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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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207/222

帝国Ⅹ-1

世界会議の当日。

俺たちは屋敷から魔導四輪を使って移動する。

「リナ、準備できたか?」

「ちょうどできましたわ。お待たせいたしました。」


雪で覆われた白銀の世界の美しさを見た。

リナは銀を中心としたドレスで、髪色と合わせてよく似合っていた。

ここ数年で少女のイメージは、成熟した女性へと変わった。それは確かなものになる。

「もう、何か言ってください・・・」

「ああ、きれいだよ。改めて惚れ直していたんだ。」

「・・・意外とそういうことを簡単に言いますよね。あなたは。」

「いいだろ。」


後ろから派手な咳払いが聞こえる。

使用人が時間だから早くいけと目で語っていた。


「魔導四輪から降りるときは私から降りますね。あなたは最後に降りてください。それから高濃度の魔素を放ちながら降りてください。」

「なんでだ?」

「私たちは注目の的です。もちろんなめてかかられることもあるでしょう。古典的ですが、力を見せつけることは有力な手段なのです。」

「なるほど、ウィリアムたちも舐められると大変だよな・・・わかった。」


すぐに帝国城の前につく。

すでに多くの人がいる。

城に入っていく人もいれば、待機して誰かを待っている人たち、さらに立ち話をしている人たち。

目的は多種多様だ。


ウィリアムが魔導四輪から降りていくと周囲がざわめく。

聞こえる噂話に耳を傾ける。

あれが魔王の使者。

全員が魔術を使える。

魔王は残虐無慈悲で色欲魔。・・・っておい!どんな噂になっているんだ?


言われたい放題でなんだか腹が立つぞ。

全ての従者がおり、聞き分けられないくらい辺りが騒がしくなる。


それもそのはずだ。

俺の国から連れてきた従者は噂通り魔術使いが多い。より正確な情報を持っている人間ほど、しっかりと俺たちを見極めようとするだろう。

目立つ要素が十分だ。騒ぎになる前にとっとと城の中へ入ろう。


しかし、そんな喧騒は一瞬で静まり返る。

従者が俺たちの魔導四輪の扉を開け、リナが降りたのだ。


誰もが、その美しさに見ほれた。

銀色の輝きは冬の、言葉を奪う美しさに似ている。

しかし、彼女の表情は、慈母にあふれた優しい笑顔だ。


少しずつ、氷解するように声が聞こえる。

どの声もリナの美しさをたたえるものばかりだ。

当たり前のようにうれしくなる。


されど褒めたたえる言葉だけではない。

魔女という言葉が聞こえてくる。魔王の国に住まうがゆえに恐れられる部分は消えないか・・・

月並な感想しか出てこなかったが、聞き捨てならない声が聞こえる。


俺、アタックしちゃおうかな?馬鹿、お前なんか相手にされないよ。


小僧どものただの戯言だ。

それでも感化できない。それほどまでに俺はリナに惚れていた。


あふれだす思いの強さが魔素の強さに滲みでる。

リナには少し魔素を出しながら、なんて言われていたが、そんなことは忘れて、魔素の制御をやめていた。


周辺一帯の魔石すべてに影響が出る。

街灯は点滅し、魔導四輪は起動と停止を繰り返す。

魔石を含む道具は急停止したり過剰に動作しだす。


魔石、魔術に精通するものは、濃密な魔素に溺れるような感覚になる。

未熟なものは本当に呼吸が苦しくなる。


完全に周囲はくるわされていた。

そんな中、全く意に帰さない者がいる。

リナだ。

リナとノエルだけは俺の魔素の影響を受けない。彼女は一言だけ、さあ、行きましょうといった。


その一言だけで、辺りを埋め尽くした魔素は拡散し、消え失せた。


周囲の人々は何が起こったかと思い辺りを見回す。

目立った変化はなく、ただ二人、リナに腕を組まれながら歩く魔王の姿だけだった。

従者も何もないかのようにその後ろをついていく。


たった一瞬。

されど、その一瞬で魔王と彼の国の実力をわからされた。リナの取り組みは結果として大成功だった。


案内された部屋に入りウィリアムは肩の力を抜く。

「もう!タロウ兄さん。やるならやるって先に言ってください!めちゃくちゃびっくりしたじゃないですか!」

「すまない、思わず力が入った。」


ウィリアムの文句は最もなもので、ついてきた多くの従者が座り込んだり、額の汗をぬぐっている。

唯一リナが笑顔だったことで、全てを察し、何とかついてきたのだ。

素晴らしい対応力である。

慣れた者たちだったおかげで、すぐに元気を取り戻し、所定の活動を開始する。


おれやリナも挨拶周りに事前会議と大忙しだ。

ただ、事前にやってきた帝国の役人には城前の一騒動について小言を言われた。

さすがにやりすぎだったようだ。


まずは初日、会議の前の祝賀会。

会議で険悪になる前に交流をしようという計らいだ。


例のごとくリナは衆人の注目を一身にうけていた。


「久しぶりだなタロウ。いや、今は魔王か。」

「ロールさん。お久しぶりです。今までの呼び方でも構いませんよ。」

「そうはいかん。お前は一国の王になったのだ。私のことも公の場では別の呼び方をせよ。」

「ではロール卿、此度の世界会議では、どのような取引を?」

「魔石の輸送だな。わが領地内で採取可能な魔石には偏りがあるのだ。国の内部に流れる魔石のバランスをとるためには安定した輸送が必須なのだ。そちらは何を?」

「食糧ですね。人口が急激に上昇していて、食糧の供給率が心もとないのです。」


もちろんこの会話はもっと具体的に役人レベルで話し合われている。

これは最終確認のようなものだ。

同時に他国に対するけん制でもある。それぞれの国がどんな取引を行っているかを表に出すのだ。


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