帝国Ⅹ-4
口に含んだ水を噴き出す。
さすがに周囲で聞いていたウィリアムも驚きを隠せない。
「お前、自分が話している事の意味わかっているのか!?」
「もちろん、分かっています。今から詳しく話しますから。」
自分の主を殺すことに詳しくも、簡単もないだろ・・・
「まず、僕は天守の事を愛しています。」
ますます意味が分からない。
「タロウ殿、あなたはニッホンの特殊技術を知っていますね。」
「ああ、知っている。魔石を砕いて武具に用いる技術だな。」
「はい、その技術は高級な人材には、さらに一歩進んだ技術が用いられます。人体の内部に導入されるのです。」
俺はニッホンで戦ったタカガネのことを思い出す。
あのこぶしは高速で振動しており、とてつもない一撃だった。
「しかし、その技術は未完成なのです。」
「未完成?」
「はい、タロウ殿はご存じのはずです。魔石病。」
魔石病。
それは、何らかの原因で体表に魔石が現れ、患者の魔素を吸収し続けやがて死に至らしめる。
「基本的には同じなんだと思います。ニッホンの上役達は皆体内に魔石に準ずるものを入れていますが、早くに亡くなるものが多いのです。そして必ず体のどこかに魔石が現れていました。」
「つまり攻撃手段として体内に入れている魔石は、魔石病のように対象の魔素を吸収し、死に至らしめると。」
「はい、僕はそう考えています。」
「なるほど、ここまでの話を聞いて理解はした。しかし、なぜそれが天守を殺すことにつながるんだ?」
「天守はニッホンで最も魔石の扱いがうまく。そして強力な力を使います。つまり、天守が最も体内に魔石を持っています。」
その分だけ、もっとも命が短いということか・・・
「何故、そのようなことを・・・天守はニッホンの王だろ?」
「それは彼女が見せかけの王だからですね。」
見せかけ?
「ニッホンの本当の王は僕です。くだらない伝統に倣って僕を隠し、変わりに天守を王のように見せています。」
頭の痛い話になってきた。
聞かなければよかったという気持ちと同時に、これからどうすればいいか迷う案件だ。
「タロウ殿。あなたは強力な魔法使いであると同時に、優秀な魔石病の専門家だと聞いています。どうか彼女に魔石病の治療を施し、長生きさせてほしいのです。」
「刀幻。アンタの話を聞いていると、天守の力の源と魔石病の原因が同じものだと考えられる。治療を行うということは力を失うということになる。それでもいいのか?大体、どうしてお前がそこまで天守の治療をさせたいんだ?」
それが刀幻の言う天守を殺すということなのか・・・
「先ほども言いました。僕は彼女を愛しているからです。僕は転生者なのですが、幼少のころから彼女と一緒に暮らしてきました。
一緒に暮らすうちに彼女のことが好きになり、彼女とずっと一緒にいたい。彼女との間に子供が欲しい。家族になりたいと思いました。だから、彼女の力をすべて奪うことになっても・・・天守としての彼女を殺すことになっても、彼女を救出し、長く一緒に暮らす。それが僕の思いです。」
どこから突っ込みを入れればいいだろうか・・・
時計を見る。
もうかなり夜も更けてきた。明日も予定がある。
一番聞きたいことだけを聞こう。
「転生者とはどういうことだ?」
「どうもこうもありません。元は地球の日本で暮らしていました。そこでトラックにひかれましたが、こちらの世界で、記憶を持ったままもう一度、生を受けました。転生物のアニメを見ていましたから、すぐに受け入れましたよ。」
全く理解しがたい事だけど、トラックにアニメ、さらには転生物という単語。
どれも聞きなじみのある懐かしい言葉だ。目の前の男が嘘を言っているようには見えない。
とすれば、俺は転移してこの世界へやってきたが、転生して世界を渡ってきた人間も数多くいるかもしれない。
「お前のように転生してこちらの世界へやってきた人は多いのか?転移してきた人間はどれくらいいる?」
「転生者はまだあったことがないので、どれほど多くいるか分かりません。転移者はかなりいるといわれています。しかし、その多くが、どこともわからない自然に放り出され、亡くなるといわれています。」
ニッホンは一体どこまで、どんな情報を持っているのだ。気になることが山ほど募る。
残念だが、今日はここまでだ。
「もう夜も遅い。刀幻の話が衝撃的過ぎて、簡単には受け入れられない。考える時間が必要だ。」
「もし、この話を受けて下されば、さらなる情報をお渡ししますし、世界会議でもお助けいたしますよ。」
刀幻はにっこり笑って見せる。
実質これは脅しではないだろうか?
刀幻は最後に聞き捨てならない捨て台詞を吐いて、立ち去って行った。
「衝撃の連続でした。どうしますか?タロウ兄さん。」
「どうもこうもない・・・今日は寝る。明日考えよう。」
「えっ」
「お前も寝とけ。明日も早いからな。それから今日の事他言無用な。」
夜更かしはいけない。
ただでさえ、頭の痛くなる話を聞いたのだ。よく考えられるようにしっかり眠らなければ。
リナが寝ている布団の中へもぐり、ようやく安眠できた。




