火?のダンジョン
まず彼女は声が大きかった。
「ちょっと静かに!ところで俺の噂ってどんなこと言われてるの?」
「ええっと。なんだっけ、確か遠くの敵の存在がわかる。バチバチと光る魔術を使う。意外と頭がいい。一目ではわからないほど平凡。」
最初の方はまだよかった。けど後半の方は悪口だった。なんだか釈然としないなぁ・・・
「ねぇ、タロウ。あなた魔獣の探知が出来るのよね?」
「どうかな?他人のそら似ということもあるだろ。」
「ここらへんでタロウって名前の冒険者は見かけなかったけどな。それにタロウお金に困っているんだよね?ダンジョンは結構稼げると思うけど・・・どう一緒に潜らない?」
確かに資金には困っている。
ダンジョンのシステムを聞いた限りだとダンジョンから得られる利益で十二分に失った分を賄える。でもそれ以上に命の危険があるということか・・・
「わかったよ、俺もダンジョン攻略に参加させてくれ。だけど俺は素人だぞ。大丈夫か?」
「りょーかい。それぐらいは私たちとしてもしっかりとカバーしていくよ。」
「だけどこのままだと、チームのバランスが悪いっす。」
ポツリとケニーが話す。
ケニーの指摘通り、後衛が二人、前衛が一人。しかもタンク。ここはアタッカーとなる人が欲しいところである。
そんな相談をしていた時だった。目の前をアレクが通り過ぎる。アレクは依頼を受けるのだろうか?呆然と掲示板を見ていた。俺とクララは同じことを考えていたようだ。
「「ア~レ~ク君、遊びましょう」」
「なんですか?何時からそんなに仲良くなったんですか?」
「いいじゃないか、そんなこと。それより任務をお探しか?それならちょうどいいものを知っているぜ。」
俺がそう仕掛けると
「うっそうとした林の中に未整備の洞窟があって最深部には宝の山がザックザクですよ。旦那、おひとついかがですか?」
クララがこれに続いた。
アレクは二人をじっくりと見た後はぁ~と大きく息を吐きだして
「大方、クララとケニーでダンジョン攻略に向かったもののうまいこと達成できず、タロウが誘われたというところでしょうか。しかしそのメンバーではチームとしてバランスが悪い。だから私を誘ったというというところですかね。」
「・・・」「・・・」
俺たちはぐうの音も出なかった。
「いいですよ。ちょうど手持無沙汰になったところなので。でもそうですね・・・ただ参加するのも面白くないので“手伝ってください”と頭を下げたら手伝ってあげてもいいですよ。」
こ、こいつ・・・調子に乗りやがって、確かに有力な前衛だけど何となく頭は下げたくない。クララの方を見ると歯ぎしりをしている。俺と同じ感じだった。
「手伝ってくださいよろしくお願いします。」
「「えっ」」
振り向くとケニーがあっさりと頭を下げていた。
これにはアレクも予想外だったのかなんとも言えない返事を返していた。かくして俺たちはダンジョンに挑むこととなった。
今回のダンジョンは一本の大きい道があり、これがかなり長い。そして深さもある。この太い道から枝を伸ばすように亜獣たちの通り道が形成されている。
基本的に俺が中央に立ち探査魔術を使う。俺の後ろにクララが付き、俺の前にケニーそしてアレクがつく縦長の構成で進むことにした。
ここは帝国から南西に馬車で3~4日移動した場所。
冬なのに草木が生い茂る雑木林に来た。ここら辺だけ異様に気温が高い。
だからダンジョンの奥底にあるのは火の魔石だなんていわれるわけだな。
普通の野生動物はあまりいないようだ。けものみちすら、はっきりしないごちゃごちゃした場所だ。その代わりふつうは考えにくい位置に、大きくえぐれた木々があったり、高い位置に突き刺さった刀剣など、激しい戦闘があったことが分かる。
「これは進むのが難しそうですね。これをいちいち払っていてはダンジョンにたどり着くまで何時になるのやらという感じですね。」
アレクは雑木林の前でうなる。
「でしょ!しかも厄介なことに払っても次の日には、また生い茂るんだよ。冬なのにこんなに生えるなんて聞いたことなし、というかここら辺だけやけに気温が高いよね。」
クララは不思議そうにしゃべる。クララの背中には魔弓が装備されていた。
