アカウ村
空は晴れている。一部を除いて。
それは鳥の魔獣たちだった。
体には鮮やかな魔鉱石が刺さっていて、体長が1mぐらいはあるだろうか。足には巨大な爪が、頭には鋭いくちばしがついている。トンビのようなソイツはしっかりと俺たちを見ていた。
「飛行する魔獣! そんなの聞いたことありません。」
「そんなこと言っている暇ない!あいつらこっちに向かってきている。こんな狭い場所じゃ逃げ場がない、広い場所に急ぐぞ。」
馬車を急発進させる。
アレクは馬車の天井に上り、バトルアックスを構える。
「ガアアアーーーーーーー」
一羽が馬車に追いつき、巨大な爪で襲いかかる。
だが馬車は止まることはなかった。
鳥の魔獣が一刀両断されたからだ。アレクはバトルアックスを軽々と振るう。
すごい、あんな重そうな武器を使えるなんて
「しっかり前を見てください。まだまだ来ますよ。」
「おう!」
力が入りすぎていた手をほどき、しっかりと握りなおす。
馬車を走らせ続けると広い敷地に出る。
「よしここでなら戦闘ができる。」
5~6羽はいた鳥の魔獣だが、アレクの活躍により2羽を倒すことができた。
よく見てみると残り3羽だ。
「仲間がやられたのを見て、降りてこなくなりました。なかなかの知性を持っているようです。」
「このまま去ってくれれば、くれればいいだけど」
鳥たちは口を大きく開き、体に生えている魔石が光だした。口からは何かが垂れてきた。
それは空中で火が付き、俺達に襲い掛かる。突如して火の雨が降り注ぐ。
「そんなのありかよ。アレク一発も当たるなよ!」
「見ればわかります。あなたこそ全力で避けてください!」
馬車から離れつつ、俺たちは全力で逃げ続ける。
くそっ!このままではじり貧だ。うまくいくか、わからないけどやってやる。
そう思いクロスボウで鉄矢をピッタリ真上に放つ。しかし、魔獣たちには軽々と交わされ、空を切る。
「無駄弾を撃たないでください。あそこまで遠いと当たりません。」
「わかってるよ。狙いはここからだ。」
落ちてきた矢が鳥の魔獣を横切る瞬間に合わせて麻の紐付をつけて矢を放つ。
それはちょうど矢と矢の間に鳥の魔獣が入っていた。
俺はそこに雷の魔術を放った。電撃は麻の紐を通り、朝に取り付けられた矢を伝って、落ちてきた矢に飛び移った。
空に雷の道が引かれる。
鳥の魔獣たちは雷の道に貫かれるように感電する。全力で魔術を放つ。
運よく全ての魔獣にヒットしたようだ。
「これが奇術使い一度に3体も倒すなんて・・・なんという・・・」
「なんか言ったか?」
肩で息をしながら、答える。
「いいえ、何も」
落ちてきた鳥の魔獣に、念入りにとどめを刺していく。
魔獣の処理を手分けして行っていた。
「タロウ、気づきましたか?こいつら魔獣じゃありません。すべて亜獣です。」
「えっ、でも体から魔石が大きく飛び出してるよ。」
「よく見てください。魔石の色がくすんでない、亜獣の特徴です。」
あの強さで亜獣なのか!?さらに問題なのは飛行する亜獣だということだ。
そんなもの聞いたことがない。
今まで鳥類は体に魔石が生えるとまともに飛べなくなると言われていた。
「アレク、飛ぶ亜獣なんてものを知ってるか?」
「聞いたことがありません。歴戦の冒険者ならば何か知っているかもしれませんが、今はそれを確認する手段がありません。」
「こいつの存在は、事前の情報にない。完全に不測の事態だ。」
「ギルドマスターから直接依頼されたのにですか?」
「ギルドマスターですら知らなかったのかもしれない。こいつらの体液は着火した。こいつらがずっと生きていれば今頃、ここらの森は火の海だ。」
「つまりどいうことですか?」
「最近、亜獣化した可能性が高い。」
「なるほど、そいうことですか。」
こいつまじめに聞いていながら、意外と何も考えていないな。やっぱり脳筋か。
「しかしタロウ、どうしますか?いったん引き返しますか?」
「いや、もう目的の村に近い。ここで引き返すぐらいなら村まで行って、装備を整えた方がいいだろう。」
「わかりました。ではこのまま村に向かいましょう。」
俺たちは夕方になるころには村についた。
そこは魔石の発掘地というには悲しいほどに静かだった。
「どういうことでしょう? ここは水の魔石の一大産地です。いくら非常事態と言っても、もう少し人通りがあるはずですが。」
アレクが焦ったように言う。
確かに事前の調査ではかなり栄えていたはずだが、いまは僅かに店が開いている程度だ。
「アレク、とりあえずギルド支部へ行こう。この村にはあったはずだ。」
ギルドに着くと、受付の人が、こちらを見るなり奥の部屋に通した。
「私は支部長のアランです。帝都からの使者の方々ですね。」
支部長と呼ばれたこの方は、若い方だった。しかし明らかにやつれている。事の重大さを物語っているようだ。
「そうです。この村の現状をお聞きしてもいいですか?」
そこから聞いた村の状態は想定していたものより、ひどいものだった。
「まず、原因不明の病気が蔓延していて、解決できていないということです。村の1割が感染していて、治療もできていません。
村の人たちは呪いにかかったとか、根も葉もない噂を恐れて誰も外に出ようとしません。
そのせいで、主要な財源の魔石採掘もままならない状況です。
もう一つは亜獣が急増しているということです。今まで確認したことがない個体も出現していて、こちらも処理が追い付いていません。」
「ここに来る途中、見たことがない鳥の亜獣と、戦闘になりました。こいつらもその影響ということですか。」
「ええ、おおむねその通りだと思います。急増した原因も解明できていません。お二人には、亜獣の処理と、ここらの土地を調査して亜獣急増の原因解明をしていただきたいのです。
それから、これは正式な依頼ではありませんが、採掘場の調査もしていただきたいです。すでにお聞きになってるかもしれませんが、魔石の採掘量も落ちていて、冒険者のお二人ならダンジョンや採掘場にお詳しいと思いますので。」
「亜獣の件は承知しました。魔石の方はこの土地だけの問題ではないので、解決できるかわからないですが・・・伺ってみようと思います。」
「お願いします。」
俺達のアカウ村での調査生活が始まった。