魔王の国Ⅱ-3
「魔王、来たよ。」
ドラゴンを観察していると色々な部隊が到着する。
国を守護する強力な魔術師達を筆頭に陸戦戦力に少し遅れて海戦戦力が集合しつつあった。
よし、これだけ集まれば・・・
わずかながらに安心した矢先。ドラゴンの大きな口が開く。
今までの経験から大規模な攻撃が来ることは自明だった。
俺が風の防御を展開するよりも先に目の前に水の壁と竜巻が湧き上がる。
水の魔術師であるノアと風の魔術師であるメリッサが起こしたものだ。この二人に雷の魔術師であるライを含めて三すくみ
魔王の国に属する若い三人娘。しかし実力は各国の有力な魔術師を優に超える。
魔王の国はその性質上、各国の厄介者や実力者が集まっていた。特に魔術的に強力な力を持ちながら、コントロールできていなかった者達を積極的に受け入れて、指南を行っていた。
彼女たちはノエルが集めた子たちだ。
二人が発生させた魔術はドラゴンのブレスを相殺する。
ドラゴンはウィリアムにも劣らない、大出力の火炎を放ち、辺りに轟音を響かせる。
水を含んだ竜巻は轟炎とぶつかり、勢いを打ち消す。
しかし炎の方が勢いが強いのか、竜巻を押していた。
すごい
あの二人はこの国でも、トップの実力者だぞ。
ライはしっかりと次の一手を用意していた。
電撃をまとった槍を投擲する。
いつもなら、魔獣を貫通し、高い殲滅力を誇る。
しかし、ドラゴンはそこらへんの魔獣とは異なる。両角に青白い電気が走ったと思うと、角の間から強力な電撃が発生した。
電撃は槍に当たり、爆発を起こす。槍は跡形もなく飛び散った。
「結構全力だったんだけど・・・」
「もっと力を籠めないといけませんね。」
「くっそぉ」
三人は、目の前のドラゴンの強さを肌身で感じる。明らかに今までの魔獣とは異なる。圧倒的な存在。
ドラゴンの姿が一瞬ぶれたような気がした。
気づいたころには長いしっぽを鞭のようにふるい、展開していた兵士たちを吹き飛ばす。
早すぎる!どうやってあの巨体で動いているんだ!?
土壁を何枚も生成し、尻尾の攻撃をそらす。
すぐに後方に展開していた魔石使い達が回復の魔石を使用する。
回復の魔石は致命傷ではない限り有効な回復手段だ。
一気に兵士たちが動き出し、乱戦となる。
魔術が付与された武器がドラゴンに向かって放たれるが、硬い鱗に阻まれ、全くダメージにならない。
艦船からは砲弾が次々と放たれる。ダメージにはならないが、強い衝撃は行動範囲を狭めるのに十分であった。
されども異常な存在。勢いよく羽ばたき、暴風で爆風を避ける。
あまりに巨大な体は勢いよく動かすだけで、大きな被害を巻き起こす。
らちが明かないな。
そこへ一つの輝きが高速で近づく。
「みんな下がって!」
ウィリアムだ。
ウィリアムは両手に白く輝く炎をまとわせる。
高速で移動し、そのままドラゴンの横顔を殴りつける。良い一撃が入った。
ニッホンのタカミネと戦った経験が生きているのか、重い一撃だった。
ドラゴンは嫌がるように後退する。
そしてまたブレスの構えをとる。
ウィリアムも迎え撃つように巨大な炎の塊を作り、圧縮していく。
互いに同じタイミングで、炎がぶつかり合う。
拮抗している。いや、わずかにウィリアムの方が強いか?このままなら押し切れる。
ウィリアムの炎はドラゴンが吐く炎を少しずつ押していき、あと少しでドラゴンに到達しようかというときだった。ドラゴンの目の前で炎が膨らんだと思ったら、突然爆発を起こした。
目の前が明るくなり、ウィリアムの視界が一瞬だけ塞がる。
ドラゴンはウィリアムよりも高く舞い上がり、しっぽがたたきつけられる。
ウィリアムは炎を吹き付け減速しながら海に落ちる。
すぐに海から上がり、一度後退する。
炎をうまく使い、衝撃をいなしたようだ。
各部隊がそれぞれに攻撃するが、悉く反撃されボロボロだ。
「みんな、すまない。時間がかかった。引いてくれ!」
俺はただ見ていたわけじゃない。
この周辺の魔素を掌握するのに時間がかかってしまったのだ。
しかし、みんなが時間を稼いでくれたおかげで、十分に魔素を手中に収めることができた。
「まずは風だ。」
周りの空気の流れが変わり、ドラゴンを取り囲むように風が吹き、俺の手を振り下ろす動作とともに大量の風が吹きおろしドラゴンは海にたたきつけられた。
「次は海だ。」
海はまるで水あめのように粘度を増し、ドラゴンにまとわりつき、その体を海へと沈めていく。
海はさらに形態を変化させ水の槍となってドラゴンに押し寄せる。
海の中で、無限の槍が生成され、ドラゴンに襲い掛かる。
薄い羽や、脆い角は簡単に貫かれ破壊する。
鱗も次第にはがれていき、生傷が増えていく。
このまま終わるとも思えない。次の準備をしよう。
上空の空気と海を温めていく。一時的に大量の水蒸気が発生する。
俺の準備などお構いなしに、ドラゴンの容態が急激に変化する。
体中に魔素がいきわたる様子が見て取れた。
くる!!
ドラゴンの周りを覆っていた海水は全て吹き飛んだ。体色が変化し、マグマがあふれるように赤みが増す。
やはりな・・・この程度では倒せないか。
次だ。
上空の温めていた大気の圧力を一気に低くする。水蒸気は雲になり、雷雲を作る。
普通ではありえないほどの雷雲がドラゴンの真上にだけ出現する。
三すくみも意図を組んで手伝ってくれたようだ。
ドラゴンは身にまとっていた鱗を飛ばし攻撃してくる。
風の防御をしているおかげで、だいぶ減速して届く。皮膚の薄皮を切る程度だ。
みんなの手伝いもあり、十分に電力はたまった。
「去れ」
俺が振り下ろした腕に合わせて、光の一撃がドラゴンに降り注いだ。
光の中から現れたのは墜落するドラゴンだった。
全身を黒焦げにし、煙を吹いている。鱗は割れて、繊維状の物が逆立っている。ところどころ火がたっているが、着水と同時に消火した。
「やったか?」
誰かがそれをつぶやいた。
あ、それは・・・




