魔王の国Ⅰ-2
ウィリアムは女帝から強いまなざしを受けてうろたえる。
この三年で成長期を迎え、三年前は目線が揃っていた女帝を、今は見下ろすぐらいになった。
この三年で外交に、勉強、ある時は魔術と、ありとあらゆることを経験した。
彼も同年代の子よりも肉厚な経験から十分な自信を持ち合わせていたが、さすがに女帝が相手となると、臆する部分がある。
何とか平静を装い、特別仕様の魔導四輪に女帝を導く、魔王の国が持てる技術を集めて作った最高級品だ。
魔導四輪は魔王城に向けて進みだす。
ヴェロニカは窓に流れる景色を眺めながら、物思いにふける。
たった数年でしっかりと街の様相を呈している。一体どんな技を使ったのかしら?
帝国とは違って、全くカーブがない。
これでは攻められたときにすぐに城に敵が来てしまいますわ・・・
攻められることはないということでしょうか?いえ、攻められても問題ないということでしょうか。
いずれにせよ考え方が全く違いますわ。
街を眺めていると、いつの間にか城にたどり着いていました。音とスピードが一致しません。
城は街の建物とは桁違いの大きさをしています。
しかし、帝国には及びませんね。
島に入ってからというもの、圧倒されっぱなしだったので、なんだか勝ち誇ったような気分になります。
いけない、ここから大事な会議です。
私は、気合を入れて重たい扉を超えました。
冒険を通して色々と経験してきたけど、さすがに緊張する。
無駄に豪華に作られた扉をくぐり、久しぶりに見る女帝が現れる。
久しぶりに見た彼女は、少女の面影は消え、大人の女性として成長していた。
「お久しぶりですね。船旅でお疲れでしょう。」
「ええ、天候にも恵まれ良い航海でしたよ。」
形式的な挨拶を済ませ、会議を始める。
会議内容は多岐にわたる。交易から、条約等、本当に多岐にわたった。
会議が終わり、後は祝賀会だ。
俺は執務室の椅子に深く腰掛ける。
慣れないことをするもんじゃない。これから数日にかけてイベントごとが盛りだくさんなのに、もうくたくただ。
「あなた、大丈夫?」
リナが甘い飲み物を持ってきてくれる。
「助かるよ。やっぱり俺には向かないな。こういうのは。」
「立派にこなしていたように思いますよ。」
「そうか。?それならいいんだけど。」
「さあ、急いで。すぐに次の祝賀会が始まる。」
リナに促され、祝賀会に臨む。といっても会議の延長線上でしかない。
あの時より込み入った話をしていく場なのだ。
せっかくのごちそうも気を張りっぱなしで、全く味を楽しめない。
ふと、女帝と目が合う。
「すまない、少し酒が回ってしまった。ちょっとだけ夜風に当たってくるよ。」
近くの大臣に話し、外へ出る。
念のためノエルとリナについてきてもらった。
「二人とも済まないな。」
「いいってことよ。」「問題ありません。」
「皆さんは仲良しなのですね。」
予想通り、女帝が現れる。
「祝賀会は楽しんでいただけましたか?」
「ええ、もちろんですよ。正直、こんなにも豪勢なパーティーを開いていただけるなんて予想外でしたわ。」
「それは良かった。みんな頑張った甲斐があるというものです。して、わざわざ外へ出てまで伝えたいことは何ですか?」
「そうですね。話過ぎると後ろのお二方の視線が怖いですし。」
ノエルは露骨に驚き、リナはわずかに表情が動く。
「二人とも大丈夫だ。冗談が好きな方なんだ。」
二人はタロウに視線を向ける。なんで知ってんだという表情だ。
あれ、落ち着かせようとしただけなんだけど。
「ふふっ本当に面白い人。と、では簡単に、一年後、世界会議を開催しようと考えています。まだ秘密ですよ。いろいろと話したいというのもありますが、せっかくなら世界で共同歩調を取れたらと考えています。その会議へ参加してほしいのです。」
世界会議か・・・正直なところ個人的には面倒くさいが、より交易を結べれば、人材の確保や食糧問題の解決糸口をつかめるか?
「ええ、わかりました。時期が決まり次第、連絡をください。可能な限り参加いたしましょう。」
「あら、すんなりと了承いたしますのね。もう少し答えを保留されるかと思っていましたよ。」
「時には、大胆な行動も必要かと思いましたので、それにこの国はまだまだ多くの国と交流をしなければならないので・・・」
「いい意味で王とは思えない考え方ですね。それでは、戻りますね。あまり長居すると、皆さんに怪しまれますので・・・」
女帝は一礼したのち、室内へと戻っていった。
「はぁ~相変わらず、突然やってきてイベントを落としていくな。」
「よろしかったのですか?」
「ああ、問題ない、実際もっと他国と交流をしなければならなかったんだ。一気にまとめて交流できるなら好都合だ。」
「そうか」
ノエルは無意識におなかへ手を添える。
「安心しろとは言えないけど、出産には立ち会うから。それだけは約束する。」
時期的にはかなり近い。相変わらず、俺はこんなことしか言えない。
ノエルの視線がこちらをとらえる。
「心配するな。タロウがいなくたって子供は産める。お前がいたって横で見てるだけだしな。お前はこの子が安心して暮らせる国を作れ。」
「ノエル、ありがとう。」
「あ、ちょ。なにすんだ。」
ノエルがいとおしくなり、抱きしめる。




