【幕間】少年の旅~船の中~
一日かけて回復したら、お礼をする振りをしてさっそくタロウに話しかけました。
「タロウさんあなたは奇術使いと呼ばれていますね?」
「そう名乗ったことはないですけど、そう呼ばれることが多いですね。確かに私です。」
「そうですか。昨日の件でお話したいことがありますので、ついてきてもらえますか?」
どうでしょう?ついてきてくれるでしょうか。変に反発されないと良いのですけど。
「わかりました。」
タロウさんはそう言い、僕の後ろをついてきます。よかった。うまくいったようです。
ぼくが使っている部屋の前に来ます。メイドや護衛たちにここで待つように伝えます。おおむねは言うことを聞いてくれますが、一筋縄ではいかない人がいます。
「アンネは、ここで待っていてください。」
「しかしウィリアム坊ちゃま、それは危険です。護衛だけでもつけてください。」
やはり反発してきました。
「いい!ここで待っていてください。」
アンネは僕に貴族として正しい振る舞いを教えてくれます。しかし、それはたまに傷です。
特に冒険者から教えを乞うなんて貴族にあるまじき行為だと怒られてしまいます。
しかし魔石は身分に関わらず、平等に効果を発揮します。
だから市民の実力者がどんどん実力や経済力を上げている事は貴族の間で有名です。
皆は不満に思っているようですが、身分にこだわっていると強くなるチャンスを逃してしまいます。なりふり構っていられません。
アンネには悪いが部屋の前で待ってもらいましょう。見るからに落ち込んでいる。心が痛いです。
部屋に入る。扉が閉まるのを確認すると
「昨日はありがとうございます。命が助かりました。」
威厳を出すため声を低くしていたのに、緊張のあまり声が上ずってしまう。ちょっと恥ずかしいので無理やり押し切ります。
「タロウさん、本当に助かりました。ありがとうございます!すごいです。回復の魔石まで使えるなんて、いったいどうやって魔術や魔石を使っているのですか?タロウさんが使っている、雷の魔術ってどんなものなんですか?」
僕は気になっていたことを一気にぶつける。
「ちょっと待ってくれ、いきなり多くの事を聞かれても答えられない。大体、君はそんなだったか?」
タロウさんは何故か驚いている。
そうか確かに普段と外に出たときは真逆ぐらいに違って面白いと姉に言われたことがある。
「貴族モードの僕は僕じゃありません。でもやらなきゃいけないのでやっています。そんなこと、どうでもいいじゃないですか。だからメイドだって追い出したんです。それよりどうやって魔術を使えるようになったのですか?」
タロウさんはあっけにとられていたが、なぜか理解してくれたようだ。
「わかった、わかったから。答えられることは答えるから一つずつな。」
「僕、炎の魔術ができるのですがうまく使えないんです。いつも魔術を使おうとすると途中ではじけてしまうのです。」
「君は魔術が使えるのに留学していたのか?」
「まぁ、色々ありまして・・・」
僕が貴族でなければよかったのに。
「と、とにかく僕は魔術を使えるようにならなければいけないのです。タロウさんが魔術を使えるようになった経緯を教えていただきませんか?」
「俺が魔術を使えるようになったのは・・・」
タロウさんは少し回りを見渡し、周囲の状況を確認した後、砕けた口調で魔術が使えるようになった経験と練習方法を教えてくれました。
今までこんな風に接してくれたのは姉以外にはいなかったので、中々新鮮です。なんというか貴族慣れしていません。
それにしてもなんと刺激的な話でしょう。僕も冒険者になりたいです。
それに魔術の練習方法も小さく発動する練習だなんて思いもつきませんでした。魔術とは攻撃に使用するものばかりだと考えていたので強く発動することばかり考えていました。
「すごいです。タロウさん!そうだ僕の魔術の先生になってもらえませんか。」
タロウさんは少し眉間にしわが寄った。
「機会があったらな、まずは安全に帰らないと。まだ病み上がりだろ、ほら今日はもう休もう。」
くっ完全に逃げようとしていますね。しかしここで諦めるわけにいきません。
彼の魔術の知識、それに奇病に対する経験。
今、僕が抱えている問題を一気に解決できる可能性があるのです。
何か引き留める方法は無いかと考えていると、タロウさんが部屋の扉を開けてしまいました。
驚くことにメイドのアンネとアレクさんという冒険者が戦っていました。
「何してんの、お前ら?」
タロウさんは呆れたように聞いています。
僕もこれには呆れてしまいました。メイドのアンネを叱ろうとしたときでした。
「坊ちゃま、やはりこやつらただのゴロツキです。今お助けします。」
どうしてそうなったのだろう・・・普段、アンネは冷静で頼りになる人なんですけど。
しかし予想外なことにアンネは、ロングソードを振り上げタロウさんに切りかかってきました。危ないこのままではタロウさんが怪我をしてしまう!
そう思っていましたがタロウさんは焦ることなく、右手に光の魔石をつかみます。
一瞬のうちにタロウさんとアンネさんの間にビリビリという大きい音と光の線が走り、アンネは転んでしまいました。
いや、気絶している?すごい!あれがタロウさんの魔術。タロウさんの右手には幾何学模様がまとわりついています。
僕は大事なアンネが気絶させられたにも関わらず、タロウさんの鮮やかな技に目を輝かせてしまいました。
い、いけません。僕は他のメイドを呼んでアンネを僕の部屋に運び入れました。この場で介抱するには人の目がありすぎます。
そうだこの件を問うということでタロウさんたちを呼び止めましょう。使えるものは何でも使わないと僕には後がないんです。
ということでさっそく実行に移しました。