エントシ6
「大丈夫か?今、回復の魔石を使うからな。」
「あれ?女装は・・・良い作戦だと思ったんですけど・・・意外とわかってしまいますね。」
「生意気なことが言えるなら、大事ないな。・・・ウィリアム、なんで反撃しないんだ。」
ある程度察していたことをあえて聞く。
「デール兄さんたまに気が高くなってしまうのです。ああやって付き合ってあげると落ち着きますので。・・・反撃しても長引くだけですし。」
「相変わらず歳に似合わず、大人だな。お前がこの街の領主になるなら安泰かもな。」
「それをデール兄さまの前で言わないでくださいね。また気が高くなってしまいますから。」
「たまには年相応に泣いてもいいんだぞ。お前はまだ子供だ。」
「そんな分けには行きません。僕は・・・強くなって姉さんを守れるように・・・ならなきゃいけないんです。」
目に涙をためながら、ゆっくりと眠りについた、規則的に寝息を立てている。
相当、集中力と体力を消耗したのだろう。
強い子だ。
相手が貴族でなければ俺は確実にデールとかいうやつに攻撃していただろう。それぐらいにはらわたが煮えくりかえる。
治療を終え、俺はウィリアムをおんぶし訓練所を出ようとした。そこでこちらを見ていたアンネと目が合った。
アンネは深くお辞儀をする。
「ウィリアムは毎回こんな仕打ちを受けているのか?」
少し力がこもる。
「そうならないように、密接に予定を組んでお二人が合わないようにしています。しかし人目を盗んでこうなることがたびたびありまして・・・
アンネは目をそらした。拳が強く握られる。皆大変だな。そう思うと、ようやく少しだけ怒りが沈んだ。
アンネにウィリアムを渡す。ついでに回復の魔石をウィリアムのポケットに入れてあげた。この世界には無いクリスマスプレゼントだ。ウィリアムの実力ならば、うまく使えるようになるだろう。
アンネは驚愕し訪ねる。
「いいのですか?回復の魔石は相当、高価ですよ。」
「いいんだ。自慢じゃないが、俺はそれなりに稼ぎがあってな、それに回復の魔石は予備がある。おそらくウィリアムなら使えるだろう。使えなかったら使えるやつ雇ってメイドにしな。」
アンネとウィリアムを見送り、リナさんがいる塔に向かう。
俺は昨日の結果を伝えなければならない。
その足取りは重かった。
「リナさん検査の結果が分かりました。やはりこの装飾品は魔石の成分があります。どのような過程で衣服や皮膚の上から影響しているかわかりませんが、リナさんは魔石の効果を受けて血液中の魔石が活性化していることが分かりました。」
「そうでしたか。」
リナさんはベッドに横たわり、窓の外を見ながら静かに答える。
「帝国領のアカウ村の研究では、体内で活性化した魔石は何故か排出されず皮膚上に表れて強く付着しどんどん大きく成長します。
そして体に影響を及ぼすほど大きな結晶になります。原因不明ですが体力も同時に吸い取っているようです。」
俺は着々とアカウ村での研究でおおよそわかっていることを話す。リナさんにとっては何度も聞いた話、もしくは体験か。
「私は、もうお祈りすらできないのですね。」
窓を見ながらそう言う。顔が見えないので表情を伺うことはできない。日が差す窓が不規則に光ったような気がする。
「そのペンダントを使わずに祈りを捧げることはできます。ペンダントを使っても魔石を発動させないように強い集中をしなければ問題ありません。」
俺は苦し紛れにしか答えられない。
「しかし、それでは祈りを捧げている意味がありません。・・・母のもとに行く日が近いのかもしれません。」
「あくまで仮説ですが、あなたの体には魔石の影響を通しやすい部分が有るのだと思います。その体質を改善できれば、元の生活に戻れるものと考えます。」
「そうだと良いのですけど・・・」
‘今日はおかえりください’と言われその日は何もしないまま屋敷を後にした。それからしばらくは何もできない日々が続く。なんとなくリナさんの部屋にも行きづらかった。一応行ってみたが部屋には入れなかった。
エコー検査機も魔術も何の進展もなかった。
そんな時、アレクが帰ってきた。
「結構、長く任務にいっていたみたいだけどそんなに大仕事だったのか?」
「船着き場近くの森林に行って、大木を運んでいました。この大木はなかなかの大きさでしてね。他にもオオカミの群れがいました。いい筋トレになりました。」
「相変わらず、力仕事してるな~」
何もできていなかったから、会話がいい気分転換になる。
確かにサメの魔獣に破壊された船が多いと聞いた。
その新造のために大量の木材が必要だとギルドに依頼が出ていた。
アレクは言う。あと2週間ほどで船の修繕が終了し帝国に帰れるらしい。ということは移動や日程の余裕も考えると後一週間ほどでこの件にけりをつけないと勇者伝説を探ることもできないしリナさんの病気の解決方法もわからないままとなってしまう。
俺は焦った。
なんでもいいから結果を出したい。
どんなに使いづらくても、不格好でもいい。症状改善ができないか、サンプルを使ってなんでも試す。
自然は甘くない。それは焼け石に水だった。
ふと立ち上がった時にふらついてしまう。連日の深夜まで続く作業に疲労がでたようだ。いや、俺の疲労ぐらいウィリアムやリナさんが耐えてきたものに比べれば大したことないか。
色々弄り回しているせいで、机が散らかっている。
片付けようと荷物を持って棚に向かう途中だった。古い宿舎だったので床の凹凸が激しく躓いて勢いよく転んでしまった。反動で机は揺れ、物はより一層散らばった。
気合を入れなおした直後なのに、もうやる気がなくなった。
駄目だな、こんな事では落ち込んだところで何も始まらない。どっかの偉い人が言っていた。一流とはすぐ立ち上がる人の事だと。
心を落ち着かせるため目を瞑り、深呼吸をする。その後、物掴んで片付けていく、ついでに目を休めるため閉じたままにする。大体の物は定位置に置くので見なくても分かる。
・・・ふと力を吸われた感触があった。




