火?のダンジョン-2
テントを作った後、就寝まで手持無沙汰になったので情報集めをする。
ギルドで話したことがある人たちがいた。もう挑戦したのだろうか?
「やあ、調子はどうだい?」
「ん? タロウか。お前もダンジョンに挑むのか珍しいな・・・調子は良くないね。敵がどこから来るかわからない。そのせいで進みがよくない。それなのに結構奥が深そうなんだ。せめて荷車みたいな荷物を運んでくれる道具が欲しいところだな。」
快く教えてもらったが得られた情報は楽しくなるようなものではなかった。
やはりなかなか難しいみたいだ。仮に俺の探査魔術があったところで対応できなければ同じことだ。
魔術の使用は控えめで行こうか、洞窟の中ということもあるし・・・
もう少し話をして分かったことがある。雑木林にいる敵はどこから現れているか不明なんだそうだ。ダンジョンの入り口前にずっといるけど亜獣が外に出た様子はない。
もしかしたら別のトンネルがあったりして・・・そんなことを考えながらテントに戻った。
光の魔石を持っていくのは当然として、火の魔石はあまり持って行かない。強いて言うなら破裂魔石ぐらいか、それと回復魔石、鉄製の矢を多く持つ。それからちょっと試したい道具を何個か持って準備を終える。あとは出たとこ勝負だな。
俺は次の日に備え、しっかりと休息をとった。
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俺たちは今、洞窟の前にいる。
「クララは途中まで進んだことがあるんだよな?」
「そうよ。でもどれぐらい深いかわからないから、あんまり役に立たないわ。」
「まぁ、それは調査しながら確かめるのみだな。」
しばらく進むと中は薄暗く、広さの感覚がつかみにくいが意外と広そうだ。光はなく自分たちが持っている光源がすべてである。
「前方、亜獣!数は不明、30メートル」
ダンジョンの中は雑木林よりも連戦が続いていた。
敵の種類は変わらないが、雑木林よりも狭く、さらに道が複雑にカーブしていて正確な距離をつかみ損ねていた。
結局かなり近づかないと気づけなかったのである。それでも戦いのため、準備できるのとできないのでは天と地の差がある。
俺たちは何とか対応し、無傷で攻略を進めることが出来ていた。
「それにしても本当に敵が多いですね。壁のあちらこちらに亜獣が掘ったであろう穴が開いていますし、これからも相当多くの敵が見込まれますね。」
アレクの指摘通り敵の数が今まで経験したことがないほどの数だった。
「うーーん?」
「どうしたの?タロウ。」
「いや、なんでこんなに多いんだろうって?考えていたんだ。」
「そりゃダンジョンだからっすね。」
珍しくケニーが答える。
クララもこっちを見て、言っている意味が分からないといった感じの表情をしている。
「俺たちは確実にダンジョンの奥底まで進んでいる。であれば亜獣たちも、それに合わせて地面に穴を掘って潜らないといけないわけだろ。じゃないと前方で俺たちを待ち構えるなんてできないんだから。」
「確かにそうですね。でも潜っているのではないですか?」
「それなら地上にもっとたくさん穴が開いてないとおかしいだろ?一つの穴を共有して使うってことも考えられるけど亜獣たちがそこまで理性的だとは考えにくいし・・・」
「何が言いたいわけ?」
クララは早く言えといった感じだ。
「あくまで仮説だが、一本道だと思っていたが実はもう一つ道があるじゃないか?もしくは亜獣が作り出される空間があるとか?」
「なるほどその空間から穴を掘って亜獣たちが供給されていると?」
「そうだ。普通の生物がどのようにして、亜獣に変化するかは解明されていない。
だけど、そのような空間があれば亜獣がたくさん生まれてくるはずだ。
「あはははははは・・・タロウって冗談言うんだね。そんな大きい場所があるならとっくに見つかっていると思うよ。」
クララはおなかを押さえながら笑っている。ケニーはそれをなだめている。
「どうかな?意外とみんな慎重になりすぎて壁とかあまり触らないから調査不足になっているのかも。」
