アカウ村2
村長と話した後、ギルド所有の宿に案内された。場所はギルドの隣だった。
鍛冶屋に行って装備を整えよう、外に出た時である。
「どいてください!」
眼鏡をかけた20代ぐらいの青年が、走ってギルドに入っていった。
かなり焦っているようだ。
「なにかあったようです。私たちもいってみましょう。」
後ろにいたアレクに促されて、もう一度ギルドに入った。
そこに居たのは、例の奇病にかかった患者だった。
明らかに顔色が悪く、腕の皮膚に張り付くように鮮やかな青色の魔石がついていた。
これが体中に見られる。
患者さんは苦しんでいるようには見られない。ただ色白でやせている。
治療を行うために奥の部屋に運ばれていった。
青年が作業している姿を見ているとギルド支部長が教えてくれた。
「彼はこの村に住んでいる医者なんです。
この病が流行りだしてから、ずっと休みなく患者を診てくれています。患者は徐々に減ってはいるのですが、肝心の何故こうなったかわかっていません。
いつ再発するかわからないのです。すみません身もふたもない話をしてしまって、暗くなってしまいましたね。今日は、休んで明日から調査のほうお願いします。」
ギルド長は深々と頭を下げ、奥の部屋に帰った。
日が明けて、俺たちは、まず採掘場へ向かった。
採掘場は二つあるらしいが一つは採掘量が減って、今は閉鎖しているらしい。
「う~~ん。」
「タロウ、何を考えているのですか?あの奇病の事を考えているのですか?我々は医者じゃないんです。戦闘の事を考えてください。」
「わかってるよ。だけどあんなの見たら何とかしてあげたいと思うじゃないか。」
「それには同意できます。まるでおとぎ話見たいです。」
「おとぎ話?」
「はい、私は王国出身なのですが、そこに住んでいた時によく聞いていた話です。勇者伝説の一部ですよ。
『むかしむかし、悪魔の住んでいる滝がありました。
悪魔は自らの血を出して、森の生物たちを呼び寄せていました。その血は大変美味で多くの生物がこぞって飲みに来ました。
しかし、それは悪魔の呪いで、その血を飲んでしまった生物は悪魔のいいなりとなってしまいます。
いいなりとなった動物たちは悪魔のために食べ物を集めました。人間たちを襲いました。
連れ去られた人は数日前に体に宝石が生えてきました。村人は宝石が生えてきた人を地下深くに隠してしまいました。
村人は、この一大事に大変困っていました。
そこに光の勇者がやってきて瞬く間に悪魔をうち滅ぼしてしまったのです。勇者の光は傷ついた人を癒し、村を元に戻しました。』というお話です。よく言うことを聞かない子供に対して使われていました。悪魔に連れ去られるぞと。」
「なるほど、子供にはよく効きそうな話だな。っとちょうどついたようだ。」
「そのようですね。」
昔話は何らかの事件や事故を元ネタにしている事が多い。今回の件と直接関係しているかどうかわからないけれど、頭の片隅には入れておこう。
そして俺たちはすっかり静かになった現在、使われている採掘場についた。
採掘場の奥へ進んでいくと・・・・何もなかった。
採掘場は、きれいに保たれており、ところどころに採掘の後が見て取れる。しかし、特に異常は見られない。
「タロウ見てください。あの湧き水の下に見える鉱石は水の魔石です。」
アレクがすぐに魔石をつかもうとする。
「待った! それに触ってはいけない。」
「? どうしてですか。」
「何が原因かわからないからな、少しずつ調査を進めていかないとな。」
そう言って俺は小瓶と厚手の手袋を取り出して、そこに流れている水ごと魔石を小瓶の中にしまった。
採掘場を出てあたりを探索するがめぼしい情報はなかった。
「アレクあれを見ろ、シカの亜獣だ! にしては落ち着いて水を飲んでいるな。」
「亜獣だって水ぐらい飲みますよ。」
「そうか? 俺が会ってきた亜獣は体力尽きるまで暴れまわっていたやつばかりだった。」
「確かに私もそんな気がしてきました。どうしますか?」
「亜獣だ。どちらにしろ、倒すしかないだろ。」
「ですね。」
亜獣一体であれば難なく倒すことができた。
「アレク このシカを持ち帰りたい。それからこのシカが飲んでいた水も持ち帰る。亜獣増加のヒントになるかもしれない。」
「着眼点が冒険者じゃないですね。まるで研究者のようだ。」
「そうか? まぁ俺なんて現役の人たちの足元にも及ばないよ。まぁそう言ってもらえると悪い気はしないな。できれば夜も観察したいところだけど・・・」
「それは承認できません。二人しかいないですし、夜間に少ない明かりで亜獣と戦闘するなんて自殺行為だ。」
さすがに冷静だ。こういう時は周りが見えなくなるのはいけない癖だな・・・
「・・・了解だ。」
村に帰還してギルド支部長に借りた大部屋で、分析の準備を始める。
今回の依頼を受ける前から、帝都の鍛冶屋に依頼して作ってもらったものだ。都合よく今回は大活躍しそうだ。
それは光の魔石を使った顕微鏡。木を筒状に加工して、レンズをはめたものだ。
このレンズは大変だった。質のいいものが作れなくて、苦労したものだ。何度鍛冶屋に通ったことか・・・
さっそく採取した水や、亜獣の肉、水の魔石など観察を開始した。
「タロウ、私はギルド支部長に依頼されて野獣退治に行ってきます。村人が外に出なくなって野獣がはびこるようになったらしいです。」
「おう、ほどほどにしとけよ。」
アレクは明らかに戦闘民族だ。
動き足りないのだろう。
「・・・そちらこそ。」
いつの間にか夜になっていた。
まず、シカの亜獣を観察してみたが、他の亜獣と似たような症状をしていた。それ以外の特徴らしい特徴が無い。
次の日は水の魔石を重点的に観察してみたがサンプルとなんの違いも見られなかった。
また次の日はぞれぞれの場所で採取した水を観察した。
何も見つけられなかった。
一つあるとすれば、明らかに鉱山に近づくほど水に魔石が含まれていたのだ。
だけどそれは当たり前なのではないのだろうか、鉱山なのだから。




