交易都市 オヤイモ3
数日後、調査兵団がこの街に到着し調査が始まった。
しかし大きな街とその周辺・・・簡単ではないようだ。
街の人間は元気に商売をするが、歩いている兵隊には日に日に疲れの色がうかがえる。
その日の販売を終え、荷物を片付けているとユーリが子供たちを探していた。
どうやら遊びに行ったまま帰ってこないらしい。
この話を聞いて、誰もが頭の中にいやなことが浮かぶ。
商団のみんなで子供探しが始まった。
「タロウお前は街のはずれにある藪方向へ探しに行け!私も逆側からそっちに回っていく。」
「了解!」
ノエルに返事を返すと、彼女は目にも止まらぬ速さで、街の中を駆け抜けていく。
探しに出る前に俺は一度、宿泊施設に帰った。
何かに使えるかもしれないと思い、高純度の魔石や他の魔石を急いでカバンに詰め込んで宿を飛び出した。
日は沈みかけている。
街の中を探し回っているが全然見つけられない。
子供はどこに行くだろうか?暗くなれば、帰ってくるはずだ。
でも帰ってこないということは、何か理由があるはずだ。
やはり迷子か?
街の地図を取り出して、迷いそうな場所に目星をつける。
路地裏やあまり立ち寄らない街の隅も探す。怖い方々もちらほらいるので、あまり大声を出せず、人さらいにあっていないことを願いながら辺りを散策する。
結局最後に探そうとしていた藪のような林のような、木々が生い茂った未整備の場所にたどり着く。
「エリー、マイクいるかー ユーリさんが心配しているぞー」
今まで大きな声を出していなかったから、思いっきり大きな声で探し回っていた。
これが・・・いけなかった。
日本に住んでいたこともあって平和ボケもあったのだろう。街の中は安全だと思い込んでいた。
気配を感じ、後ろにいたサルの化け物に気づけたのは奇跡だった。
「あっ、あ・・・・・」
声も上げられず、座り込んでしまう。
サル・・・はこの世の物とは思えない風貌をしていた。
2mはあろうかというほどに図体が大きく、口が頭のサイズに合っていない。歯がむき出しの状態で左目からくすんだ魔石が飛び出しそのまま首の後ろまで貫くように生えていた。
右腕は異常なほど大きいのに、左腕は人間のように細いかと思えば、両足はかなりしっかりしていて逆さまに木からぶら下がっている。
奥歯がガチガチとなる。
見てしまったからだ。
サルは人間の腕を食っていた。
あの服は見たことがある。クローネという炎の魔術師のものだ。魔術使いがやられた!?
逃げなきゃそう思い、立とうしたけど、恐怖でうまく力が入らない。
サルが地面におりてきた。そして窪んだ眼と視線が合ったと思ったら、サルはこちらの心を見透かしたように口角が上がる。
驚くべきスピードで右腕を振り上げ、殴りかかってきた。
恐怖で体がこわばる。
そのおかげで、何とか立って走り出すことができた。
足を何度か、もつれさせながら必死に林の奥に逃げていく。
ヤツは、また木の上にのぼりガサッガサッと木々を揺らしながら、ゆっくり追ってくる。
何度か、真上に位置しながら、ただ見ているだけの瞬間がある。
くそっ!、遊ばれているようだ。
かなり奥まで行くと、開けたところにでた。
しかし絶望は強まるばかりだった。誰かはわからない。雑に食われたであろう死体があったからだ。
ヤツはこの林を利用して人を追い込んでかなりの数食っていた。高い知性を持っているようだ。
上司のユーリに言われた‘魔獣にあったらまず逃げろ’ってことを思い出した。
しかしサルは道を塞ぐように、今まで走ってきた道にいる。もう覚悟を決めるしかない。必死に頭を回す。
