船の上3
ウィリアムから聞いた話は、故郷の話だった。
ウィリアムの故郷は炎の魔石の一大産地だったらしい。
しかし、長年の採掘により採掘量は低下、それに伴って採掘で儲かっていた街の財政もゆっくりと傾いているそうだ。
「なので、領主である父は町全体で新しい産業を興そうと積極的に行動していたんです。幸いなことに街の周辺に大きな川が流れていて、この川周辺で水の魔石が採掘されたんです。」
水の魔石か・・・
「だけどこれが問題を生みました。この水の魔石はそれほど純度が高くなかったんです。それに我々は炎の魔石をずっと掘ってきたから、水の魔石の採掘方法は知らなかったんです。それでも、このままでは町の経済が困窮するのは分かっていました。だから試行錯誤して無理やり採掘を継続していました。しかし今のところ良い結果は出ていません。」
なんとなくいやな気がする。
「そこからでした。まるで街の様相を表すかのように、僕の姉が体に薄青色の結晶ができる病気にかかってしまいました。その病気はどんどん結晶を大きくしていき最後には衰弱して数年のうちに亡くなってしまうのです。母も同じ病気にかかり亡くなってしまいました。」
アカウ村の事件と状況が似ている。
「魔獣や亜獣は増えているか?」
「魔獣・・・ですか?いえ、特には聞いていませんけど・・・」
アカウ村と同じならば、魔獣被害が増加しているはずだ。ほかにも衰弱するのに数年かかるというのは違うポイントだ。何か違うことが起こっている可能性は高い。
「僕の姉さんは、あと数年もすれば亡くなってしまいます。だから僕はこれを解決したいんです。いつも優しくて、元気な姉さんに戻ってほしいんです。
そんな時、アカウ村で起きた奇病についての話を聞きました。変な魔術を使う魔術使いが解決の糸口を発見したと、多くの人間を救ったと・・・それがあなたです。」
すがるような思いに、俺は何も言うことができない。
「以前とは状況が異なりますね。」
アレクが俺に聞こえるように言ってくる。
やはりアレクも今回の件は異なることに気づいているようだ。
「詳しい判断は状況を実際に見てみないと、何とも言えない。ただ俺たちが出会った問題について教えることはできる。文書を用意するから、それなら渡せる。身内話をしゃべってもらった手前これぐらいは返したい。どうだろうか?」
ウィリアムは少し考え込む。
「はいそれを受け取りたいと思います。可能であれば姉さんを助けてほしいです。」
そう自分より年下の少年に頼まれてしまった。貴族である少年が頭を下げた。少年とは言え、プライドだってあるだろうに・・・
これは決まったようなものだった。
ウィリアムの部屋から自分たちの部屋に戻る時、アレクにギルド本部に帰りが遅くなるよう伝えてほしいと頼んだ。
アレクはまた呆れたような顔をしたが、二つ返事で答えてくれた。船がたどり着いた先にもギルドの支部がいくつかあり、伝令を行ってくれるらしい。
アカウ村での経験をしたためていたら数日が経った。
船での生活に慣れてきた頃、すっかり仲良くなった船員にあと一日から二日で目的地に着くと教えてもらった。
ようやく着くようだ。
中々大変な船旅だった。あれからウィリアムはしつこく魔術に関する質問を投げかけてくるようになった。
あまりの多さに、根負けして魔術を制御できるようにアドバイスを送ったり、炎とはどういう物かということをイメージで教えたりと、先生のまねごとをしていた。
そのたびにお付きのメイドににらまれるので、胃がキリキリしたけど。
その日も魔術の練習に付き合った後、少し休憩するために甲板に出て風に当たっていると。
「あれ~嵐でもあったのかな?」
仲良くなった船員の一人が海からの漂流物を見ながらそんなことを言う。確かに海の漂流物に木片や布といった人工物が多い。
「何かあったのか?」
アレクが気になって訪ねてきた。
「やたらと、木の破片が多い。だから嵐があったのかなぁと思ったんだけどここ数日は海が落ち着いてたし・・・?」
何かに折られた?そんな物の壊れ方だった。
そんな時だった。
海が盛り上がり、海水が噴火するように吹き出す。海底火山か!?
だがしかし、その中から巨大な生物が飛び出してきた。
辺りに響き渡る、音を鳴らす。体の大きさは20メートル以上もあり、いたるところに魔石が生えている。ヒレの前面にも魔石がついている、まるで刃物のようだ。
それはサメ型の魔獣だった。
「今のは何ですか!」
ウィリアムが飛び出してくる。
「いけません坊ちゃま!中にお戻りください。」
メイドが引き留める。
「アレク、アレが何か知ってるか!?」
「知りません! まさかあんな奴いるなんて、いやよく考えれば海の生物だって魔獣になっても不思議はありません。」
「関心している場合じゃないぞ。撃退しないと!」
アレクはバトルアックスを構える。
そして、「どうやって攻撃を与えますか?」と言ってた。
あの筋肉バカ!
今回、使い物にならなさそうだ。だがはっきり言って俺の魔術も周りへの被害が大きすぎて使うのは最後だ。
そんな風にまごついていると、船の乗組員ははじかれたように動き回り迎撃態勢を整える。
「おめぇら、死んでもお客を届けろ。あの巨大サメをフカヒレにしてやれ。」
流石はギルドが用意した船と船員だ。
海での戦い方をわかっているみたいだ。
サメの魔物は船の周りをぐるぐると回りいつ攻撃しようか、伺っているみたいだ。背びれだけが見えている。その背びれが沈み込み、姿が見えなくなる。船には異様な静けさが漂う。
バチィィィィンという固いもの同士がぶつかる音が響く。
船は大きく傾き、物が一方向に偏る。サメの魔獣が巨大な体で底から船に突進したのだ。
あまりの衝撃に船が折れたかと思った。しかし・・・
船は備え付けの魔石を船長が発動させ、強度が上昇し、さらに高純度の水魔石を備えていて普通ではありえない水の流れを作り出し、船を守っている。
しかし、そのような衝撃をもってしても、立ってはいられない衝撃だった。
「うおおおおっうべっ!」「くっ」
人も物も同じく滑ってしまう。アレクが床にアックスを挿し込み自分を支える。俺は運よくマストに引っかかった。というよりぶつかった。
「うああああああああー」
船員の一人が、何にもつかまれず海に落ちた。
船の揺れが落ち着き、海を見ると海面が真っ赤に染まっていた。