魔弓は弓に魔石が組み込まれていて、魔石を発動すると、とてつもない柔らかさとなる。これにより本来は曲がらないはず金属が曲がるようになる。
弓を引いた状態で魔石の効果を切ると柔らかさが元に戻り、その反力で矢を打ち出す。この矢が生み出す威力は分厚い金属の板をいとも簡単に貫通し、大穴を開ける。
一度威力を見せてもらったが見事に矢が大岩にめり込んで岩が割れていた。
ケニーは彼の高身長をちょうど隠すほどの大盾を装備している。
重量も相当なもので俺は持ち上げるのがやっとだ。かなり使い込まれている。
「ごちゃごちゃ言っても始まらないし、行きますか。作戦は予定通りで。」
クララがそう言うと皆はそれぞれ返事をした。
おれは早速、探査魔術を使った。少し値段が高かったが使う光魔石を全て高級魔石で統一しアップグレードした。すると探査距離が少しだけ伸び、100メートルから150メートルまで拡大した。
さらに受信側の魔石ランプも少し改良して光の強さでおおむねの距離が測れるようになった。そして今、魔道ランプはうっすらと光る。
「前方130メートルギリギリに反応あり。」
おれの言葉にそれぞれが武器を構える。敵もこっちをしっかり認識したらしい。そして戦闘が始まっていく。
数々の戦闘をこなしながら、俺たちはダンジョン手前まで進んできた。
「次!左から30メートル」
ケニーが前に出て盾を構える。
アレクは前の戦闘で倒した亜獣にとどめを刺してから、次の魔獣を相手にするために向かって走ってきている。クララは次の相手を捕らえたみたいだ。魔弓を引き、矢を射る。
矢は見事に一体にヒットし一発で撃退。
だけど残り二つの動く影を見つけた。敵は3体いたようだ残り2体が複雑な動きを見せながら動き回る。
1体に対し、クロスボウを打ち込む。数発外したが一発はあてた。
動きが遅くなった亜獣にいつもの麻の紐をつけた矢で亜獣の近くまで打ち込んだ。近くまで飛んだところで魔術を行使する。電撃は麻の紐、矢、空間と渡って亜獣に撃ち込まれた矢に落ちる。しばらくしたのち1体が動きを止めた。
「くそ、障害物が多すぎて、電撃が他の物に吸われる。」
残り1体が雑木林から躍り出た。ケニーは突進を受け止める。反動で空中に放り出された亜獣は、アレクによって真っ二つにされた。
連戦だったが危なげなく敵を撃退した。
今回の亜獣は全てサルをベースとしていた。他にも狼にイノシシといった感じで目新しさはないが種類が多く、いまみたいに複数体で襲い掛かってくる場合が多い。
足場が悪く、雑木林で視界も悪い。本当に戦闘が困難だ。
クララの話ではこれらに加えてシカなどあと2~3種類いるそうだ。
そのほかにも通常の野生動物が出てくる。一部のパーティーがダンジョンにたどり着く前に撤退しているのもうなずける難易度だ。
敵の処理を終え、みんなは一度集まる。
アレクは状態確認を行った。アレクは冒険者ランクが一番高く、また戦闘経験が豊富だ。だからリーダーとなってもらった。
「皆さん。けがはありませんね?地図によると冒険者たちが作ったテント群があるそうです。距離は近く、あと数分でたどり着けるので一気に進んでしまおうかと考えていますがどうでしょうか?」
「異議なし」
俺は即座に答えた。
他の二人も反対しないのでダンジョン前まで一気に歩を進めた。
そこから一回だけ戦闘が起こったがこれも問題なくクリアし、ダンジョン前までたどり着いた。
ダンジョンは地面に大きく穴が開いているという感じだ。周りには焼かれたのだろうか焦げた植物が辺りに散らばっていた。植物がこの穴を覆っていて発見が遅れたのだろう。
今は穴の周りだけを整備して、入りやすくしている。穴の周りにはテント群が形成されていて、焚火を囲って数人の人がいる。
テントの近くで武器を研いで整備していたりと皆それぞれに過ごして次のチャレンジに備えている。
どうやらここ一帯は安全が確保されているようだ。
「我々も近くに仮拠点を構えましょう。」
俺たちはテントをはり今日はとりあえず休むことにした。
明日からダンジョンにアタックすることにした。
異世界と言えばダンジョン!初めてのダンジョンだ。




