ、ダンジョンはレベルが高い。今の装備だと十分に活動するのが難しい。たくさん荷物を持っていきたいけど、それは馬車だと難しい。でもあの三輪車の事を思い出してね。あれなら荷物を一度に多く運べる。どうだろう、俺に使わせてもらえないか?」
「でもあれは開発途中の物で、まだテストも十分にできてないのですよ。一応予備として2機作ってあるので予備の方であればお貸しすることはできるのですが大丈夫でしょうか・・・タロウさんたちの冒険についていけるか心配です。」
「うまく使いますよ。それよりも壊してしまう可能性もあるし、ダンジョンの中に置いてきてしまうかもしれない。それも大丈夫ですか?」
「壊れる分には耐久のテストになるので問題ないです。その代わりどんな状況で壊れたか詳細を教えてほしいです。・・・その・・・そんなに危ないところに行くのですよね?せっかく知り合ったのに会えなくなるのは友人として寂しいです。必ず帰ってきてくださいね。」
「お約束しますよ。それに三輪車も必ず返すよ」
こうして俺は荷物運び用に三輪車を借りた。
たった一戦でクロスボウの矢を無くしてしまっていては、いつまでたっても攻略には届かない。
ならば、魔石で動く三輪車に木箱を備え付け鉄製の矢や様々な魔石に食料、それに厚手の布等詰められるだけの荷物を詰めた。
それに俺が作っていた魔道具も試作品がほとんどだが詰め込んだ。ちなみにこの三輪車は魔導三輪と名付けられているらしい。
魔導三輪は前面にむき出しのエンジン。その後ろに座席があって、その後ろに荷台がある。以前見たものに比べ出力が上昇し、多くの荷物を乗せられるようになった。
俺はこの魔導三輪を携えて帝国の正門に向かった。
一週間後、ダンジョンに向かう門に、皆は集まった。
アレクはいつもよりも強靭な鎧を身に着け、いつもより大きいバトルアックスを持っていた。装飾も凝っている。
ケニーもがっちりとした鎧に今までとは違う盾を持っている。どうやら持ち帰った鱗で作ったようだ。持たせてもらったが以前より頑丈で軽くなったように感じる。
クララは、装備自体は大きく変更はないが、変わった点が二つある。一つはモノクルをつけていた。どうやら照準が付いていて魔素を流すと倍率を変えることができるらしい。高価なもので特別製だそうだ。
もう一つは最近開発された、銃だ。といっても実用域に達していないそうだ。弾を込めるのは手間がかかり火をつけてから弾が発射されるまで時間がかかる。さらにはとてつもない音と反動だ。本当に大砲を小さくしたような物らしい。
これは魔素を込めると火の魔石が反応し火薬を熱することで弾丸を放つ。
しかし、手持ちできる物の中では非常に高い威力が出る武器だ。あの鱗を効率よく貫通するためには魔弓だけだと心配になったらしい。
俺はエマさんから借りた魔道三輪を紹介した。みんなそれぞれ驚いたように見学をしている。特にクララは大変気に入ったようだ。運転したいというより乗せて目的地まで連れて行ってほしいらしい。
追加で持ってきた荷車の空きから降りなくなった。それから持ってきた荷物を紹介し、出発となった。
ダンジョンが隠されている雑木林までの道は安全で、魔道三輪と荷車に全員が乗って移動した。歩くよりも断然に早く初めてダンジョンに挑んだ時よりも早く雑木林に到着した。
雑木林に入ってからは道を選ばなければならないし敵と会う可能性が高いからゆっくりと移動する。しかし・・・
「妙ですね。明らかに敵の数が減っています。前回の経験ではこのタイミングで4~5回は戦闘をしていましたが今日は1回しか戦っていません。」
アレクは先頭を歩きながら言う。
「ダンジョンに挑戦する人が増えたから、亜獣が減ったんじゃないの?」
確かにダンジョンに挑戦する人は増えていた。この雑木林に入る時も、一組のパーティーが我先にと入っていった。
どうやら俺たちが帝都で準備していた頃、俺たちが落ちた穴を加工して中継地点にしたらしい。
ダンジョン攻略が進んだ高揚感からか、より人気になっていた。
「確かに参加者の数が増えているのは理由としてあるでしょうね。でも私としてはあの鱗を処分したのが大きいかなと思っていますよ。」
「本当に効果があったんだな。だとすると亜獣っていうのは魔獣の組織を取り込むことで亜獣化するってことなのか?・・・」
皆が俺を見ていた。・・・俺はいつの間にか疑問に思ったことをそのまま口に出した。
どうやら集中して考えたらしゃべってしまったらしい。ちょっと恥ずかしい。
「それは分かんないけど。魔獣を倒さないと亜獣も減らないってことか・・・弱いといいなぁ。」
クララは気にした様子はなく、魔道三輪の上から吐き出すように言う。
戦闘が終わると決まってこの上に乗る。
相当気に入ったようだ。そんなこんなで歩を進めるとダンジョンの入り口に付いた。
結局、入り口にたどり着くまで戦闘は無く、簡単にたどり着いた。