魔王の国Ⅱ-4
タロウが突っ込みを入れるよりも早く、ドラゴンは空間を震わす鳴き声とともに起き上がり、そのまま海の中へ消えていった。
倒せはしなかったが、ひとまず困難は去ったようだ。
警戒を続けつつ、地上へと降りていく。
強い魔素の塊が遠のいていくのを感じる。やがて追跡は不可能となった。
何とかなったか・・・
「タロウ兄さん。」
「ウィリアム、無事か?」
「ええ、傷はないです。・・・全く歯が立たなかったです。」
「かなりの強敵だった。今までは倒せていた攻撃も全く効いていなかった・・・これは骨が折れそうだ。」
「僕・・・もっと強くなります。あのドラゴンが何体来ようとも全部倒して見せます。」
「何体も来られるのはいやだな・・・でも、ありがとう。」
真面目過ぎる性格の義弟に心配になりつつも頼もしさを感じる。
「まずは、被害状況を確認する。報告を頼む。」
俺の号令に従って、各人が動き出す。
結論から言えば、ドラゴン被害は物的被害が大半で、人的被害はなかった。
思い切って回復と防御に集中した配置と装備だったのが功を奏した。
可能性は低いとはいえ、コツコツと準備していた価値もあった。
すぐにこの結果を、他の国へ共有する。
数日後には全国へ伝わるだろう。
ドラゴンとの一戦があって数日、国は落ち着きを取り戻し、いつもと変わらない様子であった。
俺は研究所からの報告を受けていた。
黒点の急激な増加は高濃度の魔素を保有する強力な魔獣に反応している可能性が高いということが分かった。
おそらく、魔獣の魔素を吸っているとのことだ。
次々とわかる新事実に頭を悩ませる。
これは解析に長くかかりそうだ。もしかしたら、生涯にわたって現象を解決できないかもしれない。
もちろん、元の世界に行く方法も・・・
少しモヤっとするような感情がよぎるものの、扉がバンと開かれる。
最近、歩き回るようになった子供が勢いよく入ってきて、それを追うようにノエルも入ってくる。
子供が抱えられて部屋を出ていく。
帰ったらいっぱい遊ばないと・・・
少しの間の後、またしても執務室の扉が開く。
「ご報告。他国にドラゴンが現れました。」
「分かったすぐに聞く。ってお前帝国にこの前のドラゴンの件で報告に行っていたよな?」
「はい、その件も含めてご報告をしたく思います。」
報告者の情報は衝撃的な内容であった。
世界中のいたるところでドラゴンの被害が確認されており、特に帝国では都が直接被害にあい、破壊されたとのことだ。
街の情景を模写した絵を見る。
立派だった城から煙が上がり、半壊していた。
街からも火の手が上がり。いたるところが崩れている。
散々なありさまだった。
帝国に住んでいる面々が心配だ。
報告に行かせていた者は、女帝には面会することができ、こちらの国の状況を伝えることができたらしい。
女帝からは世界会議への参集を呼びかけられた。
あのお嬢様の事だ。帝国が破壊された事に対して怒り心頭なのだろう。
議題はもちろん、ドラゴン討伐に向けた統一軍の結成について。
しかし俺は、このタイミングで国を離れるわけにいかない。
ウィリアムに代わりに行ってもらうことにする。
基本的に統一軍の結成には反対しない。
ドラゴンの討伐も協力すること。
これらの事を伝えるように託し、ウィリアムは帝国へと赴いた。
ウィリアムを待つ間、国の傷ついた設備を改修し、採取できたわずかなサンプルをさらに解析していた。
数週間後・・・泣きながら帰ってきたウィリアムがいた。
「ずみまぜん・・・」
「どうしたんだ!?」
ウィリアムの話によると、各国の代表たちの話が行われ、女帝の圧倒的な力により統一軍の結成がなされた。
しかし軍事費や人員には偏りがある。
大部分が俺の国が負担することになった。理由は現時点で被害が少ないこと、撃退経験があることが理由だ。
そして指揮権は俺が担当することになった。
つまりウィリアムは交渉に負けてしまったようだ。
唯一、指揮権や自由度の高さ、さらに一部の軍事費などは他国に負担してもらっている。
交渉は経験がものをいうところだ。これから少しずつ学んでいけばいいだろう。
さて、目下の課題はドラゴン討伐を任されてしまったことだ。
戦ってみた感じ、一般兵がいくらいてもしょうがない。
あの巨体だ。並みの攻撃では全く歯が立たない。
ブレスに薙ぎ払い範囲攻撃されれば、あの帝国ですら、半壊させられた。
何をとっても強力過ぎて、どうすればいいか検討もつかない。
俺が持つ強力な攻撃も耐えられてしまった。あれを続けたとて倒しきれるか・・・
それにまだまだ強力な技を持っている気もする。
思考は止まらない。しかしいくら考えたところで分からない物はわからないのだ。無理やりにでも止め、行動に移す。
まずは仲間集めだ。俺は有力な戦力に当てをつけ、手紙を出す。
次に重要視することは、ドラゴンの調査。
あのドラゴンは一体どこに表れるのか。ヤツの弱点は何なのか。そもそもあれはいったい何なのか。
自分の城に作った研究所にこもり考える。
今までの研究結果だと、ダンジョンがある場所かつ黒点が大量に出現する場所に表れる。
実際に観察した様子ではダンジョンに表れる魔獣を食していると考えられる。
黒点の上昇は魔素濃度が急激に高まると発生する。
まるでバランスをとるようにその場の魔素を吸収し、元の世界とつなぎ、魔素と物質の交換を行う。
原理は不明で、コントロールはできない。
ドラゴンが黒点を発生させているのか?いや、あれはただの自然現象だと思う。いくらドラゴンが頂上の存在とはいえ、自然現象そのものを操るようなことは、できないだろう。
魔法使いでも無いのだから・・・
思考を重ねていると、扉のノック音が聞こえてくる。部下の一人だ。
どうやら、先日の戦いでドラゴンに食われた魔獣の遺骸を回収できたらしい。早速現場へ駆けつける。
港へ行くと、一体の海洋型魔獣が横たわっていた。
完全に絶命しており、差し当たって脅威はない。完全にドラゴンの顎によって腹が破られている。食べるためか?
しかし、その場所以外にこれといった外傷が見られない。傷は大きいが、これほど大きい魔獣が絶命するとは考えられない。食事のためかと思ったが、違うのか?
もっと他の要因があるはず・・・
「この死体を徹底的に調査してくれ、構造から、魔素量に至るまで頼む。」
俺はお抱えの調査員に残りの調査を託し、仮説を考える。
仮に食事ではないならば、なぜ魔獣を狙っているのか。
次々と上がってくる情報をまとめつつ、ドラゴンの撃退方法を考える。
真向からぶつかって倒すのは困難。しかし、この世界は過去にドラゴンと対峙し、乗り越えている。
ならば・・・




