【幕間】もう一つのアカウ村3
次の日から謎の水についての調査が始まった。といっても調査を行うのはタロウで、私はついていくだけですけど。
輝きの強い水をたどっていくと、大きい石の扉で閉じられた場所に着きます。かなり分厚く、これをどかすにはかなり苦労しそうです。
しかし破壊はできると思います。バトルアックスを構え、力を込めます。
すると、タロウに慌てて止められます。なんでも文化的価値が高いから壊すのはよくないそうです。お絵描きのような物なのに大事なのでしょうか?
しかしどのようにして中に入りましょうか。これを壊さずに通るのは難しそうです。
壁の周りは金属や木組みで補強されていて、ここを削るのは現実的ではありません。
考えていると突然、理不尽に怒られました。
振り返ると、やせ細ったおじいさんが肩で息をしながらこちらに向かってきます。
タロウはすぐに私たちがここにいる理由を話しますが、全く持って聞く耳を持ちません。
このおじいさんは何故こんなにも傲慢なのでしょう。
ギルド支部長のアランや村の人々があんなに苦労しているのに!村で過ごした記憶とともに心の中でふつふつと湧き上がるものを感じます。
思わず、声を荒げてしまいます。よくない事は分かっています。だけど止めたくありません。
しかし、幸運にもタロウが止めに入ってくれます。タロウは私の背中を押し、すぐにその場から離れさせてくれました。
不思議なものであんなに沸き上がっていた感情も静まりました。
それと同時に疑問が沸き上がります。
タロウは何故怒らないのでしょう?タロウだってあんなに調査に打ち込んで時間を費やしてるのに。
「何故、反論しないのですか?」
「アレクこそ、意外だな。そんな風に怒るなんて。」
「当たり前です。亜獣の討伐は、村人の生活が懸かっています。同じ村の人間なら協力すべきです。」
「それはそうかもなんだけど、なんというか緊急事態の時ほど感情的になっちゃダメだろ?」
「それは理解できます。でも時には感情的に言わなければ伝わらない人もいます。特に、ここのような小さい村の人達は良くも悪くも考え方が固いです。押し通してでも従わせるべきです。」
アレクは、どうやら正義心が強いようだ。
「確かにそれはそうなんだけど。アレクの言っていることは正しい。だけどそれがいつも、村の人々が望む結果になるとは限らないと思うんだよね。・・・なんていうのかな・・・正しいことと同じぐらい望むことも、考えてあげないといけないと思うんだよね。」
タロウは難しそうな顔をしながら、難しい話をしてきます。正しいほうがいいじゃありませんか。
タロウは正しい事と望むことは違うと言っているでしょうか?・・・私には難しい。
最後に扉を壊せるか聞いてきます。
何を不思議に思っているのでしょう?あれくらい簡単です。
そう答えるとタロウは青い顔をしていました。本当に変な男です。
村に戻るとガタイのいい若い男が暴れていました。
どこかで見たことがある顔をしています。男は錯乱しています。
とりあえず落ち着かせることにしました。
タロウと協力して気絶させます。男を落ち着かせたとき、ギルドにある男が来ました。
先日、野獣の居場所を聞いた村の男性でした。
私はその顔を見たとき、察しました。
後の事は村の医者に任せました。できる者に任せた方がいいでしょう。
タロウと別れた後、私は旧採掘場に入る方法を聞くためギルド支部長を訪れました。
「旧採掘場のへの入り方ですか。あの採掘場は私がここに就任する前から破棄されていました。しかし、最後に扉を閉じる際に採掘場の中から作業をした人々がいたそうです。その方々が扉を閉じた後、中から出てくるために残しておいた作業路があると聞いています。これを使えば、今でも出入りができると思います。」
「その作業路は誰が知っているのでしょうか?」
「村には3人知っている人がいました。しかし、お一人は例の奇病でお亡くなりになりました。もう一人の方も知ってはいるのですが、ここ最近は呪いにはかかりたくないと言い、採掘場関係の話は一切しません。」
