火?のダンジョン-3
壁は抵抗感なく、ずるりと後ろに窪んだ。
支えを無くしたクララは引きずられるように、開いた穴に落ちていく。細い腕をバタつかせたが、むなしくも空を切るだけだ。
皆駆け出した。一番早かったのはケニーだ。
彼は意外と素早く、見事にクララの服をつかみ勢いよく固い地面のある方へ投げ飛ばした。アレクが受け止める。しかし反動で彼の体は穴の方へ向かった。
俺は遅れて、たどりつきケニーを引っ張ろうと踏み込んだ時だった。今度は俺の足元が抜け落ちた。
結果、俺とケニーは穴の下に転がり落ちた。数メートルは落ちたか!?体中が痛い。
落ちた先に明かりは無く、空間はあるようだが全体像が把握できない。
体中が土だらけだ。打撲をしたが問題なく動けそうだ。
「ケニー無事か!?」
「問題ないっす。それより真っ暗なままは危ないっす。明かりを。」
俺は辺りに光の魔石をまばらに投げつけた。薄暗く照らされた空間は意外と大きかったようだ。
ばらまいた魔石だけでは全体像を照らすことはできなかった。しかし十分に分かることが一つあった。
大量の目がこちらを見ていたのだ。
今までは群れても5~6体だったのに、目の前には20~30体入るだろうか?オオカミ型にシカ型、モグラ型が一堂に介している。
「ケニー!」「うっす!」
ケニーは合図とともに大盾を構えて俺の前に出る。俺は急いでクロスボウを使って鉄製の矢をいろいろな場所に打ち込んだ。そして持っていた光の魔石も全部投げつける。
壁の強度が心配だが大量の敵を相手にするにはあれをやるしかない。
まずは足の速いオオカミ型の亜獣が襲ってくる。ケニーが盾で突進を防いで反動でのけぞった敵をショートソードで切りつける。うまい処理だが、さすがに敵が多い。
ケニーに少しずつだが生傷が増えてきた。
俺は亜獣や壁に矢を打ち終えた。もう矢は残っていない。
「いいぞ。ケニー。下がれ!」
「うっす。」
ケニーと入れ替わるように俺は前に出た。俺ができる最大の攻撃
大出力で部屋中に拡散する雷を発動させた。
部屋中に轟音とともにランダムな光の線が走る。電撃は俺がばらまいた矢に流れ、部屋の隅々まで広がる。
ちりばめた光の魔石から他の魔石を伝って電流が走る。雷の青紫の光は部屋の隅から隅をつないだ。
その流れに巻き込まれて色々な敵が雷にのまれた。
大部屋は光に照らされて一瞬全体像が見える。卵を横に倒したような楕円形をしていた。
やがて光が収まり、開いた空間は静けさを取り戻した。
ちりばめた光の魔石は効果を無くしたのか明かりが消えてしまって部屋の中は暗さを取り戻した。
・・・まだ少し物音がする。全部は倒しきれなかったのか?だいぶ数は減らせたみたいだが・・・
一匹のオオカミ型の亜獣が暗闇から現れた。
反応が遅れる。俺はいつも通り小規模の雷の魔術を発動し、前面に稲妻の壁ができあがる。
人に使っていた技だが効くか!?