「お前は勝ったつもりかもしれねぇけどよ。こっちにだって備えがあんだよ」
自分でも虚勢を張っているとわかっていながら、それでも声を絞り出す。
自衛用に閃光魔石(分類:光の魔石)と低級の破裂魔石(分類:火の魔石)が数個ある。
どちらも名前の通り、強い光を発するものと、ただ破裂するように魔石が砕けるものだ。
こんなものがどれ程通じるかわからないけど脚止めぐらいにはなるだろう。
「タロウお兄ちゃん!」
今は一番聞きたくない期待のこもった声だった。
林の間からこちらを覗く双子を、俺とサルが見ていた。
サルは、にやつき、俺は引きつる。
サルは子供たちに向かって走り出す。
「くそっ これでもくらえ!」
破裂魔石を猿の近くに投げつけると魔石が発動し破片がサルの顔に直撃する。傷をつけることは・・・できなかったが動きを止めることはできた。
猿の魔獣は顔をこすっている。
この隙にサルと子供たちの間に割って入る。
「エリー!マイク! 早く逃げろ。このまま真っすぐ進めば街に出られる。
街で兵隊にでっかいサルがいたと伝えてくれ。」
「でも、」
「いいから早くいけ!」
子供たちが走り出したことを確認すると、迫ってくるサルに閃光魔石をぶつけた。
すると強い光を発し、サルは驚いてひっくり返った。
よし効いている。
このまま兵隊が来るまで逃げながら時間稼ぎができれば助かる。
本当にこんな方法が通じるのか半信半疑だが
サルの化け物は起き上がり俺をにらみつける。
今ので、相当警戒されたようだ。
しかしこれで子供たちが狙われることはなくなった。
ある程度サルを見ていてヤツの行動が分かってきたからだろう。見た目は信じられない見た目をしているが、行動は猿そのものだ。
恐怖心が薄れてきたと同時に頭がまわっていることが分かる。
俺は破裂魔石を手に取り、なるべくサルの顔に投げられるように構える。
どんなに強くたって目や臓器といった部分は弱点であることに変わりがないはず。
ここを狙えば倒せなくても行動不能にはできるはずだ。
しかし、こっちに魔石が隠してあったように猿の魔獣にも奥の手があったのだ。
今まではサルらしいギャアギャアという声を上げていたのに、突然鈍い唸り声を上げ始めた。
驚いて、気を緩めてしまった。
「かはっ・・・!」
体が宙に浮いていた。息ができない、かなり吹き飛ばされた。
何が起こったかわからない。
何とか起き上がってみるとサルの両足が異常なほど膨れ上がっていた。
猿の魔獣が腰を下ろすと、ものすごい行きおいで殴りかかってくる。
転がるようにその拳を避ける。
猿の魔獣はそのまま地面を殴り、石や砂の破片が体中にぶつかる。
腹もいたいし、それ以上に左腕が痛む。さっき吹き飛ばされたときに折ったかもしれない。
俺はあまりにも弱い。たった一撃をくらっただけで、瀕死だ。
これじゃあ兵隊が来るまで持ちそうにない。
もう一発とびかかってきた突進を、転がるように何とかよけていると、腐り折れかかった大木にもたれかかる。
猿の魔獣は真っすぐ突進してくる。それを利用してこの木で押さえつけてやる!
俺は閃光魔石を使って目つぶしをした。
サルもすぐにそれに気づき目を細める。
そのすきに破裂魔石を取り出せるだけ取り出す。
サルは突進の構えをした。
視線が合った。猿の魔獣が飛び込んでくる。
破裂魔石を起動して、周囲にばらまく。残った破裂魔石を木に埋めるように蹴りこんだ。
勢いよく蹴った反動で移動し、猿の突進軌道からよけると同時に破裂魔石がはじけ飛んだ。
いくつかの破片が足に当たった。
同時に折れかかった大木にも魔石がヒットし大木が完全に折れ、倒れこんだ。
サルの化け物を頭から押さえつけるように。