「では、残り一人の方はどうなのでしょうか?」
「残り一人の方は・・・呪いと恐れてはいないです。しかし別の理由で難しいかもしれません。」
「それはどういうことでしょうか?」
ギルド支部長から話を聞いて、気まずい気分になりました。しかしタロウに話さないわけにいかないのでタロウを呼び出します。
次の日のお昼ごろ、私たちは作業路の入り口を知っているという、作業路への道を知っているというヨシアさんを訪ねました。
最初から高圧的なヨシアさんに粘り強くタロウが交渉してくれています。ヨシアさんを訪ねる前に交渉は基本的にタロウに任せるという風に決めました。
しかし予想通りヨシアさんは頑固に作業路の入り口を教えてはくれません。
話し合いが続く中、タロウが仕掛けました。タロウも話の勢いがどんどん強まります。
しかしヨシアさんは首を縦に振りませんでした。
タロウは中々の勢いでしたがダメそうですね。こうなったら自力で探すしかないようです。
私は諦めて立ち去ろうと大きく息を吐いた時でした。ヨシアさんは目線をそらしながら、ぶっきらぼうに教えてくれました。
これはタロウの粘り勝ちですかね?
きっと意地のぶつかり合いでは引き出せなかった事。相手へ共感しようとしなければ引き出せなかったことですね。
「話し合うこともやっぱり大事ですね。」
次の日の朝、旧採掘場探索の準備を進めます。中にも亜獣等がいる可能性はあるので、入念に準備をしていました。
「アレク君、タロウ君。」
宿泊地を出た時、そこにはギルド支部長のアランさんがいました。
「旧採掘場に向かうのだろ?すまないな。君たちに任せっきりで」
「大丈夫ですよ。それに物資など支援してもらっているので円滑に進められています。こちらこそありがとうございます。」
タロウが元気に答えています。
我々も助けられているのです。確実に結果を持ってこないといけませんね。
私たちはこれから謎の水が流れ出ている旧採掘場へ挑みます。何があるのか不安は大きいです・・・楽しみも大きいですが・・・
私たちは旧採掘場へ歩き出しました。
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魔獣の体液で装備がボロボロになってしまいました。タロウは探査ランプを杖代わりにしながら歩いています。
まさか魔獣がいるなんて、さすがに予想外でした。しかし戦闘力は低かったので二人だけでもなんとかなりましたが今になって冷静に判断するとかなり危険な行為でした。
昼頃に村までたどり着きました。
我々の様相を見て驚いたギルド支部長のアランがしばらく慌てていましたが、ようやく落ち着いて話ができました。
アランに事の顛末を話すとすごく安心している様子でした。
それに、すぐに切り替えて奇病の解決を考えている様子です。報告の後、タロウは休憩もそこそこに魔獣の体液を調査し始めました。これ程の探求心はすさまじい。
全く皆揃いもそろって・・・私もまたできることをしましょう。
数日たって目に見えるほど亜獣の数が減り、周辺地域は安定をとり戻していきました。
私は亜獣の減少を知り合いになった村人に話していきます。
みんな喜んでいました。
さらに、奇病に罹る原因のような事も発見され、気を付ければ奇病に罹らず魔石採掘を再開できると分かり、喜びは2倍になりました。
それまで静まり返っていた村が息を吹き返したように声や活気があふれかえりました。
さすがは炭鉱夫の村です。勢いで水に入っても足が濡れないゴム製の靴を作ったりするような猛者もいましたね。
数日の後、村を出発する日が来ました。タロウが急いで帝都に帰る予定ができたと言っていました。理由を聞くと、中々面白そうなことをやろうとしているみたいです。
せっかくならタロウの計画がうまくいってほしいです。知り合った村人たちが再興できるように私も支援することにしましょう。
私たちは全力で、帝都までの道を駆け抜けました。