帝国Ⅹ-3
「さて、気が変わった。その方、魔王と名乗って負ったな?」
「名乗った覚えはありませんが、よく魔王と呼ばれております。タロウと申します。」
「話は聞いておるよ。強いらしいではないか、ぜひ打ちの武士と戦わせてみたいのう。そうは思わんか?」
天守は再びお付きの武士に話しかける。
武士は困ったような動きを見せるが、首を小さく横に振り、拒否する。
話さないのか?
つまらなさそうな表情をする天守。
「天守様、この会は交流の回です。戦うのではなく、もっとお話ししませんか?」
ヴェロニカはすかさず、けん制を入れる。
「戦いもよき、交流となろう。が、私は疲れた。先に部屋に戻らせてもらおう。」
「左様でしたか。では、見送りの者をつけますね。」
天守は威勢よく、交流会を抜けていった。やりたいようにやって、後はとんずらか。
あれとの交渉は骨が折れそうだ。
その後も交流会は続き、やがて解散となった。
深夜、屋敷で寝ていると、魔素探知に反応がある。
起き上がり、軽く装備を整え、外に出る。
すでにウィリアムをはじめ、数人の魔術使いが展開していた。
ゆっくりとしかし、確かな足取りで近づいてくる。
侵入者だって、こちらがすでに武力を展開していることは気が付いているはず、戦う気はなさそうだ・・・
やがて、月明りに照らされ、屋敷の領地への侵入者の顔が割れる。
いや、顔はわからなかった。何故なら仮面をしていたから、ソイツは天守のすぐ後ろで護衛についていた武士だった。
腰には一本の刀を帯剣していた。
俺をやり損ねたから、次は確実に仕留めるってはらずもりか?
「とまれ! こんな夜中に何用か!」
ウィリアムが叫び、静止を求める。
ウィリアムの呼びかけに答えるように、武士はたちどまった。
「魔王に、とある依頼をしに来た。」
「依頼?こんな真夜中にか?また日を改めよ。」
ウィリアムは敵意を感じないために、警戒を解く。
「それではダメなのだ。今この時でないと、」
武士は足を動かしたと思った瞬間には、俺の目の前にいた。
あの時もそうだ。
一瞬で目の前に現れて、切り付けたのだ。
魔素探知等の感知技術をすべてすり抜けて・・・
ウィリアムは驚いて、振り返るが遅い。
俺は経験があった。またこれをやられると思っていた。
俺にだってお前と同じように高速な攻撃はある。
武士の腕が俺の体に触れようとした瞬間、強力な電撃が武士の腕に走る。
それ以上の攻撃は来なかった。
というよりも攻撃ですらなかった。近づいても敵意は感じず、つかみかかろうとしただけだった。
武士は電撃が走った腕を抑えながら、後方へ距離をとる。
「貴様!今何をした!」
ウィリアムが魔術を起動し、攻撃をしようとする。
「待て、ウィリアム。話だけでも聞こう。」
「しかし、」
「いい、問題があったら、助けてくれ。」
「分かりました。」
ウィリアムに外で武士を見晴らせ、屋敷の中に戻り、準備を始める。
仲ではリナが待っていた。
「すまない。起こしてしまったな。」
「ええ、問題ないわ。それよりもお話は大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。君は明日もサポートをお願いしたい。今日は安心して休んでくれるか。」
「・・・分かりました。決して無理をなさらないでくださいね。」
リナは自室に戻っていった。
これでいい。今、彼女を失うわけにはいかない。
もしもあの武士が暴れたら、リナを守りながら戦闘するのは困難だ。
でもリナの部屋は防御を張ってある。一時しのぎぐらいは可能だ。
しっかりと迎撃の準備を整えつつ、武士を招き入れる。
武士は屋敷に入るなり、仮面を外す。
その見た目は、この世界でよく見かけるような、栗色の髪に、しっかりと鍛えているのか体格はいい。180cmはあろうかという大きめの男だ。
顔つきも面はいいが、極端さはない。
本当にこの世界でよく見かける顔つきをしている。
「まずは自己紹介をいたしましょう。私はニッホンの国で生まれ育ちました。刀幻と呼ばれています。」
「とうげん?変わった名だな。俺は・・・知っているかもしれないが、サトウ・タロウだ。王をやっている。魔法使いで王様。だから魔王なんて呼ばれているよ。」
もちろん存じています。という表情をしている。何か話し出すかと思ったけど、中々話し出さない。
「それで、なんの用があって、こんな夜中に押しかけてきたんだ?」
「はい、ここにはあなたに依頼があってきました。」
「それはさっき聞いた。その依頼の内容を聞こうって話だ。」
「内容を聞いたら、受けてくださいますか?」
「それは、内容次第だろ。大体こんな夜中に押しかけてくるやつの依頼だぞ。おいそれと受けるなんて言えるか!」
「至極真っ当ですね。・・・では・・・」
刀幻が話した事は、衝撃の一言だった。
「我が主、天守を殺していただきたいのです。」




