魔王の国Ⅰ-3
ふと後ろから強い視線を感じる。
リナがふくれっ面でこちらを眺めていた。
「私にもしてください!」
「リナ、ありがとう。」
ノエルと同じようにリナを抱きしめる。
「さあ、急いで戻ろう。」
その後も祝賀会は続いた。
夜は明け、大臣たちでの会議が行われる。
俺はというと、とある場所へ向かっていた。
すっかり通いなれた施設へたどり着く。
国立魔石魔術研究所
俺が作った国が主導して魔石や魔術を研究する機関だ。
ここでの研究結果は国民の生活にフィードバックしている。
中には久しぶりに会う人物たちがいた。
「久しぶりだね。エマさん。」
「お久しぶりです。ここは天国です。」
エマさんの目は光輝いていた。
女帝の訪問に伴い、多くの技術者達も一緒に来ていたのだ。
今はこの魔研を見学してもらっている。
「お久しぶりです。ところで、これはどういった理屈なのでしょうか教えていただけませんか」
「ダニエルも来ていたのか。そういえば二人は帝国付きの研究員になったんだったな。頑張ってるな・・・それは教えられないな。」
「そうですか。残念です。では自分で考えるとします。」
ダニエルは残念そうに資料に目を通す。
「いくら旧知の中とはいえ、もう少し優しくできませんかな?」
帝国研究所長がやってくる。
彼もここを見学していたようだ。
「いやはや素晴らしい研究所ですな。帝国に勝るとも劣らない。さすがは魔王様ですな。」
「おほめ頂きありがとうございます。私の肝いりなもので。」
イワンはちらりとエマを見る。
エマは何かを察したのか、ダニエルを連れて研究所の奥へ見学しにいった。
「タロウ殿。率直に聞きましょう。兵器開発をやりたくなったのではありませんか?」
さすがは研究所長。
国というものをよくわかっている。
「正直に言えば、やりたくなった。怖いものだな失うということは。」
国を運営するようになり、自分の作り上げたものが、家族が、国を立ち上げるのを手伝ってくれた人々が傷つくのは見たくない。想像すると心が張り裂けそうになる。
考えたくもなかった。
でも魔獣は何の関係もなく襲ってくる。
どこにでも海賊はいる。
他国に行けば相変わらず盗賊もいる。
国の使者として他国にいっていた者が盗賊被害に遭った過去を思い出す。
被害の経験があれば、兵器の存在を否定できなかった。
「その恐怖は間違っておりません。心から他人を思うからこそ、失うことが怖い。普通のことです。あなたの経験と知識があれば・・・」
「それでも・・・それでも、やりようはある。守る方法はひとつではないのだ。」
「左様ですか。・・・ならば老人からの独り言としてお聞きくだされ。信念を突き通すことは痛みを伴います。とてもとても痛い。されど、突き通してこそ信念。すべてを貫いたとき、あなたのやり方は世界のルールとなりましょう。」
「イワン、帝国をやめたら、この国に来ないか?」
「ほっほっほ、ご冗談を。腐っても帝国代表の人間ですぞ。この身はヴェロニカ様と帝国のためにあります。」
笑顔で話すが、目の奥には確かな覚悟が見えた。
「それに、ポンポンとそういうことを話すものではないですぞ。」
背後に強い気配を感じる。
女帝ヴェロニカが立っている。明らかに怒っている。
「いや~これは、話の流れといいますか・・・」
「魔王タロウ。全く侮れないわね。行きますよ。研究長。私に内部を案内なさい。」
「は、はぁ、しかし説明するならば私より適任がいると思うのですが・・・」
「いいのです!。早くなさい!エマ!ダニエル!行きますわよ。」
女帝の一声により一団は研究室の中へ入っていった。
夜、とある一室に、女性たちが集まっていた。
ヴェロニカに、お付きの近衛。さらにエマにリナとノエルがいた。
「それでは特別会、真夜中の女子会を始めたいと思います。」
特別会ということは通常会もあるのでしょうか?リナはふと思う。近衛の方はいつも通りといった様子で手をたたいています。
エマさんは合わせるように何とか手をたたいています。
ノエルはいつも通りノリが良さそうです。
「今回のお題はどうやったら良い殿方を見つけられるかです。」
「ヴェロニカ様、またそれですか?」
「それと何ですか?こういうときぐらい、タラればの話をさせてください。今日は重要な二人の先生を呼んでいるのです。」
そういってヴェロニカ様は私とノエルに手を向けた。
わ、私!?ノエルはなんだか自慢げだ。
「では早速、どうやって魔王を堕としたのか話してもらいましょう。」
「じゃあ、私から行くぞ。あれはタロウが・・・」
それからというものタロウののプライバシーはどこへ行ったのか。あけすけな女子会が始められた。
身分を忘れて楽しんだ。
誰もが最初は恐れ多いと思っていたが、いつの間にか同年代の友として話をした。たまにはこのようなひと時も必要なのだ。
女帝はそれをわかっていたから、自ら演じるのをやめた。
あの場にいた誰もが相手を思えるよき理解者だ。すぐに彼女たちも年齢相応になった。
盛り上がった一夜を開け、数日が過ぎ、すぐに帝国の一団が帝国へ帰る日となった。
「魔王タロウ。此度はよき日々でした。お互い得るものも多かったと思います。」
「ええ、我々はまだ若輩の国。多くを教えていただきました。また、このような機会を設けられたらと思います。」
形式的な挨拶を終え、豪華な船に向かっていく。
その様子を少し離れた場所で見ていた。
「ところでウィリアム。頬の赤い印はどうしたんだ?」
「木刀で模擬戦をしたら負けて一発もらいました。最近、魔術ばかりで剣技をおろそかにしたせいでしょうか・・・」
ウィリアムはわかりやすくしょぼくれていた。
ノエルにいじられている。
そのとき、数か月に一回ぐらいで聞く緊急を伝える鐘が鳴る。




