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アカウ村7

「アレク、この鉄製の矢を魔獣に当てたい!投げてさせるか?」

「承知しました。」

俺もクロスボウに鉄製の矢をセットする。

「魔獣の狙いをずらすために、同時に行きましょう。」

「了解。」

『3・2・1』


二人は同時に別の方向へ駆け出す。

魔獣はアレクの方へ向き粘液を飛ばそうとしている。

俺は一度止まって正確に狙い撃つ。

こんな危険な魔獣外に出すわけにはいかない!ここで当てるんだ。

ヒュンという音と共に魔獣に矢が突き刺さる。

しかし魔獣はこちらに向き直り、溜めていた粘液を噴出した。

「俺だっていろいろ考えてんだよ。」

破裂魔石を取り出す。それに魔力を込めて投げる。

魔石が粘液に当たる前に破裂し、その勢いで粘液も飛び散った。

俺は粘液をよけ、また走り出す。

魔獣はこちらに向かってきた。


「お次はこっちです。」

アレクがそう言い、矢を投げる。

鉄製の矢は見事に突き刺さる。俺のクロスボウより刺さってないか?

魔獣は翻弄され、動けなくなりそのまま止まってしまう。

こうやって次々に矢を魔獣に浴びせた。

「よし、もう十分だ。退避してくれ。」

俺がそう言うとアレクは大きくジャンプし、俺の後ろに来る。

俺は雷の魔術を最大出力で使用するため、強く集中する。

光の魔石が反応していることが分かる。あともう少しだ。

幼虫の魔獣はぶるぶる震えたかと思うとぴたりと止まった。

「やったか?」

俺は不思議に思い、集中を解いてしまった。

「気を抜くな!仮死だ。」

アレクが飛び込み、俺を押し倒す。

「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンン」

魔獣は目を見開き、体中に孔が開いた、そこから粘液と体毛が飛び散る。

今の鳴き声で洞窟の内壁も落ちてくる。


魔獣の攻撃が収まったようだ。アレクは動かない。幸いにも気を失っているだけのようだ。俺はアレクをどかして起き上がる。


アレクは背中に大きなやけどを負っていた。固くなった体毛も数本刺さっているようだ。

己の無力さに拳を強く握りしめ、魔獣の方へ向き直る。

地面を揺らすほどの耳が意味不明な音で鳴り響き、うまく立つことすらままならない。


魔獣はこちらを見ている。動きを止め、体を波打ちだたせている。

「くそっ!お前も必死に生きてるかもしれないけどな。俺たちも必死なんだよ。すまいないがお前の命、貰うぞ。」

集中し、発動しかけの雷の魔術を全力で発動した。

大量の電撃が広間に広がり、魔獣に打ち込んだ杭に電撃が飛び移っていく。

そして魔獣は電撃で包み込まれた。


しばらくして、焦げ付いた匂いを漂わせながら魔獣は動かなくなった。

「な、なんだ、これは こんなことができるのか。」

アレクはいつの間にか立ち上がり、俺の魔術に驚いていた。


「アレク大丈夫なのか? 背中が大分やけどしているぞ。」

まだ耳鳴りのする耳を抑えながら、アレクの状態を確認する。


「そういえばそうでした。うっ気づくとかなり痛んできました。」

「はぁ~、ちょっと待ってろ。」

俺はバックの中から、回復の魔石を取り出す。値段は高かったが帝都の医者に譲ってもらったのだ。もう一つ、団長にもらったものもある。


目をつぶって集中する。

回復の魔石は光り輝いている。アレクも光りだした。

俺は回復の魔石を使うことができた。がかなり出力が弱く時間もかかるのだ。

「背中の針を抜くぞ。少し我慢しろ。」

回復の魔石を起動しながら、背中に数本刺さっている固い毛を抜いていく。

地道に練習を重ねたおかげで、魔石を起動しながら他のことができる様になった。

少し頭痛がする。疲労がかなり溜まってきた。


「どうだ、痛みぐらいは引いたか?」

「ありがとう、これぐらい回復すれば動けます。」

俺達は動き回れるようになって、状況を確認する。

魔獣は完全に倒すことができている。


「タロウ見てください。魔獣の体液が、採掘場から流れている水と混ざると例の光る水になっています。」

「確かに、魔獣の体液を保存しておこう。それから体液が外に出ないようにしないと。」

俺はそう言って、小瓶に体液を入れる。

魔獣はどうしようか相談した。


結局いい案は出てこず、焼却するしかない。ということで、体液に触れないように枯れ木と合わせて火の魔石で火をつけて、急いで旧採掘場を後にした。

ちらりと見た魔獣の最後の姿は全身が炎に包まれていた。あの状態なら跡形もなく燃え尽きるだろう。

採掘場を出て正面の入り口に向かう。


俺はなんとなく、石材の扉の前で両手を合わせて、静かにたたずむ。

「なんですか?それは。」

「俺が昔、住んでいた国でよく行われていた祈りだ。命をいただいたり、弔ったりするときにやる儀式みたいなもんだ。」

アレクもいつの間にか、アレクのやり方で祈りをささげていた。


正門の隙間から少し煙が立ち上り、あたりに焦げたにおいが立ち込めたが、しばらくして煙もにおいもなくなった。

「終わりましたか。」

「そのようだな。見てみろ、水の輝きがどんどん減って少し、くすんだ水になっている。」

「やはり魔獣の体液が原因で間違いないようですね。」

「そうだといいが、もうしばらく村に滞在して様子を見よう。」

「ええ、いいでしょう。私としても体力を回復する必要がありますから・・・気にしないでください。よくあることですから。」


俺は何も言えず、村の方向へと歩き出した。

村に帰り、事の顛末をギルド支部長に報告する。

「そうでしたか。旧採掘場とは、盲点でした。」

「予想外にも、魔獣に遭遇しましたが戦闘力は高くなかったので二人だけでも撃退することができました。またその魔獣が流していた体液が、今回の亜獣増加の原因となった光る水を作り出していた可能性が高いです。もうしばらくすれば亜獣も減ると思います。」

「それはよかったです。このことは速達で帝都の方に連絡しておきますね。後は奇病に罹った人が完治すればいいのですけど・・・」

これについてはいまだに解決法がなかった。


しかし病人の増加も同時に食い止めることができたのだ。研究に費やす時間や資金、人々を増やすことができれば、いずれ解決の糸口が見つかるかもしれない。

支部長との会話の後、俺は借りている研究室に行った。確かめたいことがあったからだ。

魔獣から採取した体液を調べる。劣化した水魔石が混ざっている水に魔獣から採取した体液を混ぜる。すると劣化していたはずの水魔石が鈍く輝きを取り戻した。

「驚いた、本当に復活するなんて。でもこれ、今まで気づかなかったけど明らかに魔石の形がいびつだ。」

正常な魔石の破片は丸みを帯びた粒のような形状をしているが、魔獣の体液と混ぜ合わせるとひし形に変形する。他の特徴として色が少しだけ淡い、色が変わった魔石と変わらない魔石を並べて見られたから、ようやく気づけた。

こんなにもわかりやすい特徴があったのに気づかなかったなんて、俺は知識はあっても・・・まだまだだな・・・


これは人体とどのように関係するのだろうか。まずは直接触れて魔素を流してみた。

なんと魔素を流している部分に魔獣の体液で変化した魔石が寄ってきた。これがどんな効果を呼び起こすのかそれはいまだ不明だ。でも何となく、なんとなく・・・これが原因のような気がしてならなかった。

他の実験や検証をすると多くの事が分かるかもしれない。でもここにある装備だとこれが限界だ。


後、俺達ができることは限られている。

数日たち、亜獣の出現数が劇的に低下したので、俺たちは帝都に帰還することになった。


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