魔王の国Ⅱ-2
安定した日々が続いて、子供たちの成長を見て、それがまだ続いていくと思っていた。
しかし、トラブルというものは、押しなべて突然やってくる。
「魔王様、どうしても謁見したいと申し出る者がおりまして、自分はルーナ村から来たといっています。」
「ルーナ村!?分かった。応接室に通して。」
ルーナ村。
懐かしい名前だ。いや、あの村出身の人間が一人この国に住んでいるけど、その子じゃない
「お久しぶりです。タロウ殿。今は魔王様ですかな?」
「久しぶり、グラム。タロウでいいよ。それで今日はどうした?」
「お互い忙しい身、前置きはなしにしましょう。遺跡の魔獣が消失しました。こちらその様子を表した絵です。」
!?
絵を見ながら頭の中で言葉の意味を考える。
たった一言だったが、とても受け入れがたい情報だった。
あのドラゴンのようなトカゲの魔獣は勇者と呼ばれる男の封印で動けなくなっていたはずだ。
「封印はどうなった?」
「壊れていました。何が原因で壊れたかは分かりません。しかし、あの魔獣が誰にも気づかれず姿を消すなんて、ただ事ではありません。急いで報告に上がった次第です。」
巨大な魔獣が誰にも気づかれず、地下からいなくなった。
・・・ここ最近魔獣の活動が活発になっている。
伝説といわれる魔獣も何体か確認されている。
とても偶然に起きたとは考えられない。調査をいっそう深めなければ・・・
「分かった。教えてくれてありがとう。こっちでも調査してみるよ。」」
「よろしくお願いします。・・ところでリリカは元気にしていますか?」
「ああ、元気にしている。昨日も子供たちと一緒に遊んでいたよ。会ってくか?」
「いえ、遠慮いたしましょ。彼女にとって今はいい環境のようです。わざわざ古い人間が会うこともないでしょう。」
「そんなことはないと思うけどな。まあ、お前がいいならいいよ。そうだ、この後時間あるか?一緒に飲もう。」
「ええ、いいですよ。お供しますとも。」
それにしてもここにきて、伝説級の魔獣の行動。
活発な魔獣たち、黒点の増加、関係ないとは思えない。
せめて自分の国だけでも隅々まで見ないと・・・何かあったらすぐに対応できるように・・・
それは突然やってきた。
まるで噴火のように魔素は湧き上がり、ソイツは地中から湧き上がった。
空を飛翔し、近くにあった始まりの森を焼き尽くした。
すぐに近くのニッホンと帝国から兵士が出兵し、討伐に当たった。
しかし、異形のそいつは、常識をはるかに超えた攻撃を行い、兵隊たちよりも早く移動し、兵隊たちより高く飛び、一方的に薙ぎ払った。
兵士たちは火の海に沈み、吹き飛ばされ、辺りには人間だったものが散らばった。
いわゆるドラゴンと呼ばれる魔獣は海に潜り、どこかへ消えたという。
この一報は世界中を駆け巡った。
同時にどこから現れるかもわからない驚異の魔獣に世界は混乱した。
「魔王様、ドラゴンについてですが・・・」
「分かっている。すぐに防衛網を強化せよ。」
「はっ」
城内をあわただしく兵士が走っていく。
指示を出しながら、研究室へ走っていく。
「どうだ?」
「予定通り観測できました。」
紙の束から一部を引き出し、描かれた曲線を見る。
黒点の大きさと、出現数を表している。
ドラゴンが現れたと言われている場所から始まりの森までのデータを見ると、明らかにその数量が大きくなっている。
どういう理屈か、全く分からないけど、これまでの観測より黒点の出現数や大きさとドラゴンの出現には関係がある。
黒点の出現を観測し続ければ、次にドラゴンが現れる場所が予測できるはずだ。
もちろん、自分の国の周辺に限られるが、それでも準備出来るのと、そうでないのは大きく違う。
「このまま観測を続けてくれ、大きな反応があればすぐに知らせてほしい。」
「了解いたしました。」
それにしても一体どこから来るんだ。
思い悩んでも、わけのわからない生物の行動なんて読めるわけがない。
何も起きないまま数日が過ぎた。
かき集めた勇者の日記を見返す。
彼の記録によれば世界各地を回りながら戦闘をしている。
これといって決まった場所は見つけられない。
各地で勇者と魔獣とドラゴンのみつどもえの戦いをしている。
これもそうだ。こっちも・・・ん?
必ずと言っていいほど三つ巴の戦いだ。魔獣と戦っている。
勇者はドラゴンが現れてから、該当の場所へ移動している。それまでドラゴンは何をしているんだ。
ここ数年で集めた古い文献をあさっていく。
様々な文献でドラゴンは魔獣と共にいる。
多くの場合で戦闘している。時にはその場で食べているらしい。
まさか食糧として食っている?
魔獣が多くいる場所・・・ダンジョン。
そこで血の気が引く。
この国のすぐ近く、海底にダンジョンがある。
バンっと扉が開く。
執務室になだれ込むように研究員が入ってくる。
「魔王様、大量の黒点が観測されました。場所はここです!」
研究員の言葉と同時に、国中へ響く地鳴りが聞こえた。
窓から外を眺める。
ダンジョンがある海の方を見る。
本来はありえないはずの、うごめく巨大な影が宙に浮いていた。
あれが・・・ドラゴン。
部屋にリナとノエルが入ってくる。
「あなた。」「タロウ。」
「二人とも、子供達を安全な場所へ、緊急防衛だ。」
「分かった。」
二人はすぐさま行動に移る。
二人だけじゃない。
ドラゴンが来ることはみんな分かっていた。多くの人が、すぐに動き出す。
俺も窓から飛び出して海へ向かう。
そんな大した距離じゃない。
すぐに海辺へたどり着く。
ドラゴンは口に大型の魔獣がいた。
魔獣は完全に息絶えており、そのうち投げ捨てられる。
ドラゴンの見た目は鋭い牙に大きな口、羽毛のない大型の羽に頑丈な鱗で全身が覆われている。手足をしっかりともち、いくつもの魔石が至るところに見られる。
まるでゲームのボスのようだ。
18mはあろうかという巨体をゆうゆうと浮かせて俺たちを見下ろしている。
とうとうおいでなすったな・・・




