交易都市 オヤイモ
戦いが終わった後、商団のみんなで魔獣を処理していた。
魔獣から突き出ていた、魔石を取り出し魔獣を運びやすいように加工する。
「ノエルすごかったな!あれ」
「ふん! どうだ恐れおののいたか!」
「ああ、感動したよ。人間ってあんなに動けるんだな。俺にはあんなことできそうにないよ。」
素直に褒められたノエルは少し、照れる。
俺は魔獣への恐怖なんて、いつのまにか忘れて、護衛たちの凄さをかみしめていた。
同時に少しの、無力感を感じていた。握ったこぶしに力が入る。
いや、ずっと平和な世界で生きてきた俺に戦いなど、できるわけがない。
魔獣の襲来というトラブルはあったものの、昼頃に交易都市オヤイモについた。
変な街の名前・・・
ここは各商団が使う移動路の交差点に作られた街で、交易を盛んに行うことで発展してきたらしい。
長い行列を進んで、ようやく街に入ることができた。
この街に来るまでに小さな村には訪れたことは何度かあるが、この規模の大きい街は初めて入る。門をくぐるとすぐに、あたりを見回していた。
街はレンガ造りで、いたるところに出店が開かれている。
この商団が店を開く場所を決めて、さっそく準備をはじめた。
明日から店を開くらしい。
どうやら自由に店を開いていいみたいだ。
街は商団にサービスを手厚くしている。そうやって街に、来る商団の数をを増やしているのだ。よく考えているな・・・
サービスの一つは宿泊施設だ。久しぶりのベッドだ!
思えば寝床がごつごつしていて、こっちの世界に飛ばされてからは大変苦労したものだ。
次に鍋ばっかりだけど食事が出る。チョイスが鍋ばかりなのは誰の趣向だろう?
サービスに感激していると
「いらっしゃいませー あっお久しぶりです。お元気でしたか?」
亜麻色の髪でショートカットの明るそうな子が団長に話しかける。
「やあ 久しぶりだね。マリン 今回もよろしく頼むよ。」
彼女はこの宿泊施設の看板娘らしい。
「おや! そちらの方は初めての方だね。」
「どうも、はじめまして サトウ・タロウです。・・・」
軽く自己紹介を終えた後、施設を案内してもらい、その日は解散となった。
今、目の前にはベッドがある。俺は何も考えずベットに飛び込んだ。
次の日の朝は非常に快適だったとだけ言っておこう。
街に入ってから数日、商団はそれなりに稼いでいた。
近隣で戦争があったらしい。傭兵や冒険者、避難民が多くいた。だからだろうか武器や消耗品が多く売れていた。
冒険者はダンジョンを攻略する。
この世界にはダンジョンと呼ばれる魔獣の巣窟がある。この巣窟の最深部には高純度の魔石が生成されているらしい。
ダンジョンを攻略し無害化して、採掘場にしているようだ。
しかし、誰もがダンジョンを攻略できるわけではない。稼げない冒険者はダンジョン攻略で得た、戦闘力や知識で戦争に加担する人もいる。
販売で忙しい日々だが、今日は休みをもらっていた。
というより子供たちのお守りだ。今日は街に魔術使いが来ていた。
団の子供たちを連れて、この人の演舞を見学しに行くのだ。
ちなみに魔術使いとは魔石に関する職業の一つだ。
魔道具使い→魔術使い→魔法使いと役職が上がっている。
上級になるほど人数が少なくなり、より強力に物理現象を操ることができる。
魔法使いは世界に1~2人いるかいないかというぐらいで、たった一人で戦争を左右するとか、一国の全軍に匹敵するといわれている。
現在は所在が分からないそうだ。生きているかどうかも不明だ。
逆に魔道具使いは資金力があれば高純度の魔石を集められるので意外と数が多い。
中間の魔術使いは多くの魔石や高純度の魔石を、必要とせず
魔術と呼ばれる文字や模様を使うことで強力な物理現象を引き起こせるらしい。
なれるかどうかは運で、国に数人いるぐらいだそうだ。
魔石に関する職業は多岐にわたる。魔道具制作に、戦闘への参加、演劇等・・・
子供たちと共に広場にたどり着くと大きなベレー帽をかぶり、装飾のきらびやかな服を着た男性がいた。
「お集りの皆さん。本日はこの炎の魔術使いクローネが皆様に驚きと感動をお見せしましょう。」
演目が始まる。ぱっと見は胡散臭い人だったが炎の魔術は確かにすごかった。
子供たちは綺麗でダイナミックに動く炎に見とれていて、ものすごく楽しそうにしていた。
クローネが魔石を握ると不思議な模様が魔石に表れて、魔石を握っている腕に巻き付く。
空いた手で黒色の粉を空中に撒くと炎が沸き立つ。火薬だろうか?あれを元に炎を出しているみたいだ。
魔術使い、魔石の能力によらず術と呼ばれる模様を使う者。10分ほどだろうか演舞が終わるとクローネは額に汗をにじませながら両手を掲げた。
広場から拍手が巻き起こった。
帰り道に魔石の販売を行っている店の前を通りがかった時、とある本が目に入った。
魔術研究記録という本だ。近くには魔石集という本がある。子供たちの手を引いて出店に飛びつく。
「おじさん、この二つの本合わせていくら?」
「そうだな、そこの高純度魔石数個と同じぐらいだな。
その本は大変貴重だからな。なぜなら! あの王国魔法研究所からだされているからだ」
「王国魔法研究所? そんなものがあるのか」
「なんだい 知らないのかい?ここから東に進んだところにあるのが帝国、それより北の方向に山を越えたところにあるのが王国だ。王国と帝国は魔石や魔法に対する研究で競争してて最新の情報がよく出る。それはみんなほしいだろ!だから貴重なんだ。」
俺は購入するか迷った後、結局購入してしまった。新しい高純度の魔石を買おうと思って貯金していたのだがやってしまった。これでしばらくは何も買えない・・・
こ、後悔はない。きっとこの本には俺の知らないとびっきりの情報が載っているはずだ。
帰宅し、宿泊施設の一室で今日買った本を読み始めた。
本の内容で、まず目についたのは魔石に関する記述だ。
金属の特徴がみられるとか、生物と親和性が高いとか様々なことが記載されている。
中でも面白かったのは魔石に雷を当ててみたという実験だ。
結果は何も起きなかったらしい。
この実験は何を目的に行ったのかは分からないが、ただエネルギーを与えるだけでは何も起こらないらしい。
計測はうまくできていないが雷を当てた魔石は光の魔石だったらしく光らせてみると、いつもより強く発光したとか・・・
今の俺には確かめる方法がないな また少し無力感を感じた。
本を閉じてベッドに倒れこむと、こっちの世界に飛ばされて数日の事が自然と浮き上がってきた。
あれからだいぶ生活が安定している。
ようやく余裕を持てるようになったと思う。
少しずつ元の世界に帰る方法も探しているが、全くの手掛かりなし、魔石はあるみたいだけど魔王はいないらしい。
もちろん勇者もいないみたいだ。
俺はこの世界で何をして生きていくのだろう。
一人で悶々としているといつの間にか寝てしまっていたらしい。
ドアをたたかれる音で目が覚めた。
「サトウさーん。夕食の時間終わっちゃいますよー ごはん下げちゃいまよー」
俺は飛び起きて急いでご飯を食べた。
次の日から仕事の休憩中に買った本を読み進めていった。