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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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エントシ

エントシについてギルドで報告を行って次の日


ウィリアムから連絡が来るまで、しばらく待機する。

俺はこの街に勇者伝説に関する資料がないか探しに行くことにした。アレクは寒いのがあまり得意ではないらしい。宿舎で待機するとのことだ。

街に出ると肌に刺すような寒さが染み渡る。

気温はだいぶ低そうだ。雪も深く積もっている。


街の中を気の赴くままに練り歩く。何処に何があるかわからないから観光気分だ。

大通りは木造りの家が多く、三角屋根がきれいに並んでいる。きれいに石が敷き詰められた道はただの砂利道と比べてきれいだ。


飲食店がいくつかあった。適当な店に入って、情報を集めることにした。

よくわからないが、生で食べられるという赤い果実と肉を合わせた料理を食べながら店主に話を聞いた。

「図書館?聞いたことはねぇな。あるとすれば貴族様の家の中じゃないか。入れねぇけど。」

ケッて感じで言い放つ。


「? あまり好ましく思ってないみたいですね。貴族はこの町では嫌われているのですか?」

「好きなもんかよ。しょうがない事とは言え鉱山の再出量が減って生活が苦しいんだ。急に魔石がなくなったわけじゃねぇ。前々から減っているのは分かっていたんだ。それなのに有効な手段を打たず、今更いろいろやったところで産出量が回復するわけはない。それに代わりの産業としてやったことが軒並み失敗続きとあればそりゃあ嫌われもするだろ。」

なるほど結構な嫌われ方をしている。

これでは市民にとって相当いい事をしないと人気回復は難しいだろう。貴族であろうと嫌われすぎると大変そうだからな。

「勇者伝説について知りたいのですが、どこかで調べられるような場所は知りませんか?」

「手っ取り早く知りたいなら、王国の首都に行くことだがここらへんで知りたければヨシダ商会系列の店に行くと良い。」

「ヨシダ商会?どうしてその店がいいのですか?」

「単純だよ。ここらへんで一番大きい商会だからだ。取り扱っている商品の量が多い、だからその中に勇者伝説に関係する本が含まれているかもな。」

「なるほど、ありがとうございます。」

これは大きな収穫だ。

時間が空いたら、優先的にあたってみることにしよう。しかし相変わらず和名が多い。帝国で見た勇者伝説に関係するのだろうか?あの勇者に関する記録は日本を示唆するものだった。

謎はより深まる。


あとは聞けた話として民話みたいな物を聞いたが、帝国で聞いたものと似た内容だった。

種類は多いが内容に違いは少ないといった感じだ。

その日は暗くなってきたので、宿舎に戻った。


次の日、雪が降り、とても外出する気分にはなれなかった。しかし宿泊していた宿舎を訪ねる人がいた。

ウィリアムに使えていたメイドだ。


名前はアンネ・ベルという。アンネさんに呼び出され宿舎の横に行く。

「お坊ちゃまの命令によりタロウ様をお迎えに上がりました。」

「約束の件ですね。どのようにして屋敷に入りますか?」

「その前にどうしてあなたはお坊ちゃまに協力してくださるのですか?」

「どうしてって、それは約束したからですね。」

「あなたはそれだけで達成できるかわからない依頼を受けるのですか?」

「確かにもっともな理由ですね。まぁ可能性は未知数なのにあきらめるのは時期尚早というものですし、子供の願いですからね。可能な限り叶えてあげたいじゃないですか。」

「その結果何もできなくてもですか?またお坊ちゃまを失望させてはいけません。」

「また?何故、何も結果が出せないと決めつけるのですか」

「私たちが、今まで何もしてこなかったと思いですか?私たちだって王都の有名な医者に依頼したり担当医にずっと研究させてきたんですよ。それでも何もできなかった。ちょっと知識がある程度の冒険者であるあなたに一体何ができるというのですか!」

アンネさんは言い放つ。大きい声だったはずなのに響かない、降り続く雪に音が吸収されていく。


彼女の指摘は正しい。おそらく俺は医者より何もできなくて、病気だという姉の苦しい気分を晴らすことはできないだろう。おそらくウィリアムもそれは直観していたのではないだろうか。


それでも俺に依頼してきた。きっと何でもいい。とにかく解決を進展させたいという気持ちがあったのだろう。

その気持ちを満たしてやることが良い事なのか、悪い事なのか悩みどころだが今回はその気持ちを満たしてやることにした。

幸いにもアカウ村で研究されていた最新の結果は持ち込んでいる。アカウ村に通っていた頃ある程度の技術を習ったから医学的な施術を行うことができるはずだ。だからと言って施術を行うことは無い。俺の技は、あくまで緊急用だ。

それでも方針や指示ぐらいはしてやりたい。ウィリアムと関わって、そう思った。


「研究は日々、進歩を続けています。その結果が振るわなくてもウィリアムが望むならば俺は可能性を示してあげたいと考えています。」

「・・・ならば、必ず結果を出してください。出なければ消します。」

今までに聞いたことが無い低い声で忠告された。背筋が伸びる。

「一人の大人として子供との約束は守りますよ。それで、どうやって屋敷の中に入るのでしょうか?」

「とくに理由が無ければ真正面から入ることはできません。当家は現在、いつ起こってもおかしくない帝国との戦争に備えて警備を強めています。大丈夫です。理由が無ければ作ればいいのです。こちらに着替えていただきます。」

そう言って取り出されたのはメイド服だった。


「この作戦は本当にウィリアムが考えた作戦なのか?」

「プっ似合ってますよ。何処からどう見ても当家に使えるメイドです。」

屋敷へ向かう道すがらメイドが二人で買い物かごを持って歩いていた。

俺の格好はメイド姿だった。鏡で見なくてもわかる。似合っていない・・・ものすごく似合っていない。

それに格好だけ変えても屋敷の連中にバレるだろと言うと屋敷にはメイドがたくさんいて出入りしているから下働きのメイドが一人増えようと屋敷の上級の人間にはわからないのだそうだ。

それに、アンネさんのほかにも手伝ってくれる人はいるらしい。

声はどうするのかと言うと

「これを使ってください。魔術使いなら使えて当然でしょ。」

と渡されたのは変声の魔石だ。


名前の通り声の音色を変えることができる。非常に希少で市場に出回らない。もちろん俺も初めて見た。数回練習がてら使ってみたが使えるかどうかは半々といったところだ。

なんだかこんな装備で本当に屋敷の住人に紛れることができるのか心配だが、俺達は屋敷に着いた。


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