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交易都市 オヤイモ4

動かない猿の魔獣を確認し、地面に座り込んだ。


大木は完全に魔獣の頭に当たって、サルの魔獣は意識を失っているようだ。

今考えれば、かなり無茶なやり方だ。うまくいってよかった。

一気に力が抜けた。魔石もほとんど使い切った。


死を感じたからだろうか。

この世界に来てすぐの事を思い出した。やっぱり俺はこの世界で生きていくには、まだまだ甘い。

今回みたいに運がよくなければ、簡単に死んでしまう。早くこの林を出よう。

サルの魔獣もまだ意識を失っただけだ、起き上がる前に逃げなければ。


林の中をゆっくり歩いていく。

破裂魔石が足に当たったようだ。予想以上に怪我をしてしまった。

血もかなり流れている。

遠くに街の明かりが見えてきた。もう少しだ。


だが・・・

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」

木々に反響し、林の中から体の芯から震えるような唸り声が聞こえる。

「くそッ アレでもまだダメなのかよ。」

魔獣の生命力を侮った。

こんなにも回復力があったなんて。


鈍い爆発音のような音がして後ろを振り向くと、・・・猿の魔獣はいなかった。

はっきりと大きい影が迫る。

上に振り向き姿を捉えるが、もう遅い。

上空から体の左側を、巻き込むように殴られた。

どれぐらい吹き飛んだだろう?全身がしびれて、起き上がれない。


サルの魔獣はゆっくりとやってきた。大きく口を開いている。

俺も餌として食うつもりなのか!

こんなところで終わるのか?

嫌だ! 

元の世界でも何もなせていない。こっちの世界でも何もなせていない。こんなとこで死にたくない。


少しだけ動くようになった右手でバッグの中を探ると魔石に当たった。残りは確か高純度の光と火の魔石だ。

俺の実力だと火の魔石は燃やす物に接触していないと効果を出せない。

もうなりふり言ってられない。感覚で魔石を掴む。

気力を振り絞って魔石を取り出し、開かれた口に、自らから腕を突っ込んだ。

同時に、目をつぶって集中し大量の熱が伝わるように、熱が流れるイメージを持って

全力で、魔石を発動した。

とたんに体中から何かが抜ける感覚があった。


サルの魔獣の口は青白く発光し、体中に電撃が走り回った。激しく痙攣し最後に口の中から煙をだして仰向けに倒れた。

完全に倒すことができていた。

俺はそれを確認する気力もなく、そのまま意識を失った。


気づいたら宿泊していたベッドの上にいた。体中包帯まみれで治療された跡がある。

「あっ気づきました?ちょっと待っててくださいね。今、団長さんを呼んできますから」

宿泊施設の看板娘がこちらを覗いていた。辺りには水や俺が着ていた、破れた服がある。

日付を見ると一日がたっていた。しばらくして団長が入ってくる。

「やあ、気分はどうだい? 知らせを聞いたときには大変驚いたよ。」


そこから事件の顛末を聞いた。

魔術師のクローネが街のはずれで片腕を無くした状態で発見され、兵士が治療と調査を行っているとき双子の子供がやってきたので、すぐに林へ駆けつけることができた。

林に駆けつけると、倒れた俺とサルの魔獣がいた。

サルの魔獣は完全に死亡しており、全身焼けたようになっていたという。また探していた魔獣に間違いなく、被害もすべて確認できたとのことだ。


俺は体のいたるところに打ち身や切り傷があり、左腕は折れているそうだ。右足も骨にひびが入っている、さらに右肩に深い噛み傷がある。ボロボロだな。

しばらくは安静にしなければならない。


とりあえずは回復が優先ということで状況説明が終わった後、もうひと眠りについた。

夜になって双子の子供たちと上司のユーリと奥さんがやってきた。

「タロウ君 子供たちを守ってくれてありがとう。」

「そんな、俺も必死で、結果的に助けられただけです。そんなにかしこまらないでください。」

「それでも君は私の家族を待ってくれたのだ。この恩は忘れない。必ず返すよ。」

俺は、これ以上は失礼にあたると思い、謝礼を素直に受け取った。

「お兄ちゃん 助けてくれてありがとう。」

そう言ってエリーがきれいな花の押し花をくれた。


数日たった後、医者に治療を受けていた。

「これで大まかな治療は終わりましたよ。ある程度激しく動いても大丈夫です。だけど骨はまだくっついていないので気をつけて下さいね。」

「ありがとうございます。それにしても便利ですね。その魔石。」

「これは光の魔石の一種です。

仕組みはわかっていないのですが治療効果を促進する働きがあります。これを使える人が少なくて困ってるんですよ。」

医者はそう言いながら見せてくれる。回復の魔石と呼ばれている。理屈は全く分からないが怪我の治療を行える魔石らしい・


中途半端に高度なものがあれば生活においては意外と使いづらかったりする。厄介な魔石を使いこなせる場合は、それを専門に生業としているみたいだ。


宿舎から出て街の中を散策していると、商団が出発の準備をしていた。

予定通り帝国の派兵が終わるので、これに合わせて街を出るのだ。

ちなみにダンジョンは見つけられず、何故サルの魔獣が街の中にいたかは不明のままである。

「しばらくはお荷物だな。」

ノエルがまたちょっかいをかけてきた。

「お前はいっつも、ちょっかいかけてくるな」


いつものように言い返すと、突然ニヤついた顔が消える。

「今日は聞きたいことがあってきたんだ。お前ひとりで魔獣と、どうやって戦った?」

いつもとは違ってすごくまじめだ。

「最後はどうやって倒せたのか。よく覚えてないんだ。」

「こいつが近くに落ちてたぜ。高価なものだから、私が預かっといた。」

俺は高純度魔石を受け取った。


それは・・・光の魔石だ。

後から分かったことだったが、俺が使った魔石は火の魔石ではなく、間違って掴んだ光の魔石だった。

攻撃した直後から記憶はない。だから何があったか詳しくは覚えていない。

だけど、なぜか魔石を使った時のイメージはしっかりと覚えていた。

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