そう言って俺は地面の土を手に取った。地面の土は湿っていて粘り気がある。この土地の周りの土なのだろうか。土は手のひらから落ちるとき糸を引いていた。
「どちらにしろ亜獣はこれからも来るということですね。奴らが通ってきたであろう穴を埋めながら進みますよ。」
俺たちは攻略を進める。
今まで歩いてきた距離と時間、探査魔術で得られた結果を合わせて、おおむねどこら辺にいるかは何となくわかった。今、俺たちはこの地下洞窟の中腹あたりにいる。
探査魔術を使ってざっくりとした距離感をつかんでみたが、この方法に関しては改善が必要だな。うまくできれば結構便利そうな予感がする。
最深部までの情報がわかっただけ良しとするか。そのことをアレクたちに伝えると、ここらへんで一旦休憩することになった。
「これだけのダンジョンが今まで未発見とはよく隠れていたものです。」
アレクは感心したようにつぶやく。
「そうだよねーこんなに大きい洞窟を作れるほど大きい生物がいるってことかな?最深部の攻略はちょっと憂鬱だな・・・」
「偵察をしっかりと行って、ダメそうなら素直に戻って応援を呼びましょう。・・・なんですその顔は。」
クララは珍しい物を見たといった顔だ。そしてすぐにニヤッとした。
「昔のアレクならここで誰かに先を越される前に、先手必勝で攻撃しようとか言っていたのに人は変わるものだね~。」
「ええ、私も多くを学んだのでね。あなたこそ、その人を小ばかにする性格は変わっていないようですね。はぁ~人は変わらないものですね。」
「なんだとー!こっちにこい成敗してやる!」
暴れるクララを後ろから羽交い絞めでケニーが抑えている。どうやらこれが彼らのスタイルらしい。
「ところでタロウ。さっきから何をやっているのですか?」
「詳細な地図を作っているんだ。ギルドからもらった地図を見てくれ、入り口は広くできていて、だんだん細くなっているんだ。このペースで細くなれば今いるこの場所で俺たちの身長と同じぐらいか、それより細いぐらいの大きさになる。だけど現実はどうだ?ここはかなり広いだろう。ある地点から急激に大きくなっているんだ。」
「それで地図を詳細に描いていたと?」
「そういうこと、でもそれ以外何にもわからない。こんな変なダンジョンどうやって作ったんだろうな?」
「一般的には自然できると言われてるけどねー。」
クララはケニーに寄りかかりながら、常識だろ?といった表情をしながら答える。
だが残念。それぐらいなら俺も調べがついている。問題はこの洞窟は全然自然じゃない。
まるで誰かが押し固めたように壁が平らなことにある。
さらに、この洞窟は気温が高い。なのに地面は乾かずにいる。もちろん地下水の可能性はあるが、中途半端なのだ。濡れていたり、そうでは無かったり、まだ何もわからないが慎重に進むべきだろう。
「皆、これからもっと慎重に進むべきだ。敵の出現ペースも不規則になっている。道もより複雑になっていて探査が遅れる。一旦戻ることも視野に入れて行動しよう。」
「了解です。」「えー」
返事は二つあった。
アレクとクララだ。アレクはパーティーを組んだ経験があるから俺の意見をよく聞いて考えてくれる。
しかしクララは以前より進んだことがうれしいのか、それとも俺の意見を適当に受け流しているのか、はっきりとはわからないがかなり浮かれている。
「クララここは彼の意見に従った方がいいっす。」
珍しくケニーがクララを諭す。
クララは少しむすっとして準備を始めた。
警戒しながら攻略を進める。
おかしい、亜獣が現れなくなった。さっきまで連戦続きだったのに突然いなくなったように反応が無くなった。
「ここでまた休憩をしませんか?」
アレクが提案する。
彼はさっき襲ってきたモグラの亜獣を倒した際に多量の返り血を浴びてしまった。それを拭きたいのだろう。俺は異論がないので声なくうなずく流石に疲労もたまってきた。
まだちょっとふてくされているのかクララは無言で壁に寄りかかった時だった。
クララの後ろが真っ黒になった。




