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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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56/223

エントシ8



扉の前に行くとすすり泣く声が聞こえた。

入ってもいいのかどうか迷う・・・結局ノックをする。

中から慌てたように取り繕う音がする。

「どうぞ」

目元は明らかに赤くなっていた。


足を見ると明らかに以前はなかった鉱石が増えていた。両足が繋がっているように見える。

あれでは歩くこともままならない。

彼女は魔石化した足を布団で隠した。

「こんな遅くに淑女の部屋に来るなんて大問題ですよ。・・・あなた後一週間ほどでこの街を去るそうですね。」

リナさんは少し、震えた声で話す。


「どこでそれを聞いたのですか?」

「タロウさんは脇が甘いですよ。私にだって友好的なメイドたちがいるんです。ほとんどが母の時代から面倒を見てくれている人たちですけど・・・」

気をつけてはいたつもりだったが、俺は本当にわかりやすいらしい。


「そうやって多くの医者が滞在期間の限界だからとか、調べるために王都に戻ると言って二度とは来ませんでした。・・・タロウさん、もう今日で結構です。」

彼女は完全に諦めている。自暴自棄になっているようだ。


「なるほど、確かに私はもうすぐこの町を離れなければならない。ならば最後にもう一つだけ試してもよろしいですか?」

「もう好きにしてください。どうせ長くない命、ひと思いにやってください。」

「諦めるにはまだ早いかもしれませんよ。」

そう言って大量の劣化した魔石を取り出した。

「そのようなものをどうして使うのですか?」

あきらめたような事を言いながら、一つ一つの行動に興味を示す。


「まぁまぁ、見ててください。」

そう言って劣化した魔石を押し付ける。まずは大きく魔石化が進んでいる左腕。とげのように張り出した部分からだ。


正直まだ何があるかわからない。何かあっても、すぐ魔石化した部分、そのものを破壊しやすい場所を選んだ。

左腕を持ち上げる。

彼女の話だともう感覚が無いらしい。腕に張り付いた魔石は3センチ以上も厚みがある。棘のように張り出した部分はまるで刃物のようだ。

部屋には赤みを帯びた魔石ランプが光を放つ。ランプの光に照らされて彼女に張り付いた魔石は命を持ったように反射している。


彼女の魔石化部分に、俺が持ってきた劣化魔石を押し当てる。

劣化した魔石にその効果を使うようにイメージしながら、魔石から魔素を引き出すような・・・魔石を持っている手よりも後ろの空間に、重力の数式のような、なんでも引き寄せる力場をイメージする。

