船の上4
赤色に染まった海面を見て、船員たちに緊張が走る。
「サメの魔獣を船に近づけさせるな、船の下方向に水流を流せ。」
船長から命令が走る。船に搭載されている水の魔石で下方向に水流を作って魔獣の勢いを弱めるつもりだろう。
「あれはどうにかなりませんか?動きさえ止められれば海の中でも切れます。」
アレクが聞いてくる。
動きを止める方法、海の生物が動けなくなる・・・
網を使えば動きを止められるだろう。だけどそんな大きい網は無いし、あってもこの船を大きく揺らすほどの力。食い破られるだろう。
他にないか、動きを麻痺させる方法は・・・麻痺、電気ショック
昔、テレビ番組で大きいマグロを釣る番組があった。その時、最後にマグロの動きを抑えるために電気ショックを与えていた。
これだ、同じ方法でヤツの動きを止める。そしてアレクがとどめをさせば勝てる!
そうと決まればすぐに作戦をアレクに伝える。
「俺が持っている鉄製の矢を魔獣に充てて、そこから電気ショックを与える。」
「わかりました。しかしどうやってあのサメに矢を当てますか?」
「とりあえず、このクロスボウで当ててみる。」
動きは俊敏だが、体が大きい分当てやすいはずだ。
よく狙いを定めて、矢を打ち込む。
予想通り矢が見事にヒットした。しかし、サメが軽く体をひねる、それだけでさした矢を外されてしまう。
「もう少し深く刺さるような威力が必要ですね。」
「これを使ってくれ。」
船員がそう言い、見せてくれたものは設置し終わった大きいクロスボウだった。
弩とか、バリスタと呼ばれるようなものだ。
海賊用に常備しているらしい。
船員は大砲なんかも取り出し、打ち込み始めた。反撃開始だ。
貸してもらったバリスタに、いつも使っている麻の布をくくりつけて狙う。他の場所からも船員がバリスタを使ってサメの魔獣に矢を打ち込んだ。
何発かは外れ、また何発かはサメの魔石化した部分に当たりはじかれる。幸いにも、俺が打った矢はサメの魔獣にヒットした。
「これでも食らいやがれ!」
今回はサメの図体が大きいし、かなり距離もある。初めから高出力で、雷の魔術を使った。魔獣の体に青白い稲光が走る。あたり一面は放たれる電撃によって青白く照らされる。
電気を流している麻の布は焦げ付き、焼き切れる。
サメの魔獣は細かく痙攣した後、その場で動かなくなる。
すぐさま違うバリスタを使って縄の道を作る。
「アレク!」
アレクはサメの魔獣と船をつないでいる縄を伝って、サメの魔獣へ走る。
「これで、終わりです。」
アレクはそう言い魔獣の首元にバトルアックスを振り下ろす。魔獣の体に深い切れ込みが入った。
しかし、魔獣は大きく動きアレクを吹き飛ばす。アレクがつけた傷でも全く足りていないようだ。
確実にダメージは入れられているが、致命傷には至らない。もっと体全体を一度に攻撃し続ける方法が必要だ。
アレクはギリギリのところで縄を伝い、船にしがみつく。魔獣と船をつないでいた縄は完全にちぎられ、距離をとられてしまった。
「ここはまだ深い、もっと浅瀬に行かないとまた船底をたたかれるぞ。」
船長がそう叫び、船員たちは慌ただしく、動き回り船を動かそうとする。
確かに、このままでは船長の言う通り、攻撃を一方的に食らって最後には船を破壊されるだろう。どうにか避ける方法はないだろうか?
そうだ!探査ランプを使えば下からの方向がわかるんじゃないか?だけど俺の探査ランプでは小さすぎて、サメの魔獣からくる大きい反射波を捉え得きれない。
そんな時だった。
再び体に、いや船全体に強い衝撃を受ける、魔獣だ。
あのサメの魔獣に船がまた攻撃を受ける。しかし今度は来るとわかっていたから耐えることができた。
かなり深く潜ってから勢いをつけて体当たりをしているみたいだ。勢いがついている分、簡単には方向転換できないはずだ。だからある程度来る方向だけでもわかれば、避けやすくなるのに。
何かないかと辺りを見渡す。
太陽が沈みはじめ、太陽と反対方向には肉眼でも確認できるくらい陸が近づいてきていた。
そろそろ船の魔石ランプがつき始める時間帯だ。そうしなければあたり一帯が暗闇になり、何も見えなくなるだろう。
そう思い船用の巨大な魔石ランプに視線が移る。
ハッと気づく、あるじゃないか!あの巨大なサメの魔獣にも対応可能な、大きい魔石ランプが!
「アレク!頼みがある。手伝ってほしい。」
「いいでしょう。あなたがこういう時に言うことは大体当たりますから。」
俺は船に取り付けられた大型の魔石ランプを集めてマストに取り付けた。よしこれでいける。
俺は船の進行方向に体を合わせ、大規模な探査魔術を自分を中心に球体状に発動する。発動し続けるとマストの右側に取り付けられた、大型の魔石ランプが強く光輝いた。
「右からくるぞ!」
「左へ舵を切れ、絶対に船にあてさせるな!」
船長は俺の指示を聞いて、船全体へ指示を飛ばす。
船は長手のオール水の魔石の力を使って急激にその進路を変更する。
直後、その真横を巨大なサメの魔獣が突き抜けていく。
ギリギリのところで回避できたようだ。
船に大量の海水が降り注ぐ。冬の海水が身に染みる。虹色に光る海水は海に戻っていく。
サメの魔獣はまた深く潜り始める。しかし今度も同じように探査魔術が働いて、回避することができた。
よしこのまま回避し続けて陸に近づけば、こっちにチャンスが増えるはずだ。
だがやはり、自然とは一筋縄ではいかないものである。
サメの魔獣が潜航せず、浮き上がってくる。船の上で皆がサメの魔獣の様子を観察した。
誰かが言った。
「あの野郎、諦めやがった。今がチャンスだ。バリスタを打ち込め!」
本当にそうだろうか?俺は悪寒にも似たものを感じる。サメの魔獣に向かって砲弾や大きな矢が飛び続ける。距離があって中々当たらない魔獣は背びれだけが見えて頭が水面に沈んでいる。魔獣の体が一回り大きくなったように見えた。
直観が警告を鳴らす。そうかあれは!
「みんな!伏せろー」
そう言うと同時に、サメの魔獣から大量かつ高速の水ブレスが放たれる。
ブレスが甲板に直撃しそうになる。このままではここにいる人全員撃ち抜かれてしまう。
俺はとっさに発動した最高出力の雷の魔術をブレスにぶつけた。
バチバチと激しい音が鳴り響く。大量の海水が目の前で爆ぜた。




