帝国Ⅹ-2
その後もロールと談笑する。
魔王の国のこと、アラスオートのこと。
それぞれの国のことを話し合う。
ひとしきり話した後、ロールは役人に呼ばれてどこかへ行ってしまった。
つかの間の休憩かと思ったが、すぐに次の人物が話しかけてきた。
「これはこれは魔王様。お初にお目にかかります。」
でっぷりと太ったからだを揺らし、ニヤついたような笑顔を見せる目の前の男はプエトジ公国の現当主、サイラスだ。
簡単な挨拶をした後、リナは後ろへ下がった。怯えている?
物怖じしないリナにも珍しいこともある。
この人の相手は俺も苦手だけど、そういってられない。
何とか対応しなければ、なぜならこの人とは、ある重要な材料の取引を行っている。
液体魔石である。
国を作ってからというもの、この液体魔石を積極的に使っている。
液体魔石は魔素の貯蔵に使える他に、伝達にも便利と魔術を中心に国を作っている俺たちからすれば、重要な物なのだ。
このサイラスはそれをわかっている。だからこそ厄介だ。
同時にこちらにも分はある。
現在、液体魔石をよく使うのは俺たちだけ、俺たちを失えば有効な商売先を失うことになる。
しっかり対応しなければ・・・
「サイラス様、初めまして常日頃から様々な取引をしていただきありがとうございます」
「それはこちらもですな・・・我々の土地は寂しい土地ですからな。あるものといえば、砂と活気のある人ぐらい。」
サイラスの視線は俺を見ていなかった。何故かリナの方へ視線が写っていた。
その視線を受けて、リナは隠れるように俺の後ろへ移動する。
あまりに露骨すぎる。
嫌悪感を覚えるが、同時に疑問も覚える。
一国の王が、こんな露骨な行動をとるだろうか。
まるでリナを遠ざけたいような行動だ。
「寂しい土地だなんて、宝石のような湧き水が湧き上がっているではありませんか。」
「たくさんあっても使えなければ、ないのと同じことですな・・・砂と同じです。」
「使えないかどうかは、試してみないとわかりませんよ。」
サイラスは’それはどのような’と続けようとした。しかしその声は辺り一体のざわつきによってかき消される。
「っと、お出ましですな。」
この祝賀会の主賓が登場したのだ。
下品さのない金色のドレスに身を包んだ女帝、ヴェロニカ・アダムズはゆっくりと階段を降りてくる。
数年前にも見たような場面だが、数年前と打って変わり、自信に満ち溢れ、実力を武器にし、全てをねじ伏せる笑顔だ。
女帝は各有力貴族に囲まれて挨拶を交わしている。
しかし、すぐに自ら移動し、とある一団に声をかける。
王国だ。
終戦した王国は先王が退任し、まだ幼い王子が新王として国の上にたつことになった。
新王は非常に聡明だと聞いているが、まだまだ幼い。
中学生ぐらいだろうか。小学生ぐらいかもしれない。
この会場の中でもひときわ小さい。
ヴェロニカは新王と平和条約を結び、正常な国交を開こうと努力している。
今のところはうまくいっているように見える。
ちなみに俺が新王に挨拶にいったら思いっきり怯えられた。
どうやら王国の会議室に乗り込んだ時、あの会議室にいたらしい。
さすがに怯えられた状態でまともな話し合いはできない。
挨拶だけで終了した。
記憶をさかのぼっていると、女帝と目があった。
次は誰と話すのだろう?
そう思っていると、女帝は、こちらへ歩いてきた。
サイラスに用があるのか?
そう思って辺りを見回すと俺とリナだけになっていた。
そして気づく頃には、目の前に女帝が立っていた。
「お久しぶりですね。ヴェロニカ様」
「ええ、お久しぶりですね。大変お元気そうで、今日もお力を示してくださったようで」
城の前での出来事を言われているようだ
やっぱりやりすぎだったか。
「そのお力、ぜひとも世界のためにお使い頂ければどんなに幸せな事か」
女帝はこの世界会議のもう一つの議題のことを言っている。
この世界会議は世界の経済に関する調整を行うこと。これは主に役人の間で調整が行われる。
もう一つ、魔獣の過激化。
いま世界では歴史上類を見ないほど魔獣が大量に出現し、狂暴化している。
世界はこの魔獣問題に対処しようとしている。
「リナさんもお久しぶり」
「お久しぶりです。せっかくだから色々とお話したいですわ。」
「ええ、またお茶会を開きますわ。ぜひ参加してくださいな。」
二人は何時の間にこんなに仲良くなったのか。
なんにせよ。仲がいいことは良いことだ。
二人は何の話をしているか分からない。
が表情を見るに機嫌は良さそうだ。
しかし、そんなひと時もつかの間乱入者が現れる。
「女帝ともあろうものが、小国の小娘と楽しく談義等、まるでお花畑で過ごしている気分じゃ。」
「これは、天守様。ご機嫌麗しゅう。」
ニッホン国の当主、天守と呼ばれる女性が話しかけてきた。
豪華絢爛な和装を身にまとい、煌びやかだ。
後ろには顔を隠した武士が護衛として身構えている。
あの武士から感じる魔素・・・ニッホンを出るときに俺を切ったやつか?
懐かしい感じがする。
「小国であろうと何であろうと関係ありませんわ。大事な交流です。せっかくの交流会ですし・・・天守様もお楽しみいただけていますか?」
「ああ、しかと帝国の幸を堪能しておる。わがニッホンに劣らない一品じゃ。そちもそう思うじゃろ。」
天守はお付きの武士に話かけ、武士は無言でうなづく。
しかし、プライドが高いのか、いちいち刺さるような話し方をしている。というより、わざと刺さるような発言をして、相手を乗せようとしているのか?
どちらにせよ。分かりやすく攻撃的だ。ゆえに、天守の言葉遊びに乗ってはいけない。




