魔王の国Ⅰ-5
ちょうど、ノエルが二人目を出産したタイミングだった。
「本当にいいのか?ただの会議なんだ。代わりの者が出たっていい。」
「しつこいぞ。他の国の長が来るんだ。こっちだってタロウがいかないとメンツがたたないだろ。」
何を言い争っているかというと、俺が世界会議に行くかどうかという話だ。
普通なら参加するところだが、今はノエルが出産したてだ。
もちろん乳母もいるし、護衛もたくさんいる。
俺がいなければいけない理由はないが、俺は近くにいたかった。
「タロウさん。私もノエルさんに賛成です。あなたが行かなければ、国の沽券に関わります。」
今回はリナも見方にはついてくれないようだ。
「生まれたばかりだから、近くにいたいというのは分かりますが、あなたにはやらなければならないことがあります。この子たちが健やかに過ごせる国を残すことです。」
「リナ、タロウについていってくれ。よろしく頼む。」
「ええ、その代わり私の子供をお願いします。」
二人は協力して子育てをしている。
今回も何か、通じ合うものがあったようで、ノエルは残ることになった。
「私の騎士団も騎士団長を含め多くをおいていきます。」
「お嬢様!?」
「ふふっあなたの役目はもはや、私を守ることではありません。国の可能性を守ることです。意味は解りますね。」
「・・・本当に成長なさった。まさか、またその言葉を聞けるとは・・・」
結局、世界会議が開かれる帝国へ向かうのは俺とリナ、それからウィリアムやリナの護衛騎士数名、国の官僚とそこそこ大所帯になった。国で用意した二隻の船は順調に海を渡り、俺は数年ぶりに帝国の土地を踏むこととなった。
変わらないなここも・・・
降り立った港は何も変わらず、数年前のままだ。
帝国から迎えの車が来る。
立派な魔導四輪が何台も連なってきた。大名行列である。
「すごいですね。数年でこんなものが作られるなんて、」
ウィリアムは身を乗り出して周りの景色を楽しんでいる。
「楽しんでるな、ウィリアムは」
「こういう経験が少なかったものですから、今回は連れてくる価値がありました。」
「リナはどうだ。君もこうやってゆったり旅をする経験はないだろ。」
「そうですね。・・・とても楽しいですわ。」
魔導四輪の性能向上により、すぐに帝国領内についた。
久しぶりに帝国の屋敷だ。
「なんだか懐かしいな。」
先行して、使用人を派遣していたおかげで、屋敷は綺麗にされている。
一週間後から帝国城にて、世界会議が開催される。
それまでに準備をしなければならない。
まず向かう場所は・・・
「お久しぶりですね。マリーさん。」
「これは魔王様、ご機嫌麗しゅう。わざわざご足労頂いて申し訳ないね。」
全く申し訳ないという雰囲気は感じないが、今回も助かる味方だ。
「ここは完全な防音環境だ。いつも通りでいい。」
マリーさんの言葉を聞いて、まずは、必要な物を取り出す。
袋いっぱいの金貨に、島や、島の付近にある。孤島から採掘された宝石関連をおいていく。
そして、魔石を数個。
「ひとまず、衣装や、その他もろもろ用意していただいた分です。」
「食料や衣装のことを言っているなら、少し多いな、それ以外のことを言っているなら、ちょっと足りないな。」
「魔石は一部です。私の国にもダンジョンがあり、攻略させていただきました。今は手つかずで放置してあります。」
「さすがは魔王様。ダンジョン一つ攻略するくらいわけないってことか。それで聞いていた感じ、何か問題がありますか?」
「ダンジョンを攻略することと開発することは、別種の事業です。」
「ややこやしい話はあとにしよう。具体的には何が足りない?人か物か。」
「ダンジョンの開発経験を持つ人材はいます。しかし、圧倒的に開発道具が足りません。そこで道具を用意していただきたいです。購入を検討しています。」
「うちの道具は特注性でね。人に知られると商売あがったりなんだ。購入は認められない。」
「ならば貸与はどうですか?」
「いいだろう。費用は貸与期間の機器代だけでいい。」
「気前がいいですね。」
「お得意様だからね。今後の付き合いを見越してのことさ。そんなことより、ほかの準備は大丈夫かい?」
「ええ、城でとことん練習させられましたから・・・」
「ふん、どこまでできるか見ものだね。」
「マリーさんも参加されるのですね。」
「当然だ。私だけではない。初の世界会議だ。世界中から招かれた人物。招かれざる人物。多種多様だ。私が言うまでもないが、警戒を強めろ。」
「ええ、もちろんです。」
世界会議に向けて、衣装の確認をする。
「なあ、本当にこれを着るのか?少し派手じゃないか?」
「それでも動きやすさを考慮して抑えた方なのですよ。」
「見て、タロウ兄さん!」
ウィリアムは嬉しそうに衣装を着て現れた。
こういう礼服を着慣れているのか、堂々としている。
「似合っているよ。」
「タロウさんもすげぇ似合ってる。めちゃくちゃ強そうな魔法使いに見える。」
魔法使いか・・・王として参加するんだけどな・・・
間違ってはいないから良いか。
「あの、お嬢様、私もドレスではなく、動きやすい服がいいのですが・・・」
国の性質上、若い人材が多い。中にはドレス等の服を着慣れていない人もいる。
彼女も有力な水の魔術使いだが、出身が特殊なため、こういった服装は苦手としている。
ノアと呼ばれていて、名前のなかった彼女に、ノエルが名付けた。
「ノア、とても似合っていますよ。自信を持ってください。」
リナによいしょされてすごくうれしそうだ。
実際、似合っている。あれなら若い有力者から声をかけられまくるだろうな。
「リナはどんなものを着るんだ?」
「内緒です。当日の楽しみにしていてください。」




