アカウ村3
「3日間こもって調査した結果、水の中に魔石が多いというだけかですか?」
面と向かって、アレクに言われた。
ちょっと落ち込む。
「野生動物の飲み水に魔石が多いから亜獣になりやすいということなんでしょうか?」
どうやら悪気はないようだ・・・
「それだと最近、亜獣が増えた理由を説明できない。鉱石の採掘はずっと続けてきたんだから常に亜獣が多くないと説明できない。」
「そうですね。含まれる魔石が多いだけで亜獣になるかもわからないですし。う~ん、手詰まりですね。現地調査もまだまだ残っていますし、今日はそちらをしますか?」
「そうだな、気分転換になるし行こうか。」
意気込んで研究者気どりで調査してみたが、全然うまくいかなくて気分が落ち込んでいた。
昨日と同じ採掘場の周辺を探索してみる。やはり亜獣が通常より多いように感じる。
先日、シカの亜獣がいた小川にやってきた。鉱石の採掘地にしては意外ときれいな水だ。キラキラと太陽の光を照り返している。
が・・・やはり見つからない。
結局時間だけがたち、昼食の時間となった。
「しかし、報告通り亜獣多いだけで、それ以外は普通に見えますね。」
「そうだな、お昼の後は、また採掘場の周辺を調査するか。」
「ええ、そうしますか。あまり期待はできませんが。」
小高くなっている崖の上で休んでいた。
小川も見える。
「正直、手詰まりだ。」
「これは長くかかりそうですね。んっ?あれは採掘場から水が流れているんですね。」
「そりゃあ、水の魔石の採掘場だからな、水が多く流れていないとダメだろ。」
「それもそうですね。」
一応アレクが目を向けた方を見てみる。予想通り、水が流れて川になっていた。
採掘場から流れ出ているからだろう、少しくすんでいる。
あんなふうに大量の水が流れていないと、水の魔石はすぐに空気に晒されてバナナのように、どんどん劣化していく。
劣化した水の魔石は他の魔石より、特徴的な鮮やかな青からくすんで濁ることが分かっている。
採掘過程で漏れ出した水の魔石が流れ出ているようだ。
大量に川に流れれば、あんな風に川自体がくすむ。
結構、体に悪そうだな・・・
その時風景を眺めながら、ふと思いついた。
「なんで小川はあんなにキラキラしているんだろう。」
「何を言っているのですか?考えすぎて頭が溶けましたか。」
コイツ、意外と辛辣だな。
だけど川を見比べて俺は気づいた。
採掘場から出た水は劣化した魔石でくすむはずなんだ。なのにあの小川はかなり光り輝いている。
では魔石を含んだ水はどこに行ったんだ。
「アレク 試したいことがある。手伝ってもらってもいいか?」
「いまさら、何を言っているんですか?いくらでも手伝いますよ。」
村に帰って、仮設した実験室で調査を開始する。
三日前に採取した亜獣がいた小川の水には、やはり魔石の粒子が含まれていた。
だけどここは、水の魔石の採掘地だ。水の魔石は劣化すると、くすんでしまう。
今主流で採掘場から流れ出た水を観察してみると、やっぱりくすんだ魔石が大量に見つかった。
小川に流れていた魔石の粒子は、なぜか劣化していないのだ。
もう一つ、調査から帰ってくるとき、川がどこから光輝き始めるか地図と照らし合わせて記録した。
それとここ最近、水辺で戦った亜獣の位置もおおよそで印をつけた。
すると水の輝きが強くなる位置と亜獣と闘った位置は恐ろしいほど重なっていた。
「すごいですね。ここまで一致すると流石に関係を疑わざるを負えません。」
「自分でも驚いているよ。でもまだ根本的に原因を特定したわけではない。過信は禁物だ。
とりあえず、この水がどこから流れているか特定しよう。」
「ええそれがいいでしょうね。私はこの結果をギルド支部長に伝えてきます。」
「了解、俺はもう少しこの水について調べてみるよ。」
そのあと集中して調べているうちに夜になった。
疲れて、頭が茹で上がっている。少し涼みたかった。
外に出て、ギルドの前で涼む。街灯なんて無いから、元の世界ではなかなか見られなかった真っ暗な夜だ。真っ暗なのに不思議と夜空ははっきりと見える。天文学やっとけば面白かったかな?
『ふー』
声が重なった。
右を見ると同じく夜空を見上げていたであろう村の医者がいた。
「あ、どうも村で医者をしているハヤシ・ニコラスと言います。サトウ・タロウさんですよね?ギルドの方に聞きました。」
「初めまして、あなたは確か・・・奇病を診察しているとお聞きしました。」
「あはは・・・はい、できることをやっていますが、正直なところ何もできていません。もうすでに何人かは助けられませんでした。あなたが亜獣が増加したヒントをつかんだと聞いたので何か参考になればと思って来てみたんでが集中していたようなのでここで休ませてもらってました。」
奇病は体に張り付いた魔石が、どんどん体力を吸い取って最後には衰弱させてしまうらしい。ニコラスの話を聞いていると、どうあってもこの病気を解決したいようだ。
強い熱意を感じる。
俺は見つけたばかりで確証の無い情報を伝えようか迷ったが、今日までに掴んだ情報を伝えることにした。
「まだ確証を得たわけではないので過信しないでください。」
「劣化しているはずの水魔石が劣化していない・・・ですか。なぜなのかは全くわかりませんが、水とは盲点でした。」
俺は続ける。
「だけど通常の野生動物は亜獣化が進むのに、人間ではそうならないのか。その理由は分かりません。」
「タロウさんはこの奇病の原因が同じ、水にあると考えているのですか?」
「あー、いや確たる証拠はないのですけど俺が昔、住んでいた国では今回みたいに、普通なら入らない物が水に入ったことで引き起こされた病気がいっぱいあったんです。だから、同じかもしれないなという憶測なんですけど。」
「う~ん、なるほど。しかし水が原因となると、とても厄介です。生活のいろいろな場所で使いますから、でも四の五の言ってられませんね。ありがとうございます。色々、考えてみます。」
ニコラスはそう言ってギルドのほうに帰っていた。願わくば何かヒントになってくれるといいな。




