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帝国Ⅲ-1

街の中を冷たい風が吹いていく。体中に震えが走る。

ギルドの受付が言うには、あと数日で雪が降るらしい。

この世界にやってきて初めての冬がやってくる。


街では、暖を取るための木材や火の魔石、年越しの準備を進めるために行商が盛んに行き来している。

こんなに寒いのに、元気な事だ。


あと数か月でこっちの世界に来て1年が経つ。もう一年が経つのか・・・時が経つのは早い。

こっちの世界に飛ばされて、死を覚悟したのに、何とかここまで生きてきた。元の世界に帰る手段は全く見当もつかないままである。

このまま、死ぬまでこっちの世界で暮らしていくのだろうか・・・実のところ生活に余裕が出てきたことで、そこまで嫌悪感はない。


鑑賞に浸りながら、エマさんの研究所に向かっていた。

彼女が持ち合わせる才能と熱意が組み合わさり、研究はとてつもない進歩を見せていた。

「エマさん、お久しぶり、研究の方はどう?」

「タロウさん、見てください。馬車に乗せられるサイズまで小さくできました。今のところ出力は全く出ていませんけど!」

「おお!前見た時よりも、かなり小さくなりましたね。」


その物は完璧な蒸気機関だった。 まさしく蒸気を利用したエンジンだといえる。

昔、大学の講義で技術史に触れたことがある。

原始の車にそっくりだ。


「ところで、これをどうやって馬車に取り付けるの?」

「それは家のお抱えしている鍛冶師に依頼します。まさかタロウさんが母と面識があるとは思いませんでしたけど。」

「あれは悪かったって、隠していたつもりはなかったんだけどね。」

「実家の方から水魔石の研究依頼で、タロウさんの名前で募集が来たときは大変驚きました。もういいです。タロウさんがだれと面識があろうとも私は諦めるわけにはいきません。止めても止まりませんよ。」

「いや、やらないよ。俺は別にマリーさん手先でもなんでもない。今日は以前から頼まれていた高純度の水魔石を手に入れたから持ってきたんだ。いらないのか?」

「いります!いります。しかし手に入ったんですね。採掘を再開して軌道に乗ったばかりだと聞いていたので。」

「これでも、村の方々とは一部、面識があってな・・・鉱夫の方に直接譲ってもらった。」

アカウ村に研究者を送って奇病の解決を進めたことは大きい。たくさん研究してくれたおかげで奇病の解決方法が見えてきていた。

俺はいくつかの小瓶に入った水魔石と劣化した水魔石を取り出した。


「劣化している?なぜそれも持っているのですか。」

「これを使いたいからかな。まっエマさんほどじゃないけど、俺も魔石の研究だな。」

「劣化した魔石をですか? 変わってますね。帝都でも研究している方は、そんなにいないと思います。どちらかというと北の王国のほうが盛んなのでは?・・・・あっそうだ帝国の研究動向ですよね。」


それからエマさんは帝都の、研究の動向を教えてくれた。曰く軍事研究がどんどん盛んになっているそうだ。エマさんの研究所にも軍事に利用できそうな研究がないか手紙が来たそうだ。

「研究者の間では噂になっています。帝都がどこかの国と戦争するんじゃないかって。」

「どこかってどこと?確か帝国は各地と火種は抱えていて停戦状態を維持していたよね?」

「はい、今回は王国と魔石取引でもめているのです。火の魔石がありますよね。産出地の多くが王国側にあるのです。さらに高純度ともなると、多くが王国産です。」

「つまり経済的に苦い汁を吸わされているってわけか。」

「はい、ここからは私の予想ですが、帝国は大々的に行動することで態度を示したのだと思います。正常に取引しないと戦うことになるぞと、女帝に新しくなったからと言って帝国は衰えてはいないぞと。その結果で供給量を絞られているので何をしたかったのかって感じですけど。」

「なるほど、・・・色々めんどくさいな。国は」

「それが国の役割でもありますから。そうだ、珍しいものを手に入れたんです。面白いですよ。王国のおとぎ話が載っている本です。」

「いいのか。おとぎ話の本だって、高いだろ。」

「ええ、今回はもらった魔石が多いので埋め合わせです。」

「わかった。ありがたく貰っておくよ。」


夜になった。俺はギルドが運営している宿泊施設に帰ってきた。ギルドにおける俺の評価が上がったらしく、少し値は張るが、個室を利用させてもらえていた。


その日は、やることもなかったので貰った本を読んでいた。

おとぎ話は色々な場所で見聞きする。大抵が勇者の物語だ。王国にも勇者がいたらしい。

ほとんどのお話が伝説と呼ばれている魔獣を倒すものだ。

アレクから聞いた話も載っている。


しかしこの本は面白い。

魔獣退治だけではなく、勇者の日常が事細かに載っていることだ。どうやら勇者は多妻だったようだ。英雄色を好むということか。

読み進めていくと、勇者が炎や水の魔術師でもあることが分かった。ある時は自身の大剣に炎をまとわせて戦い、またある時は水の中で、大激流を発生させ戦うそうだ。

大分、アニメっぽいな。


勇者がよく話していたことも載っている。

『勇者は始まりの森に突然現れた迷い人である。当人はトラックに引かれたと言い・・・異世界転移したといい・・・』

「!?」

声にならない声が出た。

どういうことだ?元勇者は日本人ということなのか?

驚いて固まってしまったが、注意して本を読み返して勇者について調査した。

大抵は魔獣退治について派手に書いているが、節々にそれらしい証拠が見受けられる。

始まりの森とは俺が最初にこの世界へ来たときに、入った森だ。

やっぱり勇者は日本人なのか?

この世界の和名の多さ。地名に見られる日本語の多さ。何より言語の類似性・・・本当に関係しているのだろうか?

謎が深まり、何が何だか分からなくなってきた。

どちらにしろ、直近の行動方針は決まった。

勇者関連の歴史を漁る必要が出てきた。この本は王国製だ・・・王国か、冬が明けたら行ってみる価値はあるかもしれない。


数日間かけて、帝国内における勇者の情報を集めていた。

だが出てくるのはどれだけ勇敢に闘ったかという物語ばかりだ。後は400年ぐらい前であるということだ。・・・なんでそんなに昔なんだ。


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