相当、複雑なイメージだがこれが最も効果が高い。


劣化した魔石に力が溢れるような抵抗感を感じる。

同じだ。

実験で確認した感覚と同じ。大丈夫、うまくいっている。魔素がらせんを描きながら移動する感覚が手に伝わる。

今持っているのは、この町でよく取れた火の魔石。使い終われば、ただの脆い冷たい石だ。

しかし、手にほんのりとした温かみを感じた。劣化した魔石が活性化した。反対にリナさんの体に付いた魔石は握ったところかたボロボロと崩れていった。


リナさんはその光景を見て、目を見開き固まる。

「痛みや倦怠感はありませんか?頭痛とかは?」

俺は立て続けに質問する。

? 反応が無い。やはり人に使うには時期尚早だったか!?反応を待ってリナさんの顔を見る。


リナさんは、ポロリと一つ涙を流した。また一つ涙が流れ落ちる。次第にどんどんと涙があふれてくる。

「あんなに硬くて何をしても壊れず、無理やり壊せばとても痛くて、ほんの少ししか欠けなくて、こんなにもあっさりと・・・」

リナさんは涙を流しながらどんどんと言葉数が多くなっていった。

「痛みはありません。あってもこんなに風に削れるなんて、痛くとも我慢します。」

「我慢しないで、言ってくれ。問題なさそうなら続けるぞ。」


次の劣化した魔石を削れた部分に押し当て、さらに魔素をひきつけるようにイメージを重ねていく。

魔素を吸っているだけなのに疲労感がある。

腕が張ったような感覚だ。やはりこの方法、術者にかなり疲労感を感じる。自分の魔力の引っ張りに耐えているみたいだ。

次第に汗が出始める。


部屋の明かりに使われている光魔石がちょうど魔力切れを起こし、部屋がいつの間にか暗くなっていく。


劣化した魔石が完全に活性化し、彼女に付いた魔石が崩れる。やがて左腕に付いた魔石がすべて崩れ、異様に白く、細くなってしまった腕が姿を現した。

よかった! この方法で腕に外傷を負うことなく魔石だけを排除できた。

魔石が付いていた部分にうっすらと赤く跡がついている。

触ってみると痛がる様子は無い。皮膚下に魔石があったらどうしようかと思ったが、女性らしい柔らかい肌だった。

左腕は手首の関節を魔石が7から8割ほど覆っていたため動かすことができなくなっていた。

リナさんは久しぶりに動く手首をしきりに動かす。そしてまた大粒の涙を流す。

「手首の動きに問題はありませんか?大丈夫そうですね・・・そんなに涙を流していたら全身終わるころには涙が枯れてしまいますよ。」

「止められないのです。大丈夫です。痛みもありません。構わず他もお願いいたします。」


彼女の意思を聞いて次々と体の魔石化した箇所を劣化した魔石で破壊していく。痛みなどは感じていないようで彼女自身の疲労もないようだ。


次は脚だな。

足の魔石は両足がくっついている。無理やり離せばまだ分かれそうだが大変痛たそうだ。

まずは両足を離す。

彼女は足が長いので結構大変だった。両足を分けた後は、片足ずつ付いた魔石を崩していく。この頃には持ってきた劣化した魔石のうち、半分近くが活性化していた。光の魔石や火の魔石がまた使えるようになる。それに数は少ないが、水の魔石もある。


数十分かけて足に着いた魔石をきれいにした。

細い、今にも折れてしまいそうなほど、やせた足だった。

「足は十分に動きますか?」

「はい、ありがとうございます。このまま全身もお願いします。」

そう言ってリナさんはベッドに座ったまま器用に服を脱いで冬なのに下着姿、いや裸に薄い布をまとっただけの姿になった。

「ちょっ、なんで脱いで、この方法を覚えた女性の方にやってもらった方が・・・」

「そんな人を待っていられません。あなた以外の人が、あなたの見つけられた方法ができなかったらどうするのですか!この体についた魔石を破壊できるなら裸になるぐらい問題ありません!」

「いや、でも・・・」

「私を思ってくれるなら、一気にやっちゃってください。」

潔いな・・・

そう言うと彼女は背中を向けた。長い髪に隠れた背中はシミ一つなくきれいだ。しかしそのほとんどがやはり青白い魔石に覆われている。冷静に考えて、これほど覆われていて、どのように生活してきたのだろうか?全く持って想像できない。


次の劣化した魔石を用意する。

魔石を押し当てて、同じようにイメージを流す。病気によって発生した魔石はどんどんと色を失い崩れていく。部屋を照らしていた魔石ランプは完全に消え、月明りだけが部屋を照らしていた。今日は満月だ。意外と部屋の中がよく見える。


背中の魔石をすべて崩すことができた。その背中はやはりきれいで魔石が張り付いていた部分はうっ血して少し赤くなっている。

「次は・・・前の方もお願いします。私も少し恥ずかしいので、明かりをつけず、このままでお願いできますか?」

「はい・・わかりました。」

言われた通り、体の全面に張り付いた魔石を取り除いていく。薄っすらと見える輪郭と手触りを頼りにし、あまり見ないようにした。

なんというか柔らかかったです。


「ふぅ・・・体に付いた魔石は今見える限り、大体、取り除きました。あとは・・・」

頭だ。

詳しい調査を行わず、ここまでやってきた。今更になって本当になんともないのか怖くなってきた。最後にもう一度確認する。

本当にこのままやってもいいのか。


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