オオカミ型の亜獣は勢いよく突進してきた。稲妻の壁に触れると体勢を崩したが、勢いがなくなることなく、そのまま大型犬並みの図体がぶつかる。防御が間に合わず、くらってしまう。
「ぐぅっ!」
俺はそのまま後ろに吹き飛ばされ1メートルくらい移動する。
口の中に鉄の味が広がり体に鈍い痛みがあるが無視して立ち上がる。
まずい・・・攻撃手段が無い。
破裂魔石を投げつけるが、オオカミ型のような素早くて小さい敵には効果をはっきしづらい。
案の定、見事に躱され、また距離を詰められる。
もう一度雷の魔術を打ち込もうと、光の魔石を構える。しかしすぐ目の前まで迫っている。間に合うか?・・・しかしオオカミ型の亜獣は大盾に吹き飛ばされた。
ケニーだ。
ケニーが大盾で吹き飛ばした後、ショートソードでとどめをさした。
「申し訳ないっす・・・ちょっと音と光が大きかったもので、驚いちまいました。」
「俺もしっかりと言ってなかったのは悪かった。今後は気をつけるよ。それより、敵は全部倒せたか?」
「気配は・・・しないっすね。一応確認して回りましょう。」
俺達は壁伝いに中を探索した。矢を回収したり、ちりばめた光に再度、魔素を込めて明るくした。
どうやら敵は全て倒すことができたようだ。
今は亜獣から魔石をとり、死体を処分する、戦いの後の処理をしている。ケニーが手際よく処理をしてくれているおかげでそれなりに量はあったがもうすぐ終わりそうだ。ひとまず一難は乗り越えたか・・・
「ケニーはどうしてクララと一緒に冒険者なんてやっているんだ?そんなに手先が器用なら他の安定した職に就けそうなものだけど・・・」
俺は敵を全部倒した安心感から気が抜けて普段は聞かないようなことを聞いていた。
「俺は親がいないっす。物心ついたころにはクララの家にお世話になっていたっす。不愛想な俺だけど、差別されることなくここまで育ててもらったっす。だからその恩返しをしたいんっすよ。」
「そっか、それなら早く戻らないとな・・・しかしどうやって上る?」
処理を終えた俺達は落ちてきた穴を見上げていた。
かなり急こう配な坂?壁のようになっており、登っていくには苦労しそうだ。
固い土の壁だからピッケルみたいな物を打ち付けながらなら登れそうな気もするが・・・ん?上から何か落ちてきた。
「ケニーーーータロウーーーー」
上からクララとアレクが降ってきた。
「助けに来たよ!ってあれ・・・もしかしてもう終わった?」
ケニーはうなづくと、‘何よ、もう’といった感じの態度をとっていたがケニーが無事なのがうれしいようだ。表情が緩んでいる。
「タロウ上から強い光が走るのを見ました。雷の魔術をつかったようですが、調子はどうですか?」
「疲れてはいるが問題ない。アカウ村の時からいろいろと研究して大出力でも、もっと使えるように調整していたんだ。光の魔石をばらまいて魔術を使うと、ばらまいた光の魔石からも雷が出ることに気づいたんだ。おかげでちょっとだけ使える回数が増えたよ。」
「そうですか。それは殊勝ですね。ところであの亜獣の塊はこの空間にいた敵ですか?かなりの数ですね。」
「確かにすごいねーこいつら全部倒したの?あとごめん・・・」
なんか勢いで謝られた。まあ不測の事態はよくあることだし、おあいこだ。
大丈夫と返事を返した。
一通り状況確認を終えたところでずっと疑問に思っていた事を聞く。
「ところでお前たちどうやって上るか考えて降りてきたのか?」
「「あっ」」
広い空間の中で男女4人が真ん中に集まって話し合いをしていた。議題はどうやってこの大きい空間を出るか。
広い空間というのは分かりづらいからモンスターハウスと呼ぼう。
アレクは言う。
「気合であの崖を上りましょう!」
多分、アレクはできるかもしれないが俺は途中で落ちる気しかしない。
クララは言う。
「穴掘れば抜けれらるかも!」
どれくらい掘る気なのだろうか
ケニーは答える。
「うっす」
さてどうするか・・・簡単な脱出方法は落ちてきた穴を登るということだが、確認したところ、崩れ落ちただけあってかなり不安定なつくりだった。それに素手で登るのはためらわれる。
他の道はないだろうか、例えば倒した亜獣達は元はただの野生動物たちだ。そいつらはどこから来たのか。
モンスターハウスの中を探索する。空間はかなり広いつくりをしていて、壁からはキラキラと光るものが見える。小さいが火の魔石だ。
このダンジョンは火の魔石が採掘されるだろうと言われていたが、本当にあるとは・・・だけど魔石は小さい。
「タロウこっちへ来てください。」
アレクに呼ばれて向かうと何かの抜け殻があった。
蛇だろうか・・・まだら模様が見える。問題なのは異様に大きいということだ。一枚の鱗が大きい物で50センチはある。明らかに異常だ。
これは魔獣だ。体格が大きく変化する魔獣の特徴を示していると言える。
この洞窟の奥にはこの鱗を持つ魔獣がいる。これを倒すのは骨が折れそうだ。アレクを見ると明らかにニヤついてやっぱり戦闘狂の素質がある。
ケニーは何を感じているのだろうか、よくわからない。クララは嫌そうな顔をしている。皆相変わらずといった感じだ。
この抜け殻の後ろに腰ぐらいの大きさに開いた穴があった。また穴だ・・・




