表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

215/223

海の上-4

刀幻は一気に天守へ近づき、抱きかかえようとする。しかし、天守を取り囲むように水の膜が作られる。

刀幻は水の膜に阻まれ近づけず、さらに凍った膜が爆散し、氷の破片が刀幻の皮膚を切り付ける。


刀幻が勢いを殺しきれず、船にたたきつけられる。

大量の水が船に落ちてきた。

あんなものまともに受ければ船は沈んでしまう。


手に生み出した圧縮空気弾を電気温める。

魔素の消費が激しいが、四の五の言っている暇はない。

十分に熱くなった空気を、大量の水にぶつける。


水と空気は衝突し、大量の蒸気が発生する。

しかしあまりにも大量の水は、ギリギリ船を躱しながら落ちていく。

視界は水で覆われ暗くなる。


「水よ、咲け」

視界が晴れた瞬間、しっかりと聞こえた言葉に船に付着した水が一気に反応する。

水が凍り、氷の矢となって辺りに咲き乱れた。

船に突き刺さり、破壊される。


まずい、こんなことが!?


俺はとっさにリナを抱き寄せ、火の魔石で空気を温める。

自分の周りだけ氷を溶かし、攻撃を回避する。


他の船員もさすがベテランたちを連れてきただけはある。各々が持てる方法で何とか躱し、致命傷は避けていた。


刀幻も刀で氷をたたききる。

「何のこれしき」

刀幻は傷つきながらも、無理やり天守に近づこうとしている。


あれじゃ埒が明かない。

どうにかして、天守までの道を開かないと・・・


天守を見据える。

全く、敵も味方も会ったものではない。目につくすべてを攻撃している。

俺は覚悟を決めた。

相手を殺してでも、この船を守る。


一気に周囲の魔素を掌握する。

まず空気を加熱し、氷が作りづらい状態にする。


魔王以外の全員が一気に汗をかく。喉が渇き、唾を飲み込む。

船の周りにあった氷は全て溶けた。


次に右手に周囲の水分を集める。

海の上だ。一瞬にして大量の水分を集めることができた。


集めた水分を超高圧の水鉄砲として、天守に打ち込んだ。

天守は氷の防御を張ろうとするも、気温が高すぎるあまり、氷にならず水の膜になる。


超高圧の水鉄砲だ。

圧力差で、水の膜なんて、貫くと思っていたが、さすがは、天守である。

魔王によって周囲の魔素が掌握されているにも関わらず、海からさらに大量の水を収集し極厚の膜を形成し、水鉄砲を無効化した。


だれもが、その光景に絶望した。

どんな攻撃も彼女には通じない。


ただ一人、魔王だけはにやりと表情を変えた。

攻撃のさなか、一つの魔石を投げ入れていた。それは魔石病の治療の過程で得た知見を利用して作り出した魔石。


からからに劣化した魔石に、俺の体内で生成された魔素を流して謙譲に戻した魔石だ。

本来、体内の魔素をを劣化した魔石にいれるという行為は魔石の抵抗が大きすぎてできない。

しかし、魔法が使えるまでに成長した俺の魔素コントロールと、長い時間をかけることで、正常に戻すことができるのだ。


そしてこの魔石の特徴は、圧倒的に俺の魔素への反応性が高いことだ。

この魔石を天守が作り出した水の膜の中へ投げ入れた。


水の膜へ右手を掲げ、魔石内部の魔素を水の膜へ拡散させた。

よし、十分に広がった。


これを、こう!


水の膜に広がった魔素を利用して、天守がコントロールしていた水を奪ったのだ。

魔王によって水の膜が一瞬にして拡散され、天守の姿があらわになった。


その姿は魔石に覆われながらも、怒りともいえる悲しみともとれる表情で、両手を掲げる姿だった。

「刀幻いまだ!天守をこの船へおろせ!」


俺の言葉よりも先に飛翔し、天守へ近づき抱き寄せる。そのまま一気に船へと落ちてきた。


「よし、このまま、治療を開始する。刀幻、天守を円の中央へ、この液体を使って天守とつなげるようにしろ」

液体魔石が入った小瓶を刀幻に投げる。


俺は天守を液体魔石で描いた、円の中央へと配置する。

他の人員を確認し、治療を開始する。

天守は暴れ、言葉にならないうなり声をあげながら、刀幻を押しのけようとする。

ところどころ鋭利に張り出した魔石が刀幻を切り付ける。それでも刀幻は抱きしめる力を緩めない。


しっかりと抑え込む様子を確認し、治療に専念する。

やることは単純だ。

彼女の体をむしばむ魔石を液体魔石を通して移動させる。

移動先はこの船だ。


全ての物質は魔素を持つ。

当然、この船にも魔素が含まれる。

その魔素と人体をむしばむ魔石を結合させることは可能なのだ。

ただ、抵抗のようなものが存在し、圧倒的に接合しづらいという特徴がある。

それこそ常人には不可能だろう。


しかし、おれにはできる。こっちの世界に来てから、人生かけて魔石について研究しているんだ。

これぐらいやって見せる。


この空間全ての魔素を操る勢いで、天守の体内部の魔石にアクセスし、液体魔石で作った道を通して船の各部へ配置していく。


精密に、しかし大胆に移動させる。

天守が血を吐き始める。


「えっど、どうしよう?」

刀幻が狼狽えているが、気にしている暇はない。


天守の体は多くの部位が魔石に置き換わっている。それこそ骨が魔石でできているといってもいいほどだ。

魔素探知で調べて分かった。

つまり魔石病の治療を行って、体から魔石を抜くと、彼女の体の組織が失われる。


だから彼女の細胞に急激に成長してもらう必要がある。

使うのは大量の回復の魔石。


体の中にある魔素を魔石にしてしまうと体を侵食してしまうが、魔素のままならば、侵食がないことは確認済みだ。

しかし、一番の問題は魔素のまま維持することが非常に難しいということだ。


そこでこの船だ。

天守から移した魔石を利用して、この船から魔素を供給する。魔素のコントロールは俺が行う。

天守から取り出した魔石を魔素に変換し、回復の魔石を介して天守へ入れていく。

魔石となって失われた体の部位は一時的に俺が魔素で補う。


その隙に回復する作戦だ。

特別な人体魔石を使わずとも人の高度な治療をしたいと願い編み出した方法だが。

あまりにも難しいうえ、大量すぎる魔素、魔石を使わねばならず、現実的ではないと断念していた手法だ。

まさしく、天守にしか使えない。


船はゆっくりと、帝国側の陸へゆっくりと進行する。

突如、天守の口が開き、言葉を紡ぐ。

「血よ・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