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エントシ5

「リナさん、申し訳ないがそのペンダントを調べさせてもらえないだろうか。祈りを捧げている瞬間に魔石の反応をキャッチしました。」

リナさんは何かを察したのか泣きそうな顔をしながら答える。

「でも、これは母から受け継いだもので・・・そうですよね。このような物も可能性があれば調べなければなりませんね。・・・弟の・・・ためです。」

本当に心が痛い。彼女にとっては数少ない他人とのつながりであり、心の支えである信仰において大切なものだ。

それを差し出せなんて・・・俺は覚悟を決めなければならない。なるべく早く返せるようにしなければ。


リナさんはペンダントを胸に押し抱き、目を瞑って祈りを捧げる。

大切なペンダントを受け取り、ギルドの宿泊施設に帰る。まずこれは魔石なのかということだ。なるべく壊したくはない。だからこのまま魔石として使えるか試す。

魔石が使用されているとしたら、この土地で伝統的に採掘された火の魔石を使用していると予想した。

まずは火の魔石と思い込み使用してみる。

反応しているかどうかわからない。なんとなく発動している気がする。それぐらい反応が弱い。一応、薄っすらと光っているような気がした。光の魔石なのか?

燃えやすい燃料に押し付けても、温度が低過ぎるため火は起こらない。やはり火の魔石ではないのか?


特に魔石の種類を特定せず、何か液体のようなものが流れるイメージで魔石を発動してみる。これはどんな魔石にでも使える手法だ。効果は弱いが、とりあえず効果が発動することは確認できる。


これをやってみた。だけど同じように発動できているかよくわからない。

うーん・・・最後は回復の魔石の使い方だ。あれは特殊だ。

最初は懐疑的だったが治れと祈ると効果が発動する。これで使える人と使えない人がわかれる。魔石の中で一番不思議な物だ。

同じように’治れ’と祈ってみる。しかしなんの効果も発動しなかった。


しょうがない。

ほんの少しだけ、魔石部分と思われるところを削って観察する。

幸いにも、顕微鏡を用いると淡く光り、魔石の発動を確認できた。この魔石は何の魔石なんだろう?

こんなに弱くしか発動せず、何の効果もない。


なんの魔石かわからないが、とりあえずこれが体にどんな効果があるか確かめる必要がある。

まずは事前に採取していた血液をつける。

血液の中に含まれる魔石はペンダントの魔石に触れるとなんの反応も起こらなかった。ということはペンダントが原因ではなく、リナさん自身が魔石の影響を受け血中の魔石を変化させている?


まだ疑問は残る。

実際にペンダントは皮膚どころか服の上から発動させるのだ。その魔石の影響が血液の中まで伝わるのか?

体のどこかに、魔石の影響が伝わりやすい部位があるということなんだろうか?どちらにしろ、見立てを立てることができてよかった。


次の日、この結果を伝えるため、屋敷に入る。

しかしリナさんがいる塔の下で異変に気付く、誰かが怒っているようだ。

「ウィリアム、塔に行くのは週に一回という話ではなかったか。」

「はい、申し訳ありませんでした。デールお兄様。」

「全く、いつになったら姉離れできるのか。ローリング家の男児として立派になりたまえ。そのためにわざわざこのようなルールを設けているのに。そもそも帝国の留学だって・・・」

止まらない罵倒に反吐が出そうだ。ウィリアムの兄だな。いくら血が繋がっていないとはいえ、家族ではないのか?

ウィリアムから聞いた家族仲が悪いというのは本当のようだ。

そんな中で抵抗感なく話せる姉の存在はよほど大きいのだろう。あんなにも必死になるわけだ。

それにしても罵倒が全然止まらない。姉に会ったというだけですごい怒られようだ。まるでうっぷん晴らしをしているみたいだ。


そのままデールと呼ばれた兄とウィリアムは一緒に訓練場に行った。剣術訓練をするらしい。あの体格差なら明らかにデールという方が有利だろう。必要な場所以外に行くことはアンネには許されていないが、あまりにも気になりすぎる。人目を忍んでついていくことにした。

大きい訓練場にたどり着く。小さめの体育館みたいな場所だ。これだけ大きいと部屋を暖めるのが大変だろう。少し寒い。デールとウィリアム、そして俺以外に人はいない。両者は木刀を持った。


訓練場は立派な柱に囲まれているので俺は柱の後ろに隠れた。

木刀による打ち合いが始まる。やはりウィリアムより一回り背丈が大きいデールの方が圧倒的に有利で、ウィリアムはどんどん叩かれている。これは訓練ではないな、一方的な打ち合いだ。そもそも、ウィリアムは魔術使いだ。


剣術の訓練より、魔術を生かす立ち回りを学んだ方が将来のためになるだろう。ウィリアムの体に打ち身が増えていく。この寒さはより痛みを強くするだろう。


しかしウィリアムは何故か目立った反撃をしない。この領地に来るまでに彼の動きを見る機会が何度もあった。足元が不安定な雪上であっても、かなりいい身のこなしをしていた。普通に運動のできる子だ。


明らかに首や頭に当たる攻撃に対しては確実にいなしている。手足や尻に当たる攻撃だけを我慢して当たっているように見える。

腰に火の魔石を常に装備していろと俺は言った。今もそれを装備しているのは確認した。だけどそれを使うことは無い。

明らかに我慢している。・・・これは彼の処世術なのかもしれない。

なんてくだらない処世術なんだ!腹の底から怒りがわく。

だけど手を出せない。今ここで手を出せば、簡単にデールという男を昏倒させることはできる。だけどそれをしても急場しのぎにしかならない。ここまで耐えてきたウィリアムの苦労が報われない。

しばらくして、訓練という名の一方的な、うっぷん晴らしが終わった。

ウィリアムは見事に耐えきり、今は床に突っ伏している。デールとかいう男は気が晴れたのか別の部屋に消えた。

俺は周りに人がいない事を確認してウィリアムに近づいた。


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