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交易都市 オヤイモ2

購入した本には魔術使いに関する記述が載っていた。

「魔術使いになる方法かぁ」

「なんだ 魔術使いでも目指してるのか? あれは才能がないとなれないよ。」

ノエルがおちょくりに来た。

街の中は安全だ。訓練ぐらいしかやることが無くて暇なのだろう。

「ノエルは剣の才能は有るけど、魔術の才能はなかったみたいだな。」

「なんだと魔術だって練習すればできるさ。」

「なら俺も練習すればある程度はできるかもな。」

「言葉狩りをするな!それより最近ずっとその本読んでるけど魔術は使えそうか?」

”どうせできないだろう”みたいな感じだった。まあ、実際使えないのだが。


「使えないよ。 

この本にも魔術使いになる方法は、まだわかっていないと書かれている。魔術を使える者に聞き取り調査した結果が載ってるけど、軒並み『突然使えるようになった。』だとか『最初から使えた。』みたいにバラバラだな。」

「だろ!やっぱり才能がないと使えないのさ。あれは。」

ノエルはなぜか勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


頭を切り替えて思考を始める

魔術使いと他の魔石使いの違いは何なのだろうか?

本からは魔石に対する実験が数多く記載されていて、おそらく魔石に魔術は入っていないことがわかる。


魔道具使いも魔術使いも魔石は必要なのに、扱える自然現象は大きく違う。

そもそも人はどうやって魔石の力をひきだしているのか・・・


「おーい 聞いているかー」「タロウくーん」

一度考え込むと止まらない。ノエルにのぞき込まれていた。

服が浮き上がり谷間が見えてしまった。思わず見てしまったが気づかれてないと思いたい。

その日の夜から光の魔石に対して魔術を使えないか試してみた。魔石を光らすのではなく、光の球みたいなものを作れないかという実験だ。

結果は・・・もちろん、できなかった。


数日たった頃、

その日の取引を終え荷物を片付けている途中で、商団の若い男性から妙な話を聞いた。

「最近、町の近くにサルの魔獣が現れたらしい。たまたま近くにいた、冒険者集団によって、討伐されたらしいが・・・」

「サルですか? 魔獣はダンジョンの内部に多くいると聞いていたのですが、そういえば前に見たイノシシも中途半端なところにいましたね。」

「それなんだが・・・冒険者がよく集まる集会場に酒の納品で行った時、その話でもちきりだったよ。

なんでも未発見のダンジョンがあるとか、ここから一番近いダンジョンに強力な魔獣が現れたとか何が本当かわからない噂ばかりだったな。」


どちらの理由にしろ、もっと魔獣が現れているのでは・・・頭の中で色々な事を考える。

「数日中に帝国から調査兵団が派兵されるらしい。それまでは街から出ないことだな。」

「サルの魔獣は討伐されたはずでは?」

「もう一匹いるかもしれないらしい。足跡が妙に多いんだとよ。」

「怖いですね。サルが元なら頭がよくなって街に入ってきたりして」

「おいおいよせよ。 おっかなくて夜も出歩けねぇよ」

「いいじゃないですか、夜に散財せずに済みますよ。あの子にもばれずに済むじゃないですか」

「お前!どこでそれを知ったんだ。」

「みんな知ってますよ。」

若い男性は声にならない悲鳴を上げながら、逃げていった。


その日、宿泊施設の広間で団長による伝令があった。

「みな知っての通り、魔獣調査のために帝国から兵がやってくる。その際、近くに街がここしかない。よって兵隊はこの街に駐留するだろう。本来なら移動の時期だが、今回はもう少し粘ってここで取引を行おうと思う。反対意見があるやつはいるか。」

副団長のタカハシ・ジョニーが答える。 


「この後の日程を考えると帝国に行き、その後北の山脈を超えて王国に行くわけだが、冬に山脈を超えるのは至難の業だぞ。」

「それについては考えている。帝国に滞在する期間を短くして冬になる前に山脈越えをするつもりだ。今、帝国の新女帝は若く未熟だ。少し落ち目で商売のうまみも減ってきたからな。」

副団長は納得したようだ。


そこからは実際に何を取引していくかという話になった。俺は基本的に荷物持ちなので関係ないと思って、最近、練習している魔術の事を考えていた。気付いた頃には話し合いは終了し、解散になった。

団長からは何回か話を振られた気がしたが、無難な回答をしておいた。


部屋に戻ると、いつものように魔術の練習をした。しかし全く結果は出ない。

石に対する集中の仕方を変えたり握り方だったりと色々変えてみたが、何の変化もなく光の球など微塵も可能性を感じなかった。

やはり魔術は才能的な生まれつきの要素なのか。深く息を吐く。

考えが煮詰まってしまったので、夜風にあたるべく宿泊施設の入り口に座っていた。

どこからともなく言い争いをする、聞き覚えのある声がした。


声がする方へ近づいてみると以前に魔術を披露していた、クローネとかいう男がいた。

葉巻を吸って貧乏ゆすりをしている。随分とイライラしているようだ。

もう一人は兵士だろうか?やけにガタイがいい。鎧には派手な刺繡がある。

おそらく帝国の先遣隊といったところだろうか?

「クローネさんお願いします。魔獣探索にその力を貸してください。」

「いやだね。魔獣の駆除はお前ら兵隊のすることだ。私の魔術は戦うためにあるのではない。」

よく見てみるとクローネの膝が震えている。本当は戦闘が怖いのだな。まあ確かにあのような生物を見れば恐怖心を持って当たり前な感じもする。


兵士は止まらない。

「最新の研究で、魔獣は魔石や魔術といった魔力を持った者に、惹かれてくることが分かっています。逆に魔術使いも魔獣に惹かれ、その大まかな位置を探ることができます。昔、帝国の魔導部隊にいた、あなたの力が必要なんです。」

「だから嫌なのだ。それはつまるところ、私が魔獣をおびき出すためのエサであろう。私は獣の家畜になった覚えはない! 他をあたるのだな。」

そう言うとクローネは葉巻を投げ捨て、そそくさとどこかへ消えてしまった。交渉に失敗した兵士はがっくりと肩を落とし歩いて行った。

魔獣の調査は難航しそうだな。しかし、いろいろと新情報を耳にしてしまった。もしも魔獣と魔術使いが惹かれあう要素を解明できれば、魔石を利用してセンサーみたいなものが作れるかもしれない。俺は工学部にいたときの感覚で思いついた。

そこに夜風が吹き、体が震えた。風に乗って来た煙が鼻につき、思考を遮る。

少し涼みすぎたかもしれない。今日はもう帰って休もう。


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