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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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エントシ9

本当にこのままやってもいいのか?

そう聞いた。

「問題ありません。たとえここで治療をやめても他の方法があるわけではありません。母の代から研究を続けて、今ようやく魔石を壊せるのです。

私が生きているうちに、安全が確立する補償なんてありません。ならば・・・ここで覚悟を決めます。」

俺はその意思を聞いて、俺も覚悟を決める。


頭についている魔石に劣化した魔石を当てる。注意を払って少しずつ、ほんの少しずつ魔石を崩していく。目を覆っている部分もあれば、耳を塞いでいる部分さらには、きれいな髪を巻き込んでいる部分もある。どの部分も傷つけないように慎重に作業を進めた。

額には汗がにじみ頬を伝う。

やがて顔に付いた魔石ははがれていく。明かりが消えてからしばらく経つ。暗闇に目が慣れた。


月明かりは部屋のすべてをを照らした。

数年ぶりに魔石の取れたその顔は月明りに照らされ輪郭をはっきりとさせる。

「終わりました。見える範囲の魔石は全て取り除きましたよ。」

リナさんは俺の言葉を聞いて、ふらっと立ち上がった。久しぶりに歩けるようになった足でフラフラになりながらも姿見の前に立つ。

体から外れた魔石の破片が歩くのに合わせて、床にコトコトと落ちていく。

部屋に散らばっていく魔石など気にも留めず、リナさんは自分の姿を見て今日、何度目かの涙を流した。そして涙を流しながら振り返りお辞儀をした。

「タロウさん、本当にありがとうございます。私はまた歩くことができました。このご恩は一生忘れません。ローリング家の名に懸けて誓いたいと思います。」


・・・リナさんは歩くこともままならない状況が、一気に解決し感動しているが、冷静にならなければならない部分もある。 


「まだ根本的に問題を解決したわけではありません。

この方法は長期的に様子を見なければなりませんし、病気の影響が今後どうなるかわからない。現状だと人より多くの栄養を取らなければならなりませんし、それに魔道具も使うこともできません。そしてまたどこかで魔力的な影響を受ければ、体に魔石ができると思います。」

そう、まだ現状の改善ができただけで、わかっていない事だらけだ。


「本当は検査機も作って、もっと大規模に検査したかったんですけど、間に合わず申し訳ありません。生活はしづらいままだけど、今までよりは暮らしやすくなったと思います。」

言い訳だな、これは。

エコー検査機は約束していたわけではない。あくまで自分で決めた目標を自分で守れなかった。

それだけのことだが、俺は甘かった。


リナさんを変に期待させてしまったかもしれない。リナさんは部屋のあちこちを移動しニコニコとしている。

今までは見られなかった笑顔だった。

「はい!気を付けます。それにしても本当に見違えるようになりました。あっ」

リナさんは転びそうになった。俺は急いで受け止める。

「大丈夫ですか?まだ治ったばかりで十分に動けるわけではありません。気をつけてくださいね。」

「タロウさん、私、この病気が治ったらやりたかったことがたくさんあるんです。例えば・・・ダンスです。パーティーで来た方々が庭で楽しそうに踊っているのを見てうらやましかったんです。よければ私のダンスのお相手をしていただきませんか?」

「・・・私でよければ、喜んで。」

リナさんはいつの間にか薄いワンピースのような服を着ていた。ちゃんと全部着ているよな?


ダンスなんて高校生の頃、体育の授業でやった程度だがここで断るわけにいかない。

楽器は何一つなく、観客は一人もいない。無音のパーティ―だ。それでもリナさんは楽しそうだ。次第にリナさんは音楽を口ずさみ始めた。声だけが響く部屋が、二人きりの会場は、まるでパーティー会場にいるように感じた。


もともと体力の少ないリナさんは、すぐに疲れてしまいベッドに腰かけた。

「さて、俺はもう行きます。こんな夜中に入るのは契約違反ですから、見つからないうちに帰ります。あと借りたもの物も返しておきますね。」

どんどん荷物を置いていく。


「もう・・・この街を出られるのですよね。また会うことはできますか?」

「機会があれば、また」

夏になって山を越えられるようになればもう一度来て様子を見に来るつもりだ。これからどうなるか分からないが、次の夏には来たいところだ。

「そうですか。いえ、今度は私が会いに行けるぐらい元気になってこっちから会いに行きますよ。」


何をしに来るかわからないが、元気になる理由があるならそれでいいだろう。

「楽しみにしていますよ。」

俺はそう言って見つからないように屋敷を出た。


俺が屋敷を出た朝。

アンネはリナさんの部屋に向かい歓喜の悲鳴を上げた。悲鳴は屋敷に響き渡り、その日からしばらくの間、屋敷はお祭り騒ぎとなった。


数日後・・・

俺たちはエントシを出て、王都を目指していた。

日程の都合上、早く王都に行って早く港に帰った方がいい。

やっぱり雪が積もっていて進みが遅い。


「もう街を出てよかったのですか?連日必死に研究していたようですが」

アレクは俺にそう尋ねる。

「問題ない。あらかた片を付けてきた。あとは経過観察してだな。今は屋敷の中もてんやわんやしているだろうし。」

「そうですか。あなたがそれで良いならば私も特に問題はありません。では急ぎますよ。今回は特別です。大木を運搬したとき、そのお礼として貸していただきました。」


目の前にいるのはエントシに来た時よりも荒々しい見た目をした犬?いやオオカミ達だった。

以前乗った犬ソリで使っていた犬よりガタイがよく、ギラギラと光る牙が見える。

ちなみにというよりもやっぱり、かなり激しい走りだった。

そのおかげか王都には3~4日かかるところを2日もかからないでたどり着いた。王都ギルドに来た後は宿を借りて荷物を置き、王都の中を歩いていた。

「ところで王都に行くのは良いのですが、どうやって勇者伝説を調べますか?王都の図書や資料だって一般人は見ることができませんよ。」

アレクの指摘はもっともだ。帝都でもそうだったからな。だからリナさんに一筆したためてもらった。

「それについては大丈夫だ。しっかりと貰ってきたから・・・これだ!」

「それは、紹介状。しかも王立図書館の、よくそんな物を手に入れることができましたね。」

「金や名声はいらないと言ってもらわなかったんだ。その代わりの物として一筆したためてもらった。」

「なるほど、それがあるなら来た意味もありますね。あれが王立図書館です。」

目の前には立派な建物があった。


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