アカウ村5
患者の状態を資料で確認する。
職業別で見てみると、採掘場で働いている人が奇病に多くかかっているようだ。
後は数が少ないが他の方々もいる。あまり関連性があるとは思えない。
鉱山傷症というものにかかっているくらいか。
「ニコラスさん、この鉱山傷症っていうのはどういう物なんですか?」
「ああ、それは単純に手足の切り傷や肌荒れの事を言います。鉱山で働く人はよくかかっている印象ですね。まあ、命にかかわるようなものではありませんよ。」
どうやら意外と早く原因が分かるのかもしれない。
ニコラスさんはよく見る鉱山傷症に何も疑問を抱いていない。しかし、異世界からきた俺だからこそ、この世界よりも科学を知っているから・・・知っている。
もし、飲み水が原因なら職業にかかわりなく村の様々な人に奇病がみられるだろう。だけど、奇病にかかる人は偏りがある。この人たちは手足に傷がある。この状態であの特殊な水に触れたらどうなるだろう?
劣化していない水の魔石が傷口から入り込んだことで発症している可能性はないだろうか?
元の世界では、傷が原因の病気はたくさんある。
このことをニコラスに伝える。
「体に魔石が入る?にわかには信じられません。それに確認方法がありません。」
「患者の血液を確認すれば体に交じっている魔石が見つけられるかもしれませんよ。 俺が使っている顕微鏡でよければお貸ししますが。」
「・・・さすが帝都から来た方々ですね。顕微鏡なんて、最新で高価な物をお持ちですね。・・・お借りしてもよろしいですか?」
精度のいい顕微鏡は高い。片田舎の医者ではまだ手が出せないほどだ。
ニコラスさんはちょっと悔しそうな表情を少し見せた。
これがあればもっと早くから調査を進められたはずだからな・・・
俺は顕微鏡を貸した。
魔石によってこの世界は奇妙な科学レベルにある。回復の魔石なんて、その最たる物だろう。回復の魔石によって大抵の傷は一瞬で治る。病気だって風邪ぐらいなら治せるようだ。
こんな世界では体に極小の物が交じるという考え方は受け入れがたいものかもしれない。
数時間ほど応接室で過ごすと、ニコラスさんが病室から出てきた。
「確かに血液の中に水魔石の粒子が見受けられました。本来ならありえません。
本当にすごい・・・考察力ですね。
私なんて、去年から発生し始めた患者を一年間見てきたのに、あなたはこの数日で見抜いてしまった。
なんという力。・・・これでも自分の実力には少し自信があったんですけどね。」
「あなたがどんなことでも詳しく書いて、わかりやすく情報をまとめていたから気づけたことです。俺の知識だって前に住んでいた国の人々が積み重ねてきた知識があったから発想できた。俺がやったことなんて大したことではないです。」
そう、これは俺が日本に住んでいたから気づいたことだ。
「それでも、これで病気にかかる人を大きく抑えられる。本当にありがとうございます。」
深々と頭を下げられてしまった。歯がゆくもあり、ちょっと恥ずかしくもある。
「さて問題は」「すでに病気にかかってしまった人をどのようにして治療するかですね。」
食い気味にきた。
しかし、これはかなり難しい。
まさか体の血を全部入れ替えるわけにはいかない。
どうにかして、魔石だけ体から抜き取る方法はないものか。それに人が亜獣化しない説明もできていないし、いつまで体力が持つのか、など問題は山積みだ。
悩んでいると、アレクに呼び出される。
ニコラスに挨拶し応接室を出る。アレクはなぜか、気まずそうだ。心なしか姿勢も悪い。
「つまり、あの旧採掘場はメインの入り口は完全にふさがれていて、今は通る方法がない。そして抜け道があるけどそれを知っているのが村でも数人だけ、でもみんな怖がって奇病に関わりたくないと言って教えてくれない。ということか。」
「はい、一応知っている人は他にもいるのですが・・・旧採掘場の扉の前で、会ったおじいさんが旧採掘場で最後まで採掘をしていた方のようです。抜け道のルートを知っているそうなんですが」
「一筋縄ではいかなそうか」
「はい、そのようです。」
これはまた骨の折れるような展開だ。
数日が過ぎ、俺とアレクは旧採掘場へ向かう道の分岐をおじいさんの家があるという方向へ進む。
おじいさんの家は開けた場所にポツンと一軒だけ建っていたので、すぐに見つけることができた。
「すみませーん、ヨシアさん いらっしゃいますか?」
「なんじゃ、お前たちか。」
古びた家の中から、昨日、俺達をしかりつけた人が現れる。イシダ・ヨシアさんと言うらしい。以前とは異なりいきなり怒鳴られるようなことはなかった。すんなりと家の中へ上げてくれた。
俺は早速、今まで分かっている事、ギルドの依頼について話した後、本題の話を進めることにした。
「使われてない採掘場の中へ調査しに行きたいのですが、抜け道を教えていただけないでしょうか?」
俺が言い切ると同時にヨシアさんと目が合う。まるで、自分の奥底まで見抜かれたようだ。
「・・・ならん、あそこには誰も入ってはならん。」
「何故です!村の危機を救えるかもしれないのですよ。」
アレクが強気に出る。
「わしはもう長くはない。今更、村の事など、どうでもいいわい。」
頑なに話そうとしない。
仕方ない。悪いとは思ったが、適当に話して揺さぶってみよう。
「あなたは何故、村から外れてここに住んでいるのですか?」
「なんだと」
おじいさんが凄む。
「あなたがわざわざここに住むには、かなり不便ではありませんか?わけがあってここに住んでいるのではありませんか?」
「ふんっ何かと思えば礼節も知らんガキどもめ、いいか!あそこには仲間の魂が眠っている。昔は今ほど安全ではない。仲間がまだ眠っておるのだ。そんな場所にお前らのようなうるさいガキを向かわすことはできん!帰れ!」
「あなたのお仲間が守ろうとした村はどうでもいいものですか!あなたがお仲間を思うように、お仲間は村やあなたの事を思っていたのではありませんか?」
俺も自然と力が入る。ヨシアさんは何も答えない。タロウは気づくことはなかったが、ヨシアさんの視線の先にはかつての仕事道具をとらえていた。
沈黙の時間が流れる。
アレクがあきらめたように息を吐き、口を開きかけた瞬間
「この家の裏のでかい石を調べろ。奥に進むなら朝方の村の子供達に見つからない時間帯に行け。これ以上は何も言えない。」
「! ありがとうございます。」
そう言ってヨシアさんの家を後にした。
「話し合うこともやっぱり大事ですね。」
アレクはぽつりとつぶやいた。
次の日の朝、ヨシアさんの家辺りを調査すると不自然に切り出された大きい岩があった。二人で移動させると、しっかりと作られた縦穴が出てくる。
「この穴のようですね。行けますか?」
「おう! 何が出てくるかわからない慎重に行こう。」
魔石ランプを起動し、穴の下を照らしながら進んでいく。
すぐに長く続く横穴にたどり着き、奥に進むと扉があった。
軽く押すと扉が開いたので中に入ると、またもや大きく開けた場所に出る。
ランプの光量を上げて周りを観察する。
「タロウあれを見てください。あれは正規の入り口をふさいでいた、石の扉と同じ模様が掘ってあります。」
「ちょうど入り口の裏に出られたみたいだな。とりあえず探査魔術を使ってみるよ。」
探査ランプは真っ赤に光る。いる。この先に亜獣か、魔獣か・・・
「ここからは慎重に行きましょうか。」
アレクの目つきが変わった。
俺も魔石をいつでも取り出せるようにする。