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帝国Ⅲ-2

しばらく調査した結果、勇者伝説はわからないことだらけだった。


もどかしい思いをしながら、ギルドに向かっていた。

「久しぶりです。グラハムさん。」

「おお、久しぶりだ。水の魔石以来か、あれは大変見事だった。」

「あはは、ありがとうございます。」

乾いた声が出る。

あれ以来、村に行くとまるで英雄になったかのような持て成しを受ける。高純度の魔石を譲ってもらったのも、それが原因だ。

だけど今になって冷静に考えればわかる。あの一件は優秀な人材がいて、しっかりと情報が揃っていたから解決に向かっていることだ。

はっきり言って運がよかった。そう思うと、素直に喜べない。


「今日はそんなお前に頼みたいことがある。」

「お断りします!」

あんなことが二度もあるとは限らない。リスクを考えると断る方がいい。

「いいのか、勇者伝説が知れなくなるぞ。」

その言葉を聞いて商会会長のマリーさんに言われた ‘ギルドも諜報機関を持っている’ という話を思い出した。


「どこで知ったのですか?そのこと」

「お前は、わきが甘い。というか熱中したら周りが見えにくくなる感じだろ。気にしなくとも、誰だってわかる。」

はっきり言って図星なので言葉が出ない。

「王国は勇者が大活躍した土地と言われている。だから色々な資料が残っているそうだ。」

「ぐぬぬ・・・依頼の内容次第でいいですか?」

「ああ、もちろんだ。依頼は王国までの護衛だ。王国のとある貴族の子供が帝国にいる。その貴族の子供に領地への帰還命令が出た。それを現地まで護衛する役割だ。」

「何故、王国の貴族が帝国に?」

「単純な話が人質だな。その存在やその生死が政治の駆け引きになる、だから友和のために帝国に住んでいる。ギルドからの依頼は護衛隊に加わり、貴族の子供を無傷で送り届けることだ。」

「護衛隊がいるなら我々はいらないのでは?」

「言っただろ、その生死が駆け引きになると。つまり変な事をせず、無事に王国にたどり着いてもらわないと困るのだよ。第三者として護衛、監視をする、ともいえる。」

なるほど、やっぱり政治はいつの時代も大変だな。

「理解はしました。しかし今は冬です。冬の山越えは一流の冒険者だって厳しい、はっきりと言って貴族の子供には難しいのでは?」

「それにはとっておきの秘策がある。それはな・・・」

なんだか、いやな予感がした。

「秘策って言いうのがお前か。」

おちょくるように声をかける。

「いえ、私ではありませんよ。私は護衛兼出身が王国なので王国までの道案内役です。」

いたって真面目に返される。

目の前にはアレクがいた。アレクはなんだか、あまり乗り気ではないようだ。

「あまり気がのってないな?どうしたんだ。」

「当たり前じゃないですか。グラハムさんが用意した秘策というのはアレの事です。あなたは聞いていなかったのですか?」

俺は懐かしい、潮風を感じていた。グラハムさんの話を聞いて、大体予想していたが、かなり立派な木製の帆船だった。

「あれだけ、立派なら心配なんてないんじゃないか?」

「冬の海は非常に荒れます、長期航海した船は10隻中6隻が帰ってきません。」

アレクの言葉を聞いて一気に心配になった。

「貴族の護衛任務なのに、そんなリスクの塊みたいなことしていいのかよ。」

「冬の連峰を超えるよりはいいです。なにせ10組行ったら1組帰ってくるかどうかですから。文句を言ったってこの人数を運ぶには船しかありませんよ。」


横を見る。帝国からこの港までは護衛対象である貴族とそのおつきの者たちと一緒に来たのだ。視線の先にはかなりの人数がいたが、確かにこの人数で山越えは難しいだろう。

そして今、船に乗ろうとしている少年が今回の依頼人だ。

鮮やかな金髪で、利口そうな子供だ。まだ一言二言しか話したことないので、あまり人物像をつかめていない。年齢は中学生ぐらいだろうか。

名前はウィリアム・ローリング。王国の現国王とは遠い血縁関係なんだとか、詳しい経緯は分からないけど今は距離をとっているようだ。そのせいで、人質になってしまっているので、難儀なものだと思う。

「しかし、どうして今になって王国に戻るんだろうな」

「そんなの単純ですよ。もうすぐ戦争が始まるからですよ。」

「はじまるのか!?」

「声が大きいですよ。タロウだって聞いたことありますよね。帝国と王国は長い間、小競り合いが続いています。最近はさらに激化して、魔石の供給量に影響を及ぼしています。必然的に規模を問わず武力衝突は避けられないでしょう。人質の存在は王国にとって不利になるので、今のうちに呼び戻すのは当然の選択です。」

「お前、意外と物を考えられたんだな。もっと筋肉のことしか考えられないと思っていたぞ。」

「ぶん殴りますよ。」

全力でこぶしを握ったアレクから距離をとる。


「無駄話をしてないで、我々も乗り込みますよ。船はもう出ます。」

「りょーかい、さて船旅楽しみますかね。」


そう思っていた時期もありました。

船に乗ったのはいつぶりだろうか。元の世界では大型の連絡船ぐらいしか乗ったことがないので、本格的な遠洋に出たことはなかった。

まして荒れた海など体験したことなど一度もない。

沖に出て一日、アレクの言う通り海は激しく荒れ、ゆっくり動くジェットコースターに永遠と乗っているようだ。


俺は見事に船酔いし、ずいぶんと苦しんでいる。気持ち悪い・・・

確か・・・乗り物酔いは三半規管からの情報と体が感じる情報のずれから生じるだったか?

気分が悪くあまり集中できないけど昔、興味本位で見た本に書いてあったような気がする・・・うぅ気持ち悪い・・・。

水分も限られている。あまり吐いてはいられないな、どうにかしないと。


今は海が荒れていて危ないから俺たちみたいな一般人は船の中にいる。だけど船は波に揺られ大きく振動し、それに体も揺らされる。

だったら体を揺らさなければいいのでは?あとは吐かなければいいのだから吐きそうな部分を麻痺させてみるとか?

昔、ばあさんが酔いそうになった時、梅干を食わしてくれたな・・・


くそっ医学についてあまりに知らなさすぎる。

どうすればいいかわからない。何か感覚を麻痺させられれば少しは楽なのに。

麻痺? スタンガン、そうか体にも電気が流れている、だったら外部から無理やり電気を流してやれば感覚がバグるかもしれない。

多分、そのままだと、ものすごく痛いはずだ。

やったことはないけど回復の魔石を同時に使ってみよう。最近二つの魔石を同時に使えるようになってきたのだ。

これである程度は痛みを軽減できるはずだ。

覚悟を決めて二種類の魔石をおなかに押し付けた。

「うっ!」

そのあと静かに倒れこんだ。

思い通り、運よく不快感を消すことができた。体がしびれまくってるけど・・・体調が安定するまでしばらく横たわっていた。

俺はいつの間にか寝息を立てていた。


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