海の上-6
長い旅の中で、知りえた事実だ。勇者には子孫が続いた。
「僕は、その勇者の子孫です。」
!?一体どういうことなんだ・・・
「正確には勇者の末裔が、ニッホンの国を治めることになっています。長い歴史の中で、その事実が気に入らない人々や魔獣討伐の矢面にたつことで死に至ることも多かったんです。その結果、ニッホンは表の王と裏の王を作るようになりました。」
現代における、それに該当するのが、刀幻と天守だと語った。
役割としては単純で、表の王はどんな危険な場合でも表に立って人々を導く。
その過程で死しても問題ないように本当の王である裏の王がいる。
裏の王は政治の実権を握り、ずっとニッホンを統治してきた。
その張本人が目の前にいる。本人がそう話す。
実態はわからない。
けど今となりで聞いているニッホンの高官たち、そして天守の存在。
とりあえずは信じてもいいだろう。
「表の王は家柄や実力等、様々な要素で決まります。そらは僕の幼馴染です。彼女は頑張り屋でいつも全力でした。」
幼馴染・・・ということは高官かそれに準ずる立場の人間か・・・
「彼女は真面目なんです。だから昨今の魔獣騒動を非常に重く受け止めていました。それこそ色々な人に聞きまわるほどに・・・勇者伝説まで気にかけて調べていたくらいでしたから」
そんな時、俺が現れた。
しかし、俺の興味は過去の勇者に注目しており、魔獣への興味は薄かった。
だから落胆し、また孤独に、そして深刻に魔獣への脅威に向き合い始めた。
「魔石病の治療を提案したときに言われたんです。今、力を失えば誰が魔獣と戦うのか?って・・・正論ですよ。だって彼女にとってそれは使命であり、生きてきた理由です。だから強引に彼女を連れだしたんです。だって愛する彼女を魔獣なんかに殺されたくない。彼女が死なず、そして魔獣も倒せたら最高じゃないですか。」
刀幻はその後も何故、魔石病の治療を進めたか理由を話す。
曰く、魔獣の増加は一大事としてとらえている事。
今までは自分たちの戦力だけでどうにかするしかないかと考えていたが、魔王の存在や国際連合に相当するものができたこと。
数々の偶然と必然が組み合わさり、今しかないと考えたとのことだ。
「あなたと初めて会った時にもっとじっくりと話しておきたかったのですが、時間がなかったものですから・・・」
天守と刀幻の間で思惑が交錯し、今回の誘拐事件に発展した。
しかし、ニッホンはだいぶ早くから魔獣の増加をとらえているようだ。全国的に問題になるほど、魔獣が増加している。
今まで以上に力を入れて調査する必要がありそうだ。
「個人的にできる範囲ではありますが、報酬をお支払いしたいと思います。」
「なら、魔獣に関する情報を」
俺の声を遮るように大きな咳払いをして軍曹が立ち上がる。
しれっと、キサイも立ち上がる。
「その情報に関しては国益に関わる事なものですから、簡単には渡せませぬ。」
キサイが話、後ろで軍曹がこぶしを鳴らす。
「待ってください!彼には共有しましょう。彼は重要な戦力です。共同歩調をとるべきです。」
「坊ちゃま、そうはいっても他の面々もありませぬ。事を勢いでは身を滅ぼしますぞ。」
「お静かに!病人の間です。」
決して大きくはないが、しっかりと聞こえるリナの声で場に静寂がもたらされる。
「ん、う~ん。」
タイミングよく眠っていた天守が目を覚ます。
「ここは?」
「そら!良かった!。」
刀幻は嬉しさのあまり天守を抱きしめる。
「こら!刀幻。重い。どかないか・・・体が重いな。・・・それから何も感じぬ。」
「調子はどうだ?」
俺は刀幻の脇から天守の様子をうかがう。
「風よ。・・・」
魔術を使うかと思ったが、何も起こらなかった。
「治療効果、記憶に関しては問題なさそうだな。後は身体か。こっちは時間がかかるだろう。入念に体を動かしてリハビリをすることが大切だ。」
「・・・何故、治療を施してしまったのだ。今、力を失えば魔獣に対抗する手段が失われるのだぞ。」
「そら、君だけが頑張る必要はないんだ。みんないる。国家間の連合もできる。一人よりもみんなで力を合わせた方がいいんだ。」
「そうはいっても、敵は強大じゃ。かの龍の復活も否定できない。伝承によれば龍は勇者一向の姫の祈りによって静まったらしい。私は大それた存在じゃないけど、龍と道ずれぐらいはできよう。」
「ねぇ、そら、結婚しよう。」
その場にいた全員が驚く。
「な、突然、何を言い出すんじゃ!話を聞いておったのか?」
天守は、それまでのすました表情から、分かりやすく顔を赤くする。
「うん、聞いていたよ。僕は君とずっと一緒に過ごしたい。例え、どんな困難が降りかかろうとも一緒に乗り越えて、年老いるまで一緒にいたいよ。そらは僕のこと嫌い?」
天守はそっぽを向き何も答えないが、時間が経つと、ようやく答える。
「嫌いだったら、命を懸けてまで守ろうとは思わない。」
そっぽを向いたままだったが、その表情は見なくてもわかるほど、耳まで真っ赤であった。
「うれしいよ。そら。一緒に頑張ろう。もっと世界中の人を巻き込んでさ。全人類で戦うんだ。だからそらが死ななくてもいい。これからも生きていくんだ。」
刀幻は今までキャラを隠していたのかというくらい少年のように、喜び天守に抱き着く。
「分かった。分かった。私のまけじゃ。だからそんなに抱き着くな。もう無理をしない。どちらにしろ、全力を出したのに、そこの魔王に負けていたからのう。諦めもついた。体調を見つつ、ニッホンへ帰ろう。」
言葉もなくまた刀幻が抱き着く。
かくして、ニッホンから来た一行は追いついてきた下っ端たちにお世話され帰っていた。
全く、一体なんだったんだ。




