船の上
「・・・ロウ、タロウ、起きてください。」
いつの間にか寝ていたようだ。
荒治療だが、体力はかなり回復できた。
外の音と船の揺れからまだ、暴風域にあるみたいだ。大分収まっているみたいだけど。
時間がたったおかげで、ようやくこの揺れに慣れてきた。
「どうした?アレク」
「体調はどうですか?回復したように見えますけど。」
「だいぶ良くなったよ。珍しいなこんなこと気にするなんて。」
暗くてよくわからなかったが、なんとアレクも青い顔をしていた。
「申し訳ないのですが、可能であれば回復の魔石を使ってほしいです。その魔石が船酔いに効くとは聞いたことがないですが、あなたなら何かできるのではないかと思いまして。」
「珍しいなお前がそこまで弱るとは、まあいいや、アレク良薬口に苦しという言葉効いたことあるか?これは痺れだけど。」
「?言っている意味が分かりませんが、よろしくお願いします。」
その後、アレクも見事に痺れていた。
数時間後、俺たちは船の甲板に出て風に当たっていた。
「まさかあんな醜態をさらしてしまうとは一生の不覚です。さらにはあの酔い止めは拷問ですね。痛みはないのに、体はしびれて動かない、じぶんが自分では無いようでした。」
「誰だって弱る時はあるよ。まあ、痺れてる姿は少し面白かった。」
アレクには悪いが、アレクで出力調整を試させてもらった。
ずっと、船内にいるとまた酔ってしまいそうだったので寒くても外に出た。
海は完全になぎており、静かさを取り戻していた。おかげで体が少し冷えるがすっきりした気分だ。
「あと何日ぐらい乗っていればいいんだ?」
「もう根を上げたのですか?まだまだ続きますよ。」
「マジか、はぁ~、海でなんか釣れるのか?流石に何もなくて暇になってきた。」
意味のない会話を続けていると、
「アレク様とタロウ様ですね。お坊ちゃまがお呼びです。」
随分と顔色の悪そうなメイドが、俺たちを呼んでいた。
帆船の中には貴族専用に別に用意された部屋があった。当然、良いつくりをしている。
流石貴族のお坊ちゃんだ。部屋に入る前に、メイドに止められた。
「お二方とも、酔いを醒ます。物をお持ちですか?」
「いえ、持ってもいませんね。」
アレクが答える。
「船乗りの方に、二人とも酔っていたのに今は治ったと聞いたので、何か持っていると思ったのです。本当に隠し持っていませんか?」
メイドが語気を強めて尋ねる。いや、完全に睨まれていると言ってもいい。
少しむっとして、答える。
「だから、持ってないって」
持ち物検査も受ける。
「本当にお持ちでないようですね。では、どのようにして、回復なされたので?」
色々と思索する。
「どうしてそこまで、こだわる?船酔いなんて、いずれ治るじゃないか。」
メイドはアレクの方を一瞥すると、意外とあっさり白状した。
「実はお坊ちゃまのご気分がすぐれず、長く体調を崩したままなのです。もし回復の手段をお持ちであれば助けていただきたいのです。」
そう言うと、深々と頭を下げた。貴族は一般庶民には頼らないものが多い。今回もそのたぐいだと思っていた。
アレクと目が合う。そしてメイドに向き直って言う。
「依頼は護衛対象を無事に送り届けることです。これは、依頼の範囲内だと思います。
だから協力させていただきます。だけど俺は医者じゃない。民間療法の寄せ集めみたいなことしかできない、そこらへんはよろしく頼みますよ。」
部屋に入ると、顔面蒼白の少年が辛そうにしていた。大分吐いたのだろう。独特なにおいを漂わせている。貴族の少年は予想より悪そうだ。
少年の状態を確認した。呼吸が荒く、手足が震えているようだ。触れてみると体温が高い。その子は俺に気づいたみたいだが、うまく喋れていない。明らかな脱水症状だ。
「早く水を飲ませてください。それから、体を冷やせるものを。」
俺は支持を飛ばしながら、回復の魔石を使用する。俺の実力では回復の魔石の効果が弱い。
それでも少しは現状を緩和できるはずだ。
必死に看病する。ただの船酔いでも、死にかけるとは!
元いた世界との違いを実感する。
苦しまないように少量ずつ水を飲ませながら、回復の魔石を使い続ける。半日も過ぎたころ、何とか持ち直したようだ。
幾分か顔色が良い。回復の魔石が船酔いに効果があるとは聞いたことは無かったが・・・なにに効いているかわからない。
「坊ちゃま、お加減はいかがですか?」メイドが心配そうに、話しかける。
「まだ、気持ち悪い。」
まだ不快感を覚えているみたいだ。だけど、こんなに体力をすり減らした子にこれ以上何かできるのか?
俺やアレクに使った方法が使えるのか?分からないまま使うわけにはいかない。
「まだ、気持ち悪いみたいだけど今できることはありません。もうしばらくこのまま様子を見ましょう。大丈夫、確実に回復していますよ。」
俺は無力感を感じながらも、メイドに向き直り伝える。
俺はそのあとも、回復の魔石を使ってあげた。かなり頭痛を覚えるころには、貴族の子は静かに規則正しく寝息を立てていた。
「お疲れです。中々ハードな1日でしたね。あんなに魔石を行使して大丈夫だったのですか?」
「大丈夫じゃない。頭が割れそうだ。今日はもう魔石は使えないな。」
アレクと一言二言話した後、床につく。気絶したように眠った。
次の日も海はなぎていたので、甲板でボーっとしていると後ろに人影を感じた。
「お前は人の後ろに立つの、意外と好きだよな。」
アレクだと思い、そう言いながら後ろに振り替えると、すっかり元気そうな貴族の子が立